#06:クオレの人となり

 野生化した機械達――所謂機械生命体は世界各地に存在しているが、まだ彼等とて人類側兵器の全てを掌握しているわけではない。
 例えば、いまインファシティから退却し、拠点へと戻っている彼等の軍勢を追跡する有人機動兵器がその典型例である。オートパイロットやサポート用の人工知能、それに至らずとも高度なコンピュータを搭載した無人兵器であれば、彼等が有する「超干渉」によって、その制御を容易く狂わせ、寝返らせる事など容易だった。
 実際、ACを例に挙げれば、24時間戦争以後アリーナにおけるメタアセンブリ――対AC戦を前提とした徹底的なメタ張りを施したアセンブリには必ずと言って良いほど使用されるCR-H05XS-EYE3やYH15-DRONEにシステム制御の多くを担わせているACは、その高度かつ複雑化したシステムが災いし、あっけなく寝返らされている。
 これは超干渉能力が、ウィルスやボットによるものではなく、機械生命体の中に宿る「人間のデッドコピー」を植えつけられる事によって成されるものであるからだ。従ってウィルスではない彼等にセキュリティは何ら意味を成さなかった。
 こうして無個性な対AC戦想定のACは成す術もなく寝返らされたが、当然、全てのACがそうはならなかった。事実、グラッジパペット、ポットベリー、そして頭部をMHD-MX/RACHISへと換装したターボクロックは、全く影響なく行動出来ていたのだから。
 そして現在、機械軍団は逃亡の一方で超干渉能力を発動し、周辺の無人機を乗っ取って戦力に加えているが、それをACが追撃している。その頭部は、ナービス戦争時代からバーテックス戦争終戦まで殆ど見向きもされなかったH01-WASPの近代改修型MHD-RE/005や、旧型番のCR-H73Eから高性能コンピュータを廃した代わりに大幅な軽量化と省エネを施したモンキーモデルであるCHD-02-TIE、最新型頭部ではあるがYH06-LADYBのフレームを流用し、比較的旧式のシステムを使用しているMHD-SS/GRY等、比較的ローテクの部類に当る頭部が主だった。
 これらのシステムは極めて大雑把な為、機械軍団の超干渉では全くハッキングする事が出来ない。レーダーやスクリーンを乱す事は出来ても、操縦系統を乗っ取るまでには至らない。
 技術進歩に伴い実現した、高度なユーザビリティに慣れた現代人が、ユーザビリティと言う概念すらない年代モノの機械をろくに動かせないのと同様、デッドコピーが大雑把な頭部のシステムに対応出来ないのである。この状況がいつまで続くかは分からないが、このおかげで24時間戦争時代から産廃扱いされてきた頭部パーツが脚光を浴び、一線に返り咲いていたのである。
 こうなると、超干渉も役には立たず、破壊されるか逃げるしか手はなくなる。そして、現在機械生命体は逃げる事を選んでいた。量産したファシネイターたちを捨て駒とし、人類の撃破は無理だとしても、追撃の手を僅かでも遅らせ、時間を稼ぐ。
 しかし、彼等の人工頭脳ユニットは分かっていた。自分達の手の及ばぬ人類側の衛星が、此方を見張っている事を。この衛星は数日前まで故障状態にあったのだが、人類が地上からシステムを切り替え、代用する事で本来の機能とまではいかないものの、それでも自分達を追跡監視するには十分なパフォーマンスを発揮出来ている。
 機械生命体の人工頭脳ユニットはこの事態を予測し、人類側のネットワークに接続する事で、それを確証としていた。よって、仮に逃げ切る事が出来たとしても、拠点の所在地が白日の下に晒されるのは避けら
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まろやか投稿小説 Ver1.50