#05:人類の敵

、後のバーテックス戦争における彼女の評価だった。恨みつらみこそ買っただろうが、己の存在意義である強者としての道に集まる名声に比べれば取るに足らなかった。
 そんな中で、彼女は一度死を迎えた。強化人間手術に伴って脳に手を加えられたものの、その際に投入されたナノマシンによって脳細胞が変質し、脳腫瘍が発生した為であった。
 これはジナイーダに限った事ではなく、脳まで強化が施された強化人間達ならばしばしば起こっている事態だった。実際、ナービス戦争時代のレイヴンとして知られるセレスチャル卿やTATARAは、特攻兵器襲来を生き延びたものの、その直後、前者は脳塞栓、後者は悪性脳腫瘍で世を去っている。
 しかしジナイーダは生きていた。
 後に大崩落(グレート・フォール)を引き起こす事となった秘密結社「パンドラボックス」にその遺体が回収された後、人間の脳を用いたバイオコンピューターの実験素体とされ、その過程で甦ったのだ。
 更に世界が崩壊した後は、その戦闘能力に目を付けた機械生命体達に拾われ、ファシネイターのメインコンピュータとなる己の頭脳を、クローニングによって大量生産され、更には己のデッドコピーを封入された機械の体を手に入れている。
 死をも超え、あらゆるレイヴンを超えた絶対の力を手にしたラストレイヴンだったが、この時点で既に彼女は変質していた。元々歪な人間性しか備えていなかったジナイーダが、機械によって作られた事で、本来の人間性を全く欠くばかりか、非常にアンバランスなものとなっていたのである。
 それはジナイーダの価値観に置いて、如実に現れていた。
 強くある為に常に戦いを欲していた彼女だが、最強の存在となった事で、自身と並び立つ存在は最早存在しなかった。よって、もはや弱者を破壊し否定することにしか、己の存在する意味を見出せなくなったのだ。同時に、力のない存在を忌み嫌い、遂には憎悪するまでにもなった。
 そして、それは病院や孤児院への相次ぐ襲撃と言う形で現れていた。インターネサインより生還してラストレイヴンとなり、至高の存在であるドミナントとして己が選ばれた存在なのだと知らしめる為には、力のない存在を踏みにじって見せる他になかったのである。
 よって、これまでにジナイーダは幾度となく病院や孤児院等を襲撃し、子供、赤子、老人、動けぬ病人、妊婦などを手当たり次第に虐殺していた。
 そこには一片の良心の欠片もない。
 何故ならジナイーダにとって、力のない存在を蔓延らせておく事は、人間で言うならばゴキブリを野放しにしておくに等しかったのである。力に取り付かれたジナイーダにとって、弱者どもの最たる存在である子供や赤子、病人や妊婦は、存在する価値すらない愚かで矮小な虫ケラであり、滅ぼされるのが当然であった。
 そして、そんな弱者の命を奪う事を、ジナイーダはドミナントとして許されると信じて止まなかった。
 もっとも、それはジナイーダに限った事ではない。ダイ=アモンやΩ、リム=ファイアー等、強度の強化人間となったレイヴン達はその改造過程で脳までも弄られている為、多かれ少なかれ、情緒や倫理観、認知、記憶、言語領域等精神・心理面において何かしらの欠落を抱えているものが殆どである。
 だが、ジナイーダのそれは他の強化人間達――まだ、身体を捨てていない者たちのそれとは大きく異なっている。
 互いに疑心暗鬼となり、罵り合い、破壊し合うレイヴンとして最強の存在――ドミナントたるべく生きてきたジナイーダの頭脳と精神は、排他的かつ選民的思想を基本としており、自分と同等以上に値するとみ
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まろやか投稿小説 Ver1.50