#05:人類の敵

子には目もくれぬ事だろう。しかし、彼女は違う。
 絶対的な力を至上とする彼女は、己と相容れぬ力なき存在――即ち生身の人間達全てを嫌悪しており、特にこの病棟に集う者達はその極致とも言っても過言ではなく、即時抹殺が旨だった。己の利益と生存に固執する他のレイヴン達とは異例の存在であった。
 だが、そこで留まる理由はなかった。窓から見えた新生児を抱く母を否定するかのように、自分達こそがこの世界に選ばれたものだと言わんばかりに、彼女は病棟目掛けレールを突き出す。数秒の後、蒼白い光弾が繰り出され、産婦人科病棟の一区画を吹き飛ばした。


 輸送機の離陸準備が整えられる中、クオレは基地のガレージが途端に慌しくなって行った事に気が付いた。直後、スティンガーが次々に飛び出して行ったことで、何か厄介事でも起きたに違いないと彼は見た。そして、それはイェーガーズチェインの戦力が必要となる、人類の敵――機械生命体かモンスターか、或いはレイヴンかテロリストのうち、いずれかが出現した事を意味している。
「何だか基地が慌しいですね」
 スティンガーが飛び出して行ったに及び、アルジャーノンも気が付いた。何か嫌な予感がするなと、クオレは己の心拍数が不気味に高まっているのを感じた。
「クオレ! アルジャーノン! お二人に出撃要請です!」
 やっぱりなと意識の中で舌打ちしながら、クオレは悪態をついてモニターと向かった。
「ジュイファシティのハンター達から援軍要請です! 機械生命体が多数出現し、当該地域にて暴れ回っています!」
「畜生、こんな所でかよ……!」
 苛立った唸り声がクオレから漏れる。
 世界各地を渡り歩く旅人であるクオレは、ハンターの範疇にこそあるが、基本的には組織に囚われずに自由奔放に生きる生き方を好んでいた。それはある意味でレイヴン的と言ってもいい。故に、依頼を無視する事も出来たのだが、しかしながら持ち前の正義感ゆえ、それが出来なかった。
 人々の生存を脅かす機械生命体を放置して帰郷するほど、クオレは薄情ではない。それに、今はアルジャーノンが、そしてハインラインがいる。この場で逃げようものなら、それは後輩に「自分はハンターの器ではない」と言う事を声高に宣言するのと同義だし、自分をサポートしているハインラインを裏切る事にもなる。
 信頼しているオペレーターや後輩を前に、そんな真似はするなと、クオレの良心が残酷なまでに恫喝してくる。
 お前が信頼する者達の為に戦え、と。
 そして、強さを追い求めた末に人間性を捨て、人類の敵となったジナイーダや、その他のレイヴン達とは違う事を証明しろ、と。
 通信から数秒で、クオレは悪態をやめ、雷光の如く発した。
「ハインライン! ジュイファシティの同業者に伝えてくれ! すぐ援護に向かう!」
 クオレは無造作にパッドを叩き、すぐさま操縦桿を手にとってグラッジパペットを南へと転回、飛び立っていく同業者達の後を追い出した。アルジャーノンも後に続く。
「メインシステム、戦闘モードに移行します」
 全兵装使用準備完了を伝える文字列とコンピュータボイスの中、クオレは誓っていた。この襲撃の背景には必ずジナイーダがいる。今回はあと数時間で撤収しなければならないが、いずれは彼女を跡形も残さずに吹き飛ばしてやると。そして、機械生命体から万一にでもCR-WB85MPXの弾頭が手に入ったなら、あのクソ忌々しいファシネイターのケツに必ずぶち込んでやると。


 傷を癒し、病を払うはずの病院が、一瞬にして傷つけられ、業火の中で息絶えた。
 逃げ惑う他者と共に、レテ
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まろやか投稿小説 Ver1.50