#05:人類の敵

れた歯が唇の奥で軋み、怒りで全身の毛が逆立つ。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
 怒りのエネルギーが超新星の如く爆発するのに、殆ど時間は要さなかった。
 生理的な憎悪と激怒に襲われ、クオレは子供達を殺された親の慟哭をも打ち消さんばかりの、凄まじい絶叫を発した。マシンガンとレーザーキャノンの一斉射撃がその後に続く。この一斉射で、住宅街破壊の犯人は木っ端微塵にされ、続けて現れたファシネイターも立て続けに3機、その連れ合いとされた。
「死ねッこの死ね、このクソが! 死んで俺の前から消えろこのクソッタレ!! 死に晒せぇぇぇぇぇッ!!!」
 グラッジパペット1機によって、住宅街に狙いを定めたファシネイター達は片っ端から、次々に粉砕されてその残骸を横たえていく。クオレにとって、最早この行為は乱獲ですらない。罪なくしてその人生を強制的に幕引きさせられた人々、そして幼くして殺された者達とその遺族の無念と悲愴を静めるための、鉄屑と黒煙を供え物とした儀式であった。
 クオレ自身、あえなく奪われた日常への未練や、身内との唐突な永別による悲しみも痛みも、身を以って思い知っている。だから、このインファシティやジュイファシティにおいて、自身と同じ運命を、ラストレイヴンの思い上がりによって強制的に辿らされた無念が、彼の中にも流れ込んでくるように感じられた。それを弔うべく、クオレは己の憎悪に操られる人形に命じ、非道なるジナイーダの大量虐殺を、現在進行形で実行させていた。この忌々しいにも程がある愚か者を、もう二度とこの世界に存在させたくなかった。
 この時、クオレは余りにも激烈な生理的嫌悪と怒りによって我を見失っていた。しかし、強化人間――それもサイボーグとなった身体に、サポートの為に組み込まれた小型電子頭脳はその働きを忘れていない。血の気が強く激情家であるクオレを案じ、強化人間手術を手掛けた医者と技術者達が組み込んだものだ。
 忘我によって生じる脳波の変化に反応し、クオレに代わって身体を動かすべく限定作動したサポートシステムが、普段は制限されているACとの接続を完全開放し、グラッジパペットと一体となってファシネイターを次々に叩き潰して行く。
 器用な事に、クオレはぶち切れて正常な判断力が失われ、弱体化すると言われる中でも、平時の戦闘能力を全く損なっていなかった。全ては組み込まれた補助用電子頭脳の賜物である。
 かくして、クオレが気が付いた時、周辺に現れた10機のファシネイターは全て、黒煙を吹き上げる残骸と化していた。
 周辺のファシネイターを殲滅しても尚、クオレとグラッジパペットはジナイーダへの無尽蔵な憎悪に突き動かされ、街中へと駆け出していた。そして目の前に現れた新たなファシネイターが即時粉砕刑に処された。
「いい加減にしろこのクソッタレェェェッ! いい加減にしねぇとケツの穴に核弾頭ぶち込んだるぞテメェらァァァァァ!!」
 クオレの暴言は留まる所を知らない。
 しかし、すぐに新たなファシネイターがその姿を現した。だがその直後、そいつは弾幕に叩き潰されて爆発炎上、残骸を周辺にばら撒いた。
 獲物を取られた事に一瞬苛立ち、怒りを覚えたクオレだったが、青紫色の重厚な人型兵器を見て、すぐにその感情を霧散させた。同時に、彼の意識が急激に正常へと戻っていく。彼は目前の機体と搭乗者に、見覚えがあったのだ。
「アニマド!?」
 機体の特徴と搭乗者の照合は、クオレの脳内ですぐに終わった。
「……また会えたなと言っといてやるよ、クオレ」
 アニマドもクオレに気が付いてか、通信を返して来た。

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まろやか投稿小説 Ver1.50