#05:人類の敵

 弱肉強食を旨とする危険な傭兵である以上、弱者を狙う事が、レイヴンにおいては至極当然の振る舞いである事は有名である。
 レイヴン斡旋機構が取る、己の実力が報酬や評価にダイレクトに反映されるシステム上は必然であったのだが、一部では未熟な同業者を叩き潰して将来の危険となる芽を摘んだり、追加報酬を得る上での格好の標的にしようとする動きもあったのである。
 中には企業間戦争がエスカレートした結果、攻撃の応酬として、敵対勢力の弱者たる市民を虐殺するケースすらあった。
 世間一般からは忌み嫌われる行為ではあったのだが、しかしレイヴン達はそれに罪悪感を感じてはいない。明日すら知れぬ中、己が生き延びる為に弱者が屠られても文句の言える筋ではないし、力の無い者がそれを言った所で意味を成さない。それ故、鴉以外にも「略奪」「荒らし回る」「貪る」を意味する呼び名で市民に忌み嫌われたレイヴン達だが、しかし彼等は、それをアウトローの美徳として捉えている。
 そもそもそれは、レイヴンとそうでない人間との価値観には大きな隔たりがある事に起因している。
 雇われて破壊と殺戮にに勤しむレイヴン達には、人類が外敵に囲まれ、その生存すら脅かされている現代では時代錯誤としか言い様のない、「人間同士、破壊と殺戮に勤しんでいるのが普通」とする価値観を絶対的なものとしている。特に企業が支配する時代は、自由競争の名の下に他者への利害行為が恒常化、戦乱の耐えない時代となっていた。
 そもそも、弱肉強食のこの世界に置いて、同属を殺し合わない動物など存在しないし、植物ですら栄養と日光を奪い合う。ならば殺し合いを続けていたほうが自然だ――人間が持つ社会性を根本から欠く、動物的価値観が、彼等の中に存在していた。だからこそ、レイヴンは今日において、最早人間とすら見なされていないのだが。
 そしてそれは、レイヴンの範疇にすらない、機械生命体に身をやつした元人間のACパイロットにも同じ事が言えた。
 今、荒野を越え、森に身を潜める彼女の前には、インファシティ南に隣接するジュイファシティが広がっている。インファシティがファシネイター襲来、イェーガーとレイヴンの戦いとで混乱状態にあるのとは対照的に、この都市は比較的平穏が保たれている。他の数ある都市同様、ここにもスティンガー等の兵器が巡回している。
 力を持たない市民達が集まるこの街は、“彼女”とその仲間達にとっては絶好の狩場となるであろうが、それ以上に彼女は、郊外の一区画にその視線を固定して移動を開始した。
 誰に命ぜられるまでもなく、彼女は目的地と定めた地点への距離を詰めて行く。
 そこには病院が建っていた。近隣都市インファシティにおける戦乱によって、同都市の病院が活気付く中、この病院にも先の戦乱の余波か、正面玄関に到達した救急車が次々にストレッチャーを排出され、救命士と共に玄関の中へと消えて行く。
 戦乱が当たり前のこの世の中、力無き者は死すのみと信じて止まぬ彼女にとって、力がないくせに生き延びている病院内の人間達には、虫唾が走る思いであった。
 特に、彼女の目の前にある病棟の中で、僅かに動く小さな者達は、ひたすらに強くある事を旨とする彼女にとって、特に忌むべき存在であった。
 それは新生児育児室のベビーベッドに寝かせられている赤子達だった。窓にはカーテンがかかっておらず、彼女には中の様子が良く分かる。自分ひとりでは何も出来ぬ存在だが、その姿を見るたびに、彼女は堪えようのない生理的嫌悪感、そして破壊衝動に襲われる。
 他のレイヴン達ならば、爪も牙も持たぬ赤
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まろやか投稿小説 Ver1.50