#29.心機一転

 朝が来た。
 外は昨日、管理者実働部隊との交戦の余波で、遠くの所々から黒煙が立ち上り、部分的にまだ火災が発生してもいたのだが、アストライアーにとっては、変わらない日常、変わらない部屋の光景、そして変わらない日々のサイクルがまた始まることを意味していた。
 だがアストライアーは起床してから1秒と経たぬ間に、この日の朝が、それまでに迎えた朝とは全く違う点が2つある事を肌で感じ取った。表面上は確かに、これまでと変わらぬ人工の朝日がカーテン越しに来るそれだったのだが、その日のアストライアーからは、BBへの殺意が、完全に失せていた。
 それもその筈、本懐を遂げてから最初の朝なのだ。
 しかしBBが消えようが消えまいが、彼女の日々のサイクルに変化はない。目覚めた時から、サイボーグの身体は戦いに向けて既に動き始めていた。その為には、まだ残っている生理的要求に従う必要はあった。
 アストライアーはベッドから抜け出そうとして、ある事に気がついた。見なくなって久しかった幼女が、自身の左腕にしがみ付いていた。それこそが、起床直後から気付いていた、2つ目の違和感の原因にして、今や彼女の“娘”となったエレノア=フェルスだった。
 しかしアストライアーは首を捻った。何時から、エレノアが一緒に眠るようになったんだ? 
 昨晩の記憶を辿り、自身が眠る直前に何をしていたのかを可能な限り思い出す。確かに昨晩、エレノアは自分のベッドで寝た。そして自分はメールの確認をしていた所、BBとの決戦や管理者実働部隊迎撃で蓄積していた疲れにより、段々ウトウトしてしまい、少し横になると決めたんだと思い出した。
 その後の記憶が一切ない所、そして昨晩の姿であるYシャツにネイビーブルーのGパン姿である所を考慮するに、どうやら横になってすぐ意識をなくしたらしい。布団を被っていた所からすると、どうやら無意識的にもぐり込んでいたんだろうとも推測出来た。
 だが、それは大した問題ではない。
 それ以上に、このまま手にしがみ付かれるのはどうかと言う事が、アストライアーの当座の問題となっていた。BB一派の仕業とは言え、今まで満足に接してやれなかったエレノアだから、無意識的に自身を求めて抱き付いているのは分かる。だから、そのままにしてやっても良いとは思ったが、かと言ってこのまま放置して、後で空腹をうるさく訴えられるのも考え物だった。
 それに、朝飯を早く喰えとアストライアー自身も脳味噌に訴えられている。一日一食でも必要なエネルギーを賄えるほどエネルギー摂取効率を高められているアストライアーだったが、主な活動時間帯である昼間に依頼で出向くと昼食を食べる暇はなくなる。長期化すると夕食にもありつけない事があった。
 普通の人間なら参ってしまう所だが、アストライアーは朝食を人並みに食する事で、一日に必要なエネルギーを完全に賄う事が可能だった。他だと必要に応じて食する事もあったが、とにかく朝食を抜いては、流石のアストライアーと言えど活動に支障が出てしまう可能性があった。肉体的には全く問題なくても、精神的に違和感が出てしまって正常な判断が出来なくなるのではと言う、ささやかな恐怖心すらもある。
 兎に角、朝食の準備が必要だ。
 アストライアーはまだ眠っている愛娘の手をそっと引き剥がした。甘えたい盛りのところで申し訳ないと思いつつベッドから立ち上がろうとして、その動作を止めた。
 エレノアは、今度はアストライアーの左太腿に両手を回していたのだった。
 離れたくないのは分かったが、だがこのままだとその姿がいとおしくなり、自信
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まろやか投稿小説 Ver1.50