#03:蟲の襲来


「これも、恐らくは……」
 アルジャーノンは足元で息絶えている幼虫に目をやった。
「……あと1ヶ月そこいらで、ランドワームになってしまうはずですから」
 この巨大ミミズは、成長すると30メートルを悠に超える化け物となるのだが、その子供は誕生当初は1メートルにも満たないサイズであった。ただし産卵数は凄まじく、1回の産卵で1万を数える数の卵を産む。
 そうして生まれた幼生は生物の血液や死骸、人間の垂れ流した生ゴミを主な栄養源とし、更には仲間同士で共食いまで行い、歪んだ生態系で生き残る為に急激な成長を遂げる。
 そしてそれがグラトンワーム、即ち「大喰らいミミズ」と呼ばれる所以でもあった。
 かくして養分を摂取したグラトンワームは、やがて脱皮を繰り返して成長し、誕生から4ヶ月も経とうという頃には、巨大な成体ランドワームになってしまうのだった。ただし、歪んだ生態系の中では、力のない者は容赦なく餌食となる定めにあった。研究者によれば、ランドワームの卵のなかで無事に成体に育つのは、数万匹から十数万匹に一匹と推測されている。
 クオレもアルジャーノンも、ハンター組織内部資料として研究機関からの報告書を受け取り、ランドワームのこうした生態は知っていた。無論、産卵数の異常な多さと、それと比べれば異常とも思えるほどの少ない成体の数も。もっとも、ランドワームにまで育った異常な巨大ミミズの数が更に多かったら、今頃地上の人間は食い尽くされてしまっていても何ら不思議はないだろうとクオレは思っていたのだが。
 それに、異常なのはランドワームだけではない。先程のヴァンパイアやベルゼバブ、サンドローチ、他の地域に行けば更に巨大な蛆やクモ、ムカデ、ワラジムシ、巨大な牙を持つ不気味な巨大甲虫、カニやザリガニに似た節足動物等が犇いている。
 これらの生命体は、既存の生物種及びその生物学上では考えられない身体能力を持っている為、ひと括りにモンスターと総称されている。
 彼等に付いて、クオレをはじめとして人類が知っている事は少ない。
 何せ、元が生物兵器として秘密裏に生み出された存在であるため、その情報が公開されず、公となった頃には、彼等の情報は世界の崩壊に伴って散逸したり、或いはそれ以前に人為的に闇に葬られてしまっている事が殆どだったのだ。だから彼らとの研究や戦いは、ゼロから始められ、現在も発展途上のまま進行している。
 だから、クオレやアルジャーノンは勿論、ハンター達もモンスターについては、まだ未知の部分が多かったのである。
 しかし、それでも、クオレとアルジャーノンには分かっていた事がある。
 それは、バーテックス戦争と、その後に続いた世界崩壊やバイオハザードが、世界に取り返しのつかない傷を残したことであった。
 その結果が今の世界であり、都市から一歩外に出ればそこは異界。バーテックスとアライアンス、双方の醜きエゴと狂気が現出させた、人類の理屈や常識が通じぬ世界なのである。
 そんな所に留まってはいられないと、2人は更に道なき帰路を行く。


 やがて荒野は過ぎ、舗装こそされていないが草原を縫って伸びる道が現れた。何本もタイヤ紺が見受けられる所からすると、車道として使われている道であろう。
 グラッジパペットは即座に横切り、次いでポットベリーが足を踏み入れた直後だった。
「そこの同業者、どいてくれ」
 通信が入り、アルジャーノンは一瞬だけだが動きを止めた。だがすぐにブーストで上昇、道の脇に降り立った。 
 程なくして、レーダー上に多数の友軍反応が出現。ポット
[2]前へ|[3]次へ
ページ移動[1..6 7 8 9 10 11..13]
[7]TOP [9]目次

まろやか投稿小説 Ver1.50