#03:蟲の襲来

敵は何が来てもおかしくない状況下である。
 油断のならない状態の中で、クオレは愛機にマシンガンを構えさせ、周辺を警戒する。
 その時、機体に大質量の物体が何度もガンとぶつかった事で、クオレは反射的に機体をバックステップさせた。何かが意図を持って足にぶつかっている――そう判断するや、MWG-MG/800が足元に火を噴いた。悲鳴と共に、赤茶けたキチン質の欠片が飛び散る。
「ガンガンうるせぇな!」
 クオレの怒鳴り声など意に介さず、巨木の陰から巨大な虫達が飛び出し、更に頭上からもどさりと音を立てて落下して来た。
 若きハンターの前に現れた巨大蟲は、彼にとっては既にお馴染みの生物だった。
 それは、俗にヴァンパイアと呼ばれる巨大なノミの様な蟲であった。
 元々はバーテックス支援企業のひとつ・複合コングロマリット“レオーネ”グループの製薬部門であるレオーネ・バイオニカが培養した生物兵器で、元はちっぽけなノミか何かだったのだろうが、遺伝子操作を施された結果、全長2メートルの巨体に成長していた。
 レオーネはこいつに、吸血鬼伝説のモデルにもなった中世の女性“エリザベート・バートリ”のコードネームをつけていた事が知られているが、ハンター達はヴァンパイアと呼んでいる。
 吸血鬼の名のとおり、人間を捕獲してその血液は勿論、髄液やリンパ液など、あらゆる体液を生きたまま吸い尽くすおぞましい生物としても知られていた。更に、自分よりも大きな生物にも平気で飛び付き、ACにも襲い掛かってくるなど、その性質は非常に凶暴である。
 その巨大ノミは血で染まったようなグラッジパペット目掛けて飛び掛ったが、クオレも易々と愛機をかじらせるほどお人好しではない。その吸血蟲を蹴飛ばし、脚に引っ付いたものをMWG-MG/1000で叩き落として踏み潰す。
 しかしまだ1匹、コアを這い回っているヴァンパイアがいた。そいつは背後にしがみ付き、OBハッチを穿とうとしている。
「だからガンガンうるせぇっつーの!」
 クオレの怒鳴り声と共に、グラッジパペットはオーバードブーストハッチを開放、チャージ無しで噴射炎を放出した。天使の翼を髣髴とさせる蒼白い噴射炎は、人間の狂気が産んだ吸血蟲を容赦なく焼き払った。
「おい、アルジャーノン」
 新たに現れたヴァンパイアを踏み潰し、クオレは後輩を急かす。吸血蟲の襲来は、若きハンターにいささかも動揺をもたらさなかった。
「無理は言わねぇけど、ちょっとでも急いでくれると助かる」
「はい、なるべく」
 元軽量2脚を採用しているグラッジパペットはオーバードブースト無しでも軽快に動く事が出来るのだが、速度任せに突き進むと、どうしても鈍重なポットベリーが置いて行かれてしまう。クオレは愛機を少し進ませ、また停止して周辺を警戒し、後輩が行くとまた後を追い、追い越して周辺を伺う事を繰り返し、突き放してしまわない様に気を配った。
 時に、ヴァンパイアをマシンガンで迎撃する事もあった。
 暫く進むと、行く手にコンクリートと鉄骨の混ざり物が広がっていた。周辺には赤土がむき出しになっており、巨大植物も周辺には全く生えていない。
 典型的な廃墟であった。
 嘗てこの辺一体はバーテックス――正確には、それを裏で操っていた企業が支配していた都市だったが、大崩落(グレート・フォール)によって、他の都市共々滅んでいた。現在では破壊しつくされた瓦礫と骨組みだけが、辛うじてここが都市だった名残をとどめているに過ぎない。
 ミサイル攻撃によって壊滅した、とクオレは聞いてい
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まろやか投稿小説 Ver1.50