#03:蟲の襲来

少年に面食らっていた。
「それにしても……クジラを名乗っている大人物の息子が、天才ネズミを名乗っているのも不思議な話だ」
「そうですか?」
 天才ネズミと言うのは、少年のハンター名の由来となった、ダニエル・キイスの小説「アルジャーノンに花束を」に登場する、実験により知能が高まった白ネズミの事である。人間のアルジャーノン自身も13歳と言う破格の若さでACを手足の如く操っている為、そう例えていたのだ。
 ちなみに、アルジャーノンが今の名前を名乗ったのには、件の小説を学校の課題だった読書感想文の題材にしようと読み、大変な感銘を受けたためであった。それゆえ印象に強く残り、後に彼がハンターとなるに及び、名前を拝借したのだった。
「ところで、今は何をなされてるのですか?」
「運送業者の護衛だ。彼等に頼まれ、セージシティまで同行する事になった」
 何もモンスターや機械生命体の抹殺が、ハンターの仕事に限らない。都市間を移動する非武装の民間人を、外敵から護衛する依頼もハンターが請け負っている。
「500キロも南下ですか……大変ですね」
 アルジャーノンはポツリと呟いた。あれほどの護衛を連れて歩いてなおも命懸けである運送業者の一団と、その護衛に駆り出されているハンター達、双方にその言葉が向けられていた。
「私語は慎んだ方が良いと思う」
 逆関節ACのパイロット・バグコレクターがインクリアーにそう促した。毒々しい紅色に塗装された彼の愛機スワローテイルが、運送業者団の後にぴったり付いていた。
 多機能・高性能の頭部MHD-MX/RACHIS、現行機種中最低防御水準だが高性能のイクシードオービットで支持を集める軽量級コアCCL-02-E1、CR-A92XS時代よりの省エネと軽量振りで、ナービス戦争以来根強い支持を獲得し続けるCAL-66-MACH、標準的性能の逆関節脚部MLB-SS/FLUIDでフレームを構成。
 逆間接としては軽量な機体は、レーザーライフルMWG-XCB/75と、レーザーブレードMLB-HALBERD、アルジャーノンも愛用しているCWX-DM32-1を2つ搭載し、エネルギー回復装置KEEP-MALUMを装着しているのが、クオレにも確認出来た。
「ところで、この辺に蟲はいたか?」
 居たとクオレは肯定した。
「砂ゴキブリに、ハエに、ヴァンパイアに、でっかいミミズがな」
「おお、だとしたら気をつけなければ」
 バグコレクターが周辺を警戒しだしたが、その顔を見てクオレは違和感を覚えた。警戒しているようには見えなかったのだ。
「おい、何故に笑う?」
「そう言う奴なんだよ、彼は……」
 虫好きで知られるバグコレクターは当然のように昆虫採集を趣味としており、それが高じてハンターになったと言う異色の経歴を持っていた。巨大な蟲を見るのは勿論だが、それを倒す事にも生き甲斐を感じていると公言した為、同業者から変態や蟲オタクのレッテルを張られてしまっていると言う。
 インクリアーが、小声でそうクオレに教えた。
「大丈夫なのかよ……」
「心配ない、ああ見えても腕は立つ。一応ランカーだからな」
 どうやら腕前の方は確からしい。だが、どこか依頼中に笑っているようなヤツが、いざ戦いになって真価を発揮できるのか、クオレには少々怪しかった。
「まあ、何かあったら俺もどの道奮闘する事になるから心配はいらない。お前も覚えてるだろ? 3年前に俺と戦ったのを」
「覚えてるさ……まあ、あの時より強くなってるだろうから大丈夫だろうとは思うが、しっかりお守りし
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