#03:蟲の襲来

「そう言えばなんですが」
「何だ」
 後輩のつぶやきに、前方を行くクオレは不意に愛機の足を止めた。
「僕等……ジナイーダを潰す為に出撃したんですよね?」
「一応、その筈だったんだがな」
 本来、クオレとアルジャーノンのコンビは旧大陸東部に位置する都市・インファシティ周辺の警護をしていた筈だったのだが、ファシネイターが出現したに及びその追撃を命ぜられ、ここまで来ていたのだった。追撃開始から2時間、二人はインファシティから、直線距離にして400キロほど北西に移動していた。
「出向いた先で、機械軍団とドンパチやらかすハメになるとは思わなかった」
「クオレさんはご苦労様です」
 先行していたグラッジパペットを追って、ポットベリーが到着した時には既にファシネイターは他のACと合流、グラッジパペットに攻撃を仕掛けていた。数の暴力にグラッジパペットは押され気味だったが、ポットベリーが来た事で事態が好転し、分断した戦力を互いに捌いていたのだった。
「大丈夫ですか? 相当弾使った上、結構ボディもやられてるようですけど」
「心配ない。こいつはまだ動ける」
 そうだと良いんですがとアルジャーノンは呟いた。
「それにしても……随分遠い所まで来てしまったものですね。奴を追跡していた時は気付かなかったのですが……」
 アルジャーノンは周囲を見渡した。赤土向き出しの大地だが、所々に草木が生え、所々に森林が散在していた。
 このあたりは小高い丘が連なっており、過去の戦闘によって荒野となっていたのだが、嘗ては豊かな森林が広がっていたと言う話を、ハインラインから聞いている。そして、この辺は降水量が多く、その為に砂漠化は辛うじて免れており、現在森林が自然再生している兆候もあるという。
 現在赤土剥き出しの荒野と成り果てたこの大地だが、所々に木々や下草が生えており、人の手を離れて野生化した牛や馬、山羊などが遠くを集団で動き回っている。バーテックス戦争の末に世界が崩壊し、環境まで破壊されてしまっている事が多い今日だが、ここにはまだ野生の営みが残っていた。
 だが、荒野には場違いなシロモノまでもが生えている。
 普通の植物に混じり、どう見ても恐竜時代以前から時間軸を横滑りして出現したとしか思えない、茶色い巨大シダや、先端部が渦巻状になった奇怪な巨大植物が生えている。
 その正体も、クオレ達には分かっていた。
 これは生物兵器を培養する際、その餌として用意された植物たちと、その成れの果てだった。具体的には、遺伝子操作されて異常な成長スピードを手に入れた植物が、世界崩壊によって外界に放たれてそのまま定着したものである。一部では、そうした人為作成植物が、戦争に伴う環境破壊や、化学兵器・ウィルスによる汚染などにより極端な変容を遂げ、異常化した成れの果ても存在する。
 この、異常なスピードで成長する植物を草食生物が食べ、それを肉食生物やモンスターどもが食らう。現在世界を覆っている、異常な生態系の欠くべからざる基本がこの異常な植物達なのだと、クオレは学んでいた。
 だが、クオレが出来るのはそこまでだった。化け物たちを餓死させられるならこの植物も破壊したい所だったのだが、いかんせん弾が足りない。恐らく、幾らも処理は出来ないだろう。その上、達が襲って来る可能性も否定出来ない。
 そんな事に無駄弾を使うなと、狩人としてのクオレの心が、強く自身を律していた。
 こういう、何もこない時は下らない私語にでも興じたい所だったが、自分の周囲に居るのはアルジャーノンだけ、逆に
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まろやか投稿小説 Ver1.50