#01:憎しみの「心」

あるが、一方のファシネイターはそれがなかった。外見こそ過去と今とでは全く変化していなかったものの、既にその機体は、時代遅れの産物となっていたのだ。
 結果、36年前の最強機とそれを駆るドミナントは、クオレとその愛機と戦いはじめてから1分も経とうという頃には、全身を蜂の巣の様な有様にされ、火花を散らして崩れていた。
 嘗て、彼女自身がそうして来たように。
「この私が……貴様の様なカスに……」
「テメェに悔やみや屈辱なんて感情があったとは笑わせる!」
 クオレは嘲笑った。
 人間性を棄ててまでも、ひたすらに強くあろうとしているジナイーダにとって、敗北はこの上なく屈辱的なものだった。
 しかも、クオレにはトップランカーやイレギュラー、強豪などと呼ばれるような程のランクは持ち合わせていない。彼はレイヴン達による戦闘技能評価では、Cマイナス相当と言う評価が下されていた。これは全体から見れば中の下であり、二流パイロットもいい所であった。
 両手両足をもがれ、頭や背部装備も叩き潰されて転がる仇敵のコアを、グラッジパペットは荒々しくその右足で踏みつけた。名前の通り、クオレの「憎悪による操り人形」は、南極の空のごとく冷たい色を放つセンサーアイで足元の忌まわしき者を睨む。
 緋色と黒の毒々しいカラーリングの中で目立つ、黒く塗られた右肩に刻まれたエンブレムである「噛み合った人の歯が斜めに並んでいる心臓」もまた、ジナイーダを嘲笑しているようだった。
「カスが……こうまでしなければ対峙出来ぬほど、私が怖いか」
 戦闘不能にされた時代遅れのドミナントは低い怒号を飛ばすが、クオレは全く動じない。
「ああ、怖いな。何せ俺の母・フレイアと姉のティナが、更には妹のエリーもテメェに殺されたんだからな」
 生産中止されてから久しいCR-C06U5の装甲が踏まれて軋む。
「私ひとり倒したぐらいで、虫けらがいい気になるな……」
「うるせぇんだよ、くたばりぞこない。強くありたいが為に、機械生命体なんぞに魂売り渡しやがって! この筋金入りのド畜生が!」
 激しい言葉が並び立てられる。
「ジャック・O以下他の21名のクソッタレ連中や旧世代の骨董品共々、さっさと死んでれば良かったものを!」
「言いたい事はそれだけか」
「まだあるぞロクデナシ。全部終わったわけじゃねぇ」
 グラッジパペットの左肩に積載されたレーザーキャノンMWC-LQ/15が跳ね上がり、砲口がファシネイターを睥睨した。このレーザー砲は旧型番のWB15L-GERYON2時代から出力が上昇しているうえ、カタログスペックにおける発射可能数も、12回から15回に強化されていた。
 そして、その出力は、標準型中量級コアCR-C75U2改めCCM-00-STOや、標準型中量急2脚CR-LH80S2改めCLM-02-SNSKに、一撃で致命傷を与えられるほどだった。
 その砲口奥から、エネルギーがチャージされる事を窺わせる甲高い音が響き始める。
「もう一度、地獄に行けぇぇぇぇッ!」
 緑色の高出力レーザーが迸り、ファシネイターのコアを木っ端微塵に吹き飛ばした。続けざまに、二度三度とレーザーが繰り出され、自称ドミナントに凄まじい最期をもたらした。
 ジナイーダを地獄へと叩き落すと、クオレは鼻息一つしてから、恨み節と共に仇敵の残骸をグラッジパペットに蹴らせ、踏みにじった。
「全く、何度殺されてもゴキブリの如く出て来やがって……大して強くもねぇくせに」
 大願達成したにも拘らず、愚痴と暴言をぶちまけながら、クオレは西に視線を転じた。
 赤茶けた丘の向こう
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まろやか投稿小説 Ver1.50