#01:憎しみの「心」

った、24時間戦争以来多くのレイヴンを葬ったその姿を。
 そして、その右手に持ったマシンガンで少年達の家周辺を銃撃して去って行った事も。最初から自分たちを狙ったのか、あるいは別の何かを狙っていたのかは分からないまでにしても、生命の危険を感知した彼等は着の身着のままで家を飛び出し、全員で手を繋ぎ合って逃げ回った。
 そして自分達に気付き、ファシネイターは銃撃を繰り出した。自分と妹のエリーは辛くビルの間に逃げ込めたが、その自分と妹を庇う為に、母と姉が殺された。その自己犠牲も虚しく、妹も死んでいた事もすぐに分かった。
 だが、脳がそれを認めなかった。これは嘘なんだ。悪夢か何かで、また目を覚ませば、優しい母フレイアや姉のティナ、少々やかましいけど仲良くしてきた妹エリーの、いつもと変わらぬ日常があるはずだった。
 目覚めを期待して、少年は待ち続けた。しかし幾ら待っても目覚めの時は来ず、訪れるのはファシネイターの攻撃と、それがもたらした阿鼻叫喚の地獄絵図、そして彼女を迎え撃った者達の死。そして決定的な家族の死だった。
 もう、母も姉も妹も動かない。二度と笑ってくれない。二度と料理も作ってくれない。そして、二度と以前の穏やかで幸せな日々は訪れない。
 少年が悲しみに慟哭する中、ジナイーダの声が彼の鼓膜に届いた。
「所詮は下等な生物か……」
 それは自分を迎え撃って死んだ兵士やパイロット達への嘲笑だったのだろうか。
「おかあさんもおねぇちゃんもかとうじゃない! かえせ! おかあさんをかえせ! ティナおねえちゃんをかえせ! エリーをかえせぇぇぇぇ!」
 少年の怒りと悲しみの叫びがジナイーダに届く事はなかった。そのまま、目に付く端から、人間たち――そのほとんどは子供とその親達だった――を次々に殺して行く。
「死ね。愚か者はこの街共々死ね」
 哀悼も慈悲の心も全くなく、周辺の人間達を皆殺しにし、住まいをも根こそぎにして、ファシネイターは去って行った。
 ひたすらに強くありたい――それを願い、現実のものとするだけの腕を持つジナイーダだったが、その為に彼女からは、人間的な心や感情が、完全に失われていた。彼女にあるのは、ただ目の前の敵をひたすらに破壊し殺す、あくなき破壊本能と冷徹・冷酷な精神だけだった。
 そこには一片の慈悲もない。人間的な心は己を弱めるだけだと信じてやまぬジナイーダは、人間の心を捨て、弱者を徹底的なまでに蔑み、遂には彼らに生きる価値すら認めなくなったのだ。
 そうして彼女は、いつしか慈悲の全くない、己が力こそ全ての、破壊と殺戮に生きるだけの殺戮者と化していた。彼女にとって、平民も子供も、すべてが虚弱で矮小な生命体であり、子供はその極致にある根絶せねばならない存在とさえ見なしていた。事実、ジナイーダは、最初からここの子供達を皆殺しにするつもりでいた。
 生き残った少年はそれを知らないし、知る事も出来なかった。彼は一方的に家族を奪われ、独りぼっちになった悲しさと寂しさに打ちひしがれ、泣いた。声を張り上げて泣いた。涙が枯れてもなお泣き続けた。
 その悲しみの中で、少年は誓った。
「殺してやる……」
 母を、姉を、妹を殺したジナイーダに、その報いを受けさせてやると。あの女を見つけ出し、自分が味わった以上の報いを与えてやると。
「殺す! 必ず殺してやる! 殺してやるぞジナイーダあああああああ!」
 呪詛に満ちた少年の叫びが、廃墟となった市街地に響く。


「……そんな事があったんだよ。俺がこうしてAC操縦資格をゲットして、血の滲むような戦いと練習を重ねて、やっとこさ
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まろやか投稿小説 Ver1.50