ジナイーダ。
企業連合の統治組織アライアンスと、レイヴンで構成される武装組織バーテックスとの間に生じた、24時間の武力闘争――俗に言う“24時間戦争”を知る者にその名を尋ねれば、こう答えるだろう。
曰く、24時間戦争に加担したレイヴンの中で、唯一生き延びて“ラストレイヴン”の称号を得た者と。
曰く、中量2脚ACファシネイターを駆る、女性ながら“ドミナント”の呼び声高き者と。
曰く、インターネサインと呼ばれる巨大施設の中枢にある「何か」を破壊し、そこからただひとり生還した者と。
しかしそのどれもが、当時生存していたあらゆるレイヴン達を畏怖させるには十分な肩書きであり、そして当人が生きる目的としていた「最強の存在」である事を裏付けるには、十分なものであった。
何せ、彼女の駆る中量2脚ACファシネイターは、彼女本人の技量も相まって、既存のACとは最早別次元の戦闘能力を発揮し、対峙したあらゆるレイヴン達を、数秒のうちに粉砕してのけたのである。
イレギュラーの呼び声高いアキラ=カイドウと対峙した時も、たった数秒で決着が付いた。
戦神と恐れられ、世界最強のレイヴンと呼ばれたアレスや、最終的に特攻兵器襲来を招いた「ナービス戦争」時代にMxS7HGSを名乗り、現在では搭乗機の名からアイアンと呼ばれているナービス戦争最強のレイヴンも瞬殺された。
伝説のAC「ナインボール」でさえ、相手にならなかった。
彼女と対峙したACは例外なく、数秒のうちに徹底粉砕させられ、その力は対峙したあらゆるレイヴン達――否、地球上に生きる全てのACパイロットの畏怖やトラウマの対象となり、彼女と戦場で出くわした、名前が分かっているだけでも1000人を軽く超すレイヴンの8割は死に、残る2割は二度と戦場に立つ事が出来なくなった。
そうして名立たるレイヴンを尽く殺してきた彼女を狙う者は当然多かったが、それらは全て返り討ちにされた。そしてその凄まじいまでの攻撃と、女性に敗れた事がショックになり、生還したレイヴンの殆どがPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、二度と戦場に戻れなかったという。
やがて、向かう所敵なしの存在となったジナイーダはドミナントの称号を欲しいままにし、誰もが恐れる最強のレイヴンとなったのである。彼女が生きる意味として捉え、憧憬していた以上の存在に。
しかし――
そのファシネイターが、力任せに引き裂かれた。
正確にはファシネイターを描いたポスターが引き千切られたのだ。ビリビリと音を立て、それは丁度身体を二分するように紙繊維を二分させられた。年端も行かぬ赤毛の少年の手によって。
その周囲では、街が炎に包まれていた。ビルが崩れ、マンションが砕かれ、瓦礫の山となった市街地を明々と炎が照らしている。人々は右往左往し、瓦礫の中から救助を求める呻き声が漏れる。中には生命活動を失った肉体を横たえている者も少なくない。
喧騒の中、少年は引き千切ったジナイーダのポスターを両手で握り締め、皺くちゃにしても飽き足らず、それを力任せに引き千切って細切れにしていった。
この少年がジナイーダに憎悪を抱いているのは明白な事だった。
事実、少年の煤けた身体の下には、身体を千切らせ、無残な姿で己の血溜まりの中に横たわっている3人の女性が居たのだが、彼女達は嘗て、少年の母や姉、妹だったのだ。
数時間前、この街が火の手に包まれた際に少年は見ている。紫と灰色のツートンカラーに緑のセンサーアイで彩られた禍々しいフレームに、レールガンとマシンガン、パルスキャノンとミサイルを背負
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