#28.もうひとつの「決戦」

 予てから続いていた管理者の暴走は、すでにレイヤード第一都市区の主要都市であるトレーネシティまでも、破壊の渦の只中に突き落としていた。
 白と黒のモノトーンで彩られたACが、地で染まった様な赤いセンサーアイを光らせ、道行く者を――戦闘員、民間人、そして老若男女の区別無しに――次々に殺戮して回っている。それに追随する球形メカの大群も、ビルが建ち並ぶオフィス街を、燃え盛る巨大な炉の集まりへと変貌させていた。
 それらの兵器に共通して刻まれる、赤い斜線の入った無機質な六角形と「DOVE」の4文字が、彼等を管理者実働部隊であると物語っていた。
 無論、この事態にシティガードや、この町を監督する立場であるミラージュも黙って見ている訳も無く、ACやMT部隊を動員し、応戦を試みた。しかし、実動部隊の強大な戦力の前に死闘を強いられ、消耗した者や力の劣る者から順に倒されていった。
 我らに恐れる者などないと驕るかの如く、我が物顔で街を破壊するその様は、地獄から這い出た悪魔が人間界を蹂躙する様にも、天使が神の怒りに触れた人間を断罪する様にも見えた。
 その中の1機が、頭上を飛ぶ輸送機に気がついた。そして、ミラージュの社章がプリントされているのを確認するや、ロケットを放った。
「砲撃されているぞ! ACの投下準備急げ!」
「駄目です! 砲撃でハッチが変形して開きません!」
「ぶち破っても構わん! 早く降下を!」
 輸送機を立て続けに襲う激しい衝撃。コックピットに響くアラーム。爆発音。飛び散る破片。輸送機とAC、それぞれの乗員は炎に包まれながら最期の瞬間を悟った。
 やがて輸送機は激しい炎を吹きながら、瓦礫の山へと落ちて行った。
<ターゲット消滅>
 輸送機の墜落を確認したACだが、その刹那、そいつは横から振り下ろされた青白い刃に薙ぎ払われた。右腕が切り落とされる中、ACは右に旋回する。
<敵対信号確認、排除行動開――>
 しかし青白い刃は、実働部隊ACよりも遥かに早く動いていた。
<左腕部切断――CAW-DMG-0204 攻撃機能消失>
<頭部切断――全センサー機能消失>
<左肩装備――CWR-HECTO 発射不能>
<右肩装備――MWC-XP/75 発射不能>
<コア搭載自律攻撃機構L――分離不能 射出装置損傷>
 刃を叩き込まれるごとに、エラーメッセージが次々と流れていく。
<動力系破損>
<火器管制システム ブレイクダウ――>
 コアから激しい閃光と爆発が発生し、ACは瓦礫の一部と成り果てた。


「此方ヴィエルジュ、一機始末した」
『了解、敵AC一機撃破確認』
 輸送機に注意を向けていた為に、隙を見せた実働部隊ACを斬り捨てたヴィエルジュは、更なる実働部隊ACの破壊の為、炎に包まれた市街地を進み始めた。
 火災が街中の至る所で発生し、外気温は、高い所だと80度近くに達していたが、ACの冷却システムを考えれば、この程度の外気温ならばOBで疾走する事も出来るとアストライアーは見た。
「シューメーカーよりオペレーター、敵AC一機撃破」
「オペレーター、機体の様子がおかしい、確認してくれ!!」
「誰かその瓦礫をどけろ!」
「しまった、脚が!」
「誰でもいい、助けてくれぇ!!」
 入り乱れる通信から察する限り、一部戦果を挙げ続けているものも中には居るようだが、他のレイヴン達も、やはり実働部隊の戦力に押され気味と伺えた。ノイズや砲声、爆発音や断末魔を最後に途切れた通信も少なくない。
 そんな中、何かがヴィエルジュの前方を、右から左へ、猛スピードで横切った。それが
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