#27.母

「終わったようだな」
 全てが終わった事を察し、エースから通信が入る。そして、アルカディアがヴィエルジュの眼前へと降り立った。
「ああ……全て終わった」
「全てだと?」
 エースの目から、途端に不快の色がにじみ出た。
「まだ終わったと思うな」
 どう言う事だとアストライアーは身構える。
「言う事があれば、これを見てから言うがいい」
 それだけ言うと、エースはアルカディアの頭部と上半身を、人間が振り返るように後ろへと向けた。
 その先では、エースが選定した同志であるテラが駆るスペクトルの機影があった。エースの呼集を受けるや、ヴァッサーリンゼにスキュラを任せて馳せ参じたのだった。しかし、OBも併用してセクション間連絡通路を疾走してきたにもかかわらず、現地に到着したのはBBの最期と同じになってしまった。
 その後ろに、最近第3アリーナに参戦して来たベクターが操るヒュプノスもいる。ロイヤルミストと入れ替わるようにして現れたのだ。
 そのヒュプノスと並ぶように、これまた最近第3アリーナに参戦して来た、見慣れない真っ赤なフロートACが佇んでいた。
 レイヴン名はブリッツスター。もともと第5アリーナのランカーだったが、第5アリーナのランカーが実働部隊によってほぼ全滅となった上、第5アリーナそのものを抱えるパルナシティの都市機能が失われた為、トレーネシティに移ってきたレイヴンだと、アストライアーは聞いている。
 搭乗機ハイウェイスターは、現行パーツ中では最速と謳われるフロート脚部MLR-MM/PETALに、ヴィエルジュとほぼ同型の上半身を乗せている。カラーリング以外で違うのは、コアがMCL-SS/ORCAである事と、右腕にMWG-MG/1000を携えている事ぐらいである。ただ、そのマシンガンは武装解除されており、近くの岩陰に置かれている。
 そして、その派手なカラーリング以上にアストライアーを注目させたのは、ハイウェイスターが両手で、後生大事に抱かかえている幼子の姿だった。
 紛れもなくエレノアの姿だった。
「万が一と言う事もあるからな、彼等に保護を頼んでいた」
 エースが説明する。
 やがてハイウェイスターが着地し、両手をゆっくり地面につけたに及び、虚無の影が漂い初めていたアストライアーの蒼い瞳に、何かにとり付かれたような輝きが再び灯る。
 エレノアに会える――狂おしいまでの衝動に突き動かされたアストライアーは、急ぎ愛機のコックピットから降り、走っていった。
 一方のエレノアもその姿を認め、すばやく地面に降りると、女剣士目掛け、突進するようにして駆け出した。
 やがてエレノアは、走って来たアストライアーの胸の中に飛び込むようにして、アストライアーに抱きついた。
「…ただいま」
 笑顔で挨拶をするエレノアの顔は、大分懐かしいものであったが、以前、いつもと変わらぬ無垢な笑顔だった。
 しかしよく見ると、エレノアには所々傷やアザが出来ていた。BB達に拉致された時に付けられたのか、あるいはアルカディアから仲間達に渡る時に、どこかをぶつけるなり何なりしたのだろうかと、アストライアーは思った。
 痛々しいその様子を目の当たりにし、アストライアーの瞳は、自分でも分からぬうちに熱くなっていた。
 だが、それでもエレノアは無垢な笑みを絶やさなかった。
「……どうして、笑ってるんだ?」
 声が震えていたアストライアーとは正反対に、エレノアはやはり以前と変わらない無邪気な声で、幼稚と言えば幼稚な答えを返してきた。
「だって、あたしがわらったらおかあさんもわらっていてくれるから。だか
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..8]
[7]TOP [9]目次

まろやか投稿小説 Ver1.50