「チッ、反応なしか……」
まさかスキュラが風邪で倒れているとは思ってもいないアストライアーは、この日も彼女に返事をよこせと言う主旨で、幾度も携帯端末をダイヤルしていた。
ここでアストライアーの発信履歴を見たならば、6月7日午後2時から24時間後の現在に至るまで50回近い発信がある事に気付くだろう。
傍目には悪戯電話か嫌がらせの類に見えるかも知れず、アストライアーとしても、これが嫌がらせ紛いの行為になっているだろうとは思っている。だが、これほど回数を多くダイヤルしていれば、嫌悪か何かを露わにしてでも自身に「止めろ」なり何なり言うだろうとも期待していたのも事実だった。今の所、その期待は裏切られているのだが。
スキュラは携帯をマナーモードにしていたっけか? そうだとしても携帯を持ち歩いているならばいずれは気付く筈だと信じて。
「アストライアーさん?」
女の声で、アストライアーは我に返った。そして、私は今撤収中だったんだと思いだした。
「何でもない。それより、さっさと戻るぞ」
溜息と共に操縦に戻る。
現在ヴィエルジュは、セクション709のだだっ広い荒野のど真ん中にいた。お馴染みのアヴァロンヒルではない。地理的には同じ第1層の自然区にあるのだが、天使とも仏像とも取れる容姿をした機動兵器の残骸も、そのほかの巨大な残骸も此処にはない。あるのは乾いた台地と石ころ、爆撃機グランドロックの残骸ぐらいのものだ。
そして、荒野の只中とは言えまだ機能する都市が遠くに見え、その中心には他セクションへの連絡通路である事を示す巨大ターミナルが鎮座していた。この都市はキサラギが管轄しており、同社の研究施設も存在している。
ユニオンに資金提供していた報復措置として、クレストはここに爆撃機を差し向けさせたのだが、途上のアヴァロンヒルにおいて、キサラギから派遣されたレイヴンの奇襲を受けた。爆撃機はエンジンを損傷しながら、此処まで辿り着いたものの、墜落したとアストライアーは聞いている。
そのアストライアーは、座礁したミラージュの軍事研究船に向かい、データポッドの回収へと向かっていたのだ。その依頼は達成したのだが、アストライアーの不平不満は絶えない。
「全く、貴様がしくじったせいで……」
アストライアーの蔑みの視線は後方に向けられていた。
バズーカを手にし、頭部をお馴染みのMHD-RE/005からCHD-02-TIEに換装したヴィエルジュの後方には、戦場には似つかわしくないピンク色に塗装された、支給された時そのままのアセンブリのACが続いている。第3アリーナのランカー達を知っているならば、現在の最下位最弱ランカー・元メイドのカリンが駆るハウスキーパーだとすぐに気が付くはずである。
「回収に向かった奴が回収されるなんて洒落にならん!」
「だ、だっていきなり通路が崩れて……」
元々データポッドの回収はカリンが受けた依頼だったのだが、彼女は座礁船の通路崩壊によって帰還出来なくなり、結局アストライアーに「データポッドと、データポッド回収に向かった元メイドを“回収”して欲しい」と、あきれるような依頼を出したのであった。
「でも、こうしてデータポッドも無事だったのですし……」
「無駄に手を煩わせるな!」
アストライアーは怒鳴った。
「大体、これが回収系のミッションで、しかも敵戦力も殆ど居なかったから良かったものの、本来なら貴様の様な役立たずはとっくに死んでるぞ! こうして助けに来てやっただけ有り難いと思え!」
「ご、ごめんなさい〜」
「謝罪など聞きたくもない! 謝罪なら貴
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