#23.迫る刻(とき)の中で

 人付き合いを嫌うが故、誰にも語ることはないのだが、マナ=アストライアーは現在、3つに大別される大きな悩みを抱えている。
 一つは養女・エレノア=フェルスの行方である。これはすでに幾人かに勘付かれており、ミルキーウェイに至ってはエレノアがアストライアーの傍に居ない事を指摘する位である。だが、彼女自身「個人情報を迂闊に晒す事になれば、相手に付け入る隙を与えてしまう」として、例え気の知れた同僚相手であっても、決して表沙汰にする事はなかった。
 しかしながら、ガレージで見せる一段と険しい表情、些細な事でも拳銃や黒百合を向ける精神的余裕のなさなど、随所でその影響の節々を見せている。
 もう一つは、直美から突きつけられた「強化人間が非強化人間に劣るもの」が何かと言う事だった。コレについては「絆」「驕り高ぶる精神」「人間的感情の欠如」など、冷えた頭で考え直せば幾らか思い当たる節はあったものの、そのどれもが、真人間だからと言う言い訳にはならないとの見解が、彼女の中であった。
 他の強化人間がどうだかは分からないが、少なくともそれらの欠如は、アストライアーにとって、何らかのマイナス面に作用するとは思えなかった。特に脳までも手術した結果の一つである人間的な感情の欠如は、感情に左右されないと言う事で、アストライアー自身は寧ろプラスに考えていたほどだ。
 先ほど、ヴィエルジュの整備も一通り終えたところでそれを考え直しても、結論は不変だった。
 自分と直美を分かつものは一体何なのか……そんな事を考えているうちに、ガレージの扉が大きく開かれ、ACの輸送に用いられる大型キャリアーがガレージ内へと乗り込んで来た。係員が操縦する作業用MTに誘導され、そのキャリアーはゆっくりとハンガーに向かう。
「また誰かが撃破されて戻ってきたのか?」
 ふと呟くアストライアー。撃破されるたび、あれと同型のキャリアーによって愛機がガレージに戻されていた事を思い出したのだ。
 だがそのキャリアーが、スキュラが愛機を係留していたハンガー前で停止した事で、アストライアーの顔は固まった。
 一体何があったのだと、ハンガーの主の元友人が見ているなど知る由もなく、キャリアー後方のハッチが展開され、中から中量級コアを接続した無骨な4脚がパーツが引っ張り出され、何事も無いかのようにハンガーの前に置かれた。
 そのACパーツは明らかにデルタのものだと、アストライアーには分かった。深いブルーに若干緑がかった白と言う配色と、コアと脚部しかないながらも外見的な特徴から、すぐにそれは分かった。以前、アヴァロンヒルで目の当たりにした時から外見的な様子は変化しておらず、武器腕のマシンガンやチェインガンは遺棄されたと見え、影も形も見当たらない。
 キャリアーはデルタをカーゴから引っ張り下ろすと、何事も無いように立ち去って行った。輸送してきたACの持ち主の消息が、アストライアー第3の心配事であるなど知らんとばかりに。
 アストライアーは手早く携帯端末を引っ張り出すと、記憶にあるスキュラのダイヤルを素早くタッチした。数度に渡るダイヤル音の中で、アストライアーは苛立っていた。
「あいつ、連絡もなしに一体何をやってるんだ……」
 アヴァロンヒルで一旦殴り倒してしまい、輸送ヘリ到着後も意識が戻らなかった事から病院送りとなって以来、スキュラの行方は妙として知れなかった。
 これまでに幾度も携帯端末や自宅にダイヤルしたのだが、一切反応なし。メールしても返事が全く来ない。搬送された病院に行っても面会を断られ、数日前に向かった時に至っては「す
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まろやか投稿小説 Ver1.50