#22.第3アリーナ情勢

 グローバルコーテックス管轄のACガレージは、ただACを保管しておくだけの場所とは限らない。
 実際はACを係留・整備するガレージは勿論、作業員や搭乗者用の仮眠室、同じ敷地内にはコンビニエンスストアやコインランドリー、一般乗用車用の駐車場、そしてコーテックス直轄のガレージの管理所等が設置されている。さらにはガレージと長期契約を交わした作業員の為の宿舎までも用意されている充実振りである。
 この宿舎は、宿舎内は作業員一人一人がよりプライバシーを保てるように作られている。採掘現場の労働者や企業の歩兵部隊用のそれが、何の事はないプライバシー皆無の共同宿舎であると考えれば、扱いはまさに雲泥の差といえた。
 その作業員用の共同宿舎の地下1階に、BBの刺客から逃れるため、自宅を飛び出したマナ=アストライアーが息を潜めていた。彼女は現在は殆ど使われておらず、半ば機材置き場も当然となった部屋の片隅に活動拠点を移していたのだ。
 スキュラの住居を間借りする事も出来たが、彼女はそれを避けた。親友に会うのが気まずい事に加え、迷惑が掛かるだろうと配慮したのである。
 地下室では、それまでとは比べ物にならないほど質素な生活を余儀なくされたが、慣れてしまえばそれほど気にはならなくなった。それに地下室に時折出没するゴキブリなど、自分の事しか頭に無い殺人鬼紛いのレイヴン達や、あるいはレイヴンの面を被った社会不適応者、そして管理者の実動部隊と戦って来た女戦鴉にとっては何でもなかった。この地下室で、レイヴンや管理者の部隊と比べられる様な危険は、刺客が潜んでいるかもしれない事以外に、果たして有るのだろうか?
 そんな彼女は、この地下室に(勝手に)身を潜めてから1ヶ月近い日々の間、エレノアの捜索を独自に行なう一方、アリーナの試合や依頼をこなしながら、自分の命を狙っていた40人あまりの刺客・ギャング・チンピラ・暴力団員・そしてレイヴン達を全員返り討ちにし続けてきたのである。
 それ以外の事象においては、大抵地下にとどまったままの彼女にも搭乗機の整備等で外に出て来る機会はあった。世界情勢やレイヴンの人間模様等の情報は、其処から断片的ながらも垣間見る事が出来た。
 そして今はまさにその状態であった。


「アスさーん!」
 まだ少年とも言って良い新米整備士、テリー=アルジャーノンが女剣士レイヴンを呼ぶ。キャットウォークに括り付けたハーネスに吊られて作業していたアストライアーはワイヤーを緩め、ガレージの床へと降り立つ。
 ヴィエルジュ周辺では、久々に整備士達が各種整備に奔走している様子が見られる。今日は5月30日なので、すでに整備士達のボイコットは終了し、昼過ぎからヴィエルジュの整備が再開されていた。
 アストライアーは、その手伝いをしていたのだった。
「さっき試合見てたんですが、バルバロッサさんがエースさんを破りました!!」
「そうか……」
 最近のエースはアキラに挑戦したいと語ってはいたが、バルバロッサやBBとの潰し合いを演じ、アキラに挑戦する猶予がなかった事は、ファンの間でも周知の事実となっていた。ただ、バルバロッサは挑戦の度にエースに死角を取られ、剣戟を浴びて惨敗する事も多々であり、彼とは相性最悪とも囁かれていたが……。
 勿論この対戦は、BBの意向は無視されていた。上位勢との戦いは、一人ずつ勝ち上がって行く事が不文律だったとは言え、そもそも自由にランカーに挑戦出来る以上、いきなりエースに挑む事も出来るのだから。
 ただし数日前、バルバロッサは実際にBBを蹴落としていたのを、アストライ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..10]
[7]TOP [9]目次

まろやか投稿小説 Ver1.50