#16.急襲

「よし、こんなもんだろ」
「そうか。試しにこいつを乗り回して良いか?」
「そりゃダメだな。演習場が他のレイヴンでふさがってるし、かといってこのガレージの周辺で乗り回す訳にもいかんだろう」
「そうか……残念だな」
 この日も特に何事もなく、整備用ハンガーに係留された蒼白いACの横で、サイラスとアストライアーが、昇降用リフトに立って話を交わしていた。
「サイラスさん! CWG-GS-56の弾薬補給終わりました!」
「よし、ご苦労」
 若い整備士の報告を受けると、サイラスはアストライアーの肩を叩きながら続けた。
「喜べアス、これでまた普通通りにザクザク相手を斬り殺せるぜ。まあ、あんまりやり過ぎんなとは言いたいがな……あんたに言ってもどうせ無駄だろ?」
「無論」
 アストライアーとサイラスが昇降用リフトでガレージの床へと降りている時も、向こうでは整備を終えたフィンスティンガーが、ガレージの外へと進み出している。
 アストライアーがそれを静かに見送る横では、整備士の誰かがつけっぱなしにしたテレビが、デモ運動の様子を報道していた。参加者達は何れも、レイヴンに家族を殺された遺族だった。
「ケッ、鬱にならぁ」
 テレビを眺めていた若いレイヴンが悪態を付いた。人の恨みを買っているレイヴンである事に居たたまれなくなったのだろうと、アストライアーは見ていた。
 彼の気持ちも分からんでもないが、そんなAC乗りはアリーナに行った方が良いだろうと、アストライアーは考えていた。
 レギュレーションの問題も有るが、自分の好きな機体で思う存分戦え、何より観客席を保護するシールドや、コックピットに取り付けられる特注品のシールドにより、事故でも起こらない限り、基本的に人は死なないのだから。
 実際、依頼を受ける事無く、アリーナ専門で活躍するレイヴンも存在する。
 しかし、このガレージにおいてはそんなアリーナや依頼における戦闘の内情はどうでも良かった。何故なら此処はACを整備し格納する為の場所であり、アリーナや依頼で派遣された戦場ではないからだ。
 そしてヴィエルジュは、戦闘がない今は己の出る幕でない事を知っているかのように、ハンガー諸共下部のハッチに引き込まれ、地下の駐機スペースへと降ろされた。
 毎日依頼に引っ張りだこならば兎も角、今は受けるべき依頼がないため、ヴィエルジュが必要になるまではこうして収納しているのである。他のレイヴン達も同様で、特に複数のACを持つレイヴンは、こうして、限られた駐機スペースをやりくりしている。
 ハッチが閉ざされてから少し遅れ、アストライアーを載せたリフトも床に下りた。
「あー、腹減った」
 サイラスの呟きを聴き、アストライアーは左腕に付けられた腕時計を確認する。現在時刻は4月18日の12時32分。世間一般では昼飯時であろう。
「無理もあるまい」
 サイラスが、今朝からヴィエルジェのメンテナンスに奔走していたから事を、アストライアーは知っていた。そして、それが昨日のミッションに原因がある事も。
 昨夜、アストライアーはミラージュの依頼で、ユニオンに情報を売り渡していた裏切り者を抹殺せよとの依頼を受け、出撃した。
 標的となっていた相手は、ブレードの使い手として知られるミラージュの専属レイヴン2人で、それぞれが軽量級と重量級の2脚を操っていた。
 アストライアーはまず、重量2脚を側面からの斬撃で難無く撃破、直後に軽量級2脚の反撃に遭い、愛機のミサイルポッドと右腕のバズーカを切り落とされながらも斬り合いに臨み、やがて軽量2脚も討ち取った――と言うのが大筋
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まろやか投稿小説 Ver1.50