#14.アイアンメイデン

 テラとの試合から3日が経過した。
 雨が続いている中、アストライアーはトレーネシティの公園の噴水前に、アタッシュケースを片手に佇んでいた。
 この公園は、どれ位前だっただろうか、彼女が以前クレストのMT部隊に包囲された場所だったなとアストライアーは思い出していた。あの時の戦闘の後か、公園の出入り口付近には何かを燃やした様な黒い燃え跡が生々しく残っていた。彼女が倒したMTがあそこで爆発したのだろう。
 だろうと言う抽象的表現だが、実際あの時は爆発するMTの様子などいちいち見ていられる状況ではなかった故、推測するより他無かったのだ。そんな暇があったら大抵のレイヴンは包囲網を強引に突破して逃げているか、一斉攻撃の前に崩れ落ちているのかのどちらかだ。
(遅いな……何をやっているんだ?)
 さて、この雨の中、アストライアーは先程から人を待っていた。腕時計は午後1時59分を指し示している。約束時間は2時である為、時間的猶予は1分程度しかない。
 それなのに、まだ人は来ない――否、この雨の中公園にいる人間自体稀だ。見渡す限り、そんな人間はマナ=アストライアーただ一人だけである。最も、当の彼女も人間と呼べるかどうか、極めて怪しい存在では有るが。
(仕方ない、もうしばらく待つか……)
 遅れるようならば文句でも言ってやろうかと思いながら、アストライアーは雨の中で、自分を目的とした人間が訪れる時を静かに待つ事にした。


 そうして、それから更に10分が過ぎた。
 あまり知る人間は少ないが、アストライアーは結構時間に厳しい。もしこれで、彼女を呼び出したのが同業者だったら、その者は文句を言うだけ言われ、その後はロクに取り合おうとはしなくなるだろう。
 やはり来ないのかと懸念するが、しかし今回の用件はそれを理由に蹴る訳には行かないことを、当事者であるアストライアーは痛いほど分かっている。
 もう少し待ってやるしかないかと思った直後、遠くから足音が接近してきた。とは言え、単に聞いただけでは水溜りや濡れたアスファルトの水が跳ねる音にしか聞こえず、それも遠くを行き交っているであろう車のタイヤが放つ、より大きな水音にかき消される。
 しかし、雨粒が落ちた時の音と比較して大きく、そして規則正しく聞こえて来るので、アストライアーには足音と分かった。
 足音の聞こえて来た方向に視線を向けるアストライアー。青い瞳の先には、レインコートに身を包んだ、青いショートヘアーに青い瞳の女性が歩いていた。
 それは以前、演習場に現れたメイド服姿の女性であった。
 あの時はストリートエネミーとミルキーウェイが場に居るだけで、アストライアーはあの場にはいなかった。普通なら警戒するのではと思われるが、しかし彼女は警戒の色を表に出さず、また、その必要性もないと認識していた。何故なら、このメイドと女剣士レイヴンは顔見知りであるからだ。
「マナ=アストライアー様ですね?」
 女性の問いに肯くアストライアー。
「遅かったじゃないか、セドナ」
 アストライアーはその女性――以前演習場で戦ったインテリ風ACパイロット・ドクトルアーサーを主とするメイドの名を口にした。最もメイドと言うのは外見だけで、実際はただのメイドには決してこなす事など出来ない、別の役目をになっているのだろう。第一、アーサー共々、グローバルコーテックスの演習場に現れる辺りからもそれが窺える。
「途中道路の深みにはまってしまい、立ち往生していたのです……申し訳ありませんでした」
「いや、別に良い。それより急いだ方が良いのでは? 貴女の主が待っている
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まろやか投稿小説 Ver1.50