#13.Lady Blader II〜Gun&Blade mix〜

 マナ=アストライアーは、己がアリーナに完全復活するべき時を、閉ざされたコックピットの中で待ち続けていた。
 以前のアリーナは、アストライアーにとっては、ヴィエルジュと自らのコンディションを確かめる為の試運転に過ぎなかった。あの程度の相手との試合は、彼女から言わせれば「練習試合にも劣る戦い」であり、相手との圧倒的技量差ゆえ、何も感じぬままに終わる事が多い。実際ランガーとの試合はそうだった。特に駆け引きの必要もなく、ただ斬るだけで終わったのだから。
 ただし、その後のドクトルアーサーとの戦いでは、アストライアーは練習とは言え、あの段階で持ちうるスキルはその殆どを動員していた。そして全てが終わったとき、アストライアーは感じていた――自分に技量が戻っていた事を。戦いの中で、失われた力が戻っていたのである。
 故に、アストライアーは時此処に至り、最終的な復活への課程を終え、次の勝利を以って完全復活を成し遂げると、己の中で期していた。
 そして、遂にこの日――3月22日の午後3時過ぎ、女剣士の完全復活を高らかに唱える為の試合が幕を開けようとしていた。
 彼女は既に、万全のコンディションに整備されたヴィエルジュの中で、入場ゲートが開くのを待っていた。アリーナで常に見せている、殺意を多分に含んだ冷たい表情を伴って。エレノアに見せた微笑は微塵もない。その様子は、いかにしてテラと戦うかを考えているかを窺わせると共に、これから始まる試合に向け、精神統一をしている様にも思わせた。
「レディース・アンド・ジェントルメン! 大変お待たせしました。続きまして、本日の注目カード! アストライアー選手とテラ選手の試合を開始します!」
 試合内容を告げるアナウンスに続いて、入場ゲートが開かれる。まず姿を現したのは、テラが操る黄褐色の射撃戦特化型中量2脚「スペクトル」。名銃と謳われる大型レーザーライフルMWG-KARASAWA――俗称「カラサワ」を最大限に活かすべく組みげられたACである。
 その名銃を搭載する為、現行パーツ中では最軽量のコアと腕部を採用し、それ自体がレーダーと化したような頭部を有し、武装はカラサワとブレードのみ。一見すると駆け出しのレイヴンが操る、装備不十分なACに見える。
 だがその一方で、スペクトルは徹底的なまでに無駄を排した機能美を反映させていた。手にしたカラサワと同じカラーリングが施された右腕が、そんな彼の拘りを物語っている。
「続きまして、アストライアー選手の入場です!」
 アナウンスが告げられると、観客からは歓声とブーイングが上がった。そしてその歓声の中、復帰を果たしたアストライアーが操るヴィエルジュが姿を表す。
 無論その左腕には亡き父の形見であり、彼女の愛刀である大型レーザーブレードが、右腕にはショットガンが握られている。近接戦を主眼として組み上げられた、処女宮、あるいは処女そのものを意味する名前とは似ても似つかない精悍なフォルムからは、既に風格さえも漂わせている。
 そして、それは実際にフォルム面でも評価は高かった。ブレードを主武器に戦うレイヴン――いわゆるブレーダーは、アニメや映画に代表される娯楽メディアの影響もあるのだろうが、余程の者でもない限りはファンからの支持も根強い。
 ただ、アストライアー本人が決して意識していたわけではないが、ヴィエルジュの造形美を狙ったような配色やデザインは、「兵器に外見の華麗さを求めるなど邪道だ」と言う一部の狂信的な機能美主義者からは徹底的に叩かれていた。実際、敵を倒すには銃でも事足り、無理にブレードなどを使用す
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まろやか投稿小説 Ver1.50