#11.再飛翔への道標

「はいはい、こっちだよー」
「待ってくれ、そんなに急かさないでくれ。まだ体の自由が利かないんだ」
 拍手をするように、アストライアーを手招きつつゆっくりと後退して行くエレノア。当の女剣士は、そこから数メートル離れた所から、彼女をゆっくりとしたペースで追っていた。
 怪我をしている様子はないが、しかしその動作は非常に緩慢で、時折目まいを起こしたかのように左右に体が揺れ、動きが不安定になる。
「大丈夫かな、お姉さま……」
「殆どババァだな、ありゃ」
 そんなアストライアーの後方から、ゆっくりとした歩みで後を追うのは、彼女と同じアリーナに籍を置くレイヴン、ミルキーウェイとストリートエネミーであった。
「でも意外だね、お兄ちゃんがアスお姉さまのリハビリに付き合うだなんて」
「あのな、俺だって人間の端くれだぜ? 度々共闘してる人間なんだし、一応礼儀ってモンがあるだろ?」
「ほう、一応と言い切るか……」
 一瞬殺意を覚えるアストライアーだが、それもストリートエネミーなりの気遣いだろうと割り切り、殺意を表には出さなかった。


 アストライアーがこの病院に担ぎ込まれてから、今日で丁度3週間が経過した。
 その3週間の間に、強化人間化した際に不本意ながらも獲得した、常人を凌駕する治癒能力が幸いし、身体はほぼ完全に治癒されていた。最も彼女は体の大半を機械化している為、治癒よりは修理、もっと平たく言うならば自己修復と言った方が良いのだろうが。
 だが生身の部分、特に神経系は修復完了した擬体にまだ馴染めていない上、今まで寝たきりの状態だったことも手伝ってか、完全に平行感覚が狂ってしまい、この数日前、彼女が再び2本足で直立した時には、まともに歩けないような状態だったのだ。
 その間、先に男がアストライアーを刺殺しようとした件について、彼女は警察の取調べを受ける事となった。男との関係に始まり、自分の過去の行動等を色々と聞かされたのだが、レイヴンとしての行動や意趣返しへの反撃について口を割らない様にしたと言う前提で、それらの一つ一つに自分の記憶に基づく回答を下し、また当時重症人であった事から、男の傷害容疑はあったが、結局不起訴となっていた。
 男をノックアウトした直美については、監視カメラや、当時病院にいた者達からの証言で確認されていたが、結局捜査の手は及ばなかった。ベーシックID以下、彼女に繋がる情報が全く見つからなかった為だ。
 結局「回復を待って男への事情聴取を行う」まで取調べは保留となったが、男は脳挫傷の上に頚椎を損傷し、ICU(集中治療室)に担ぎ込まれた時には既に意識不明、しかも治療したとしても意識が戻るかどうかは不明とされたが、彼のその後について、アストライアーは感知しなかった。
 そうした中、彼女はリハビリも兼ねてエレノアと共に病院の敷地内を散歩しているのだ。ミルキーウェイとストリートエネミーとは、その際に遭遇した。

「しかし……こうして見ると平和なものだ」
 アストライアーは歩みを止め、晴れ渡った人口の空を見上げる。空には雲がなく、妙に青く澄み渡っていた。一見すると、とてもこのレイヤードが破綻を来たし始めているとは思えなかった。
 現在アストライアーが入院している病院は、彼女の自宅があるレイヤード第一層・第一都市区にあるが、此処にも最近になって、管理者部隊と思しき特殊MTが出現し、建造物等に被害が出るようになっている。こうした混迷に乗じてのテロ活動も、相次いでいると言う事も聞いていた。
 それでも、レイヴンによって何とか管理者部隊は撃退され、その為か此処の
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まろやか投稿小説 Ver1.50