正体不明勢力調査後編 OK

 前回の調査より数日後、同盟コロニー全体による大規模なルート警戒が開始された。
当然ながら第一MT部隊の隊長機、ナストロファージと、そのレイヴンのエグは隊員やエレンと一緒に現場に出動している。
 移動中のキャリアはMT格納庫とAC格納庫、車両制御部の三ブロックで構成されている。
前から車両制御部、AC格納庫、最後尾がMT格納庫で、各ブロックには上部に移動用通路が設けられ、それぞれの防衛兵装を管理するACのコクピットの様に狭い個室がある。
人員防衛の為、全ての兵装は制御部で操作されるが、機能が停止した場合は個室に担当員が入って、機銃装置の操縦を行うのだ。
 
 ――こんこん。
ノックの音がする。
「う――ぁ?」
時間通りに目を覚ましたエグは、少々を寝ぼけを感じながら、自分の起床より一瞬早かったノックに反応する。
「エグ?」
戸の向こうだからだろう、エレンであろう声が曇って聞こえる。
「ああ…」
曖昧に返事をしながらベットから出て、戸に手を掛ける。
ガラッ、と障子を開けると、やはりエレンの姿が。
 因みに、当然キャリア内は厳格に感じる程装甲しかないのだが、各部屋が『ドア』でなく『戸』、それも『特殊障子』と呼ばれる障子を使用しているのは、相変わらず意味不明な和の取入れの結果――否、ある意味日本文化の深いエグ達にとっては被害ですらある一種の嫌がらせにも相当しかねない。
そして、特殊障子の『特殊』足る所以は、紙が何故か頑丈なのだ。
蹴るか殴れば破れるのだが、何故か銃撃しようがMTのレールガンを銃口をくっつけた状態で撃ちかまそうが、衝撃で吹き飛ぶ事はあるが、傷や焼跡は一切作れない、一体何が如何なっているのか、全く見当のつかない素材で出来ているらしい。
 エグが初めて知った時は「ACの装甲に採用しろ」とアンタレスに進言したのだが、その答えは「突出ブレードやACのパンチには耐えられるが、人のパンチには何故か究極的に脆いので、何となく嫌だ」だった。
正直、ACを生身で殴ろうと思う奴はいないだろう、としか思えない。
 「態々起こさなくても良いのに」
「それじゃ味気ないじゃない」
「味気も何も、自分で起きられなきゃレイヴンが務まるか」
そう言って、洗面所へ向かう。
既に居た隊員達と挨拶し、顔と歯を磨く。
それが終わると、狭い食堂で炊きたての米と味噌汁、鮭の塩焼きを手短に食べ終える。
「御馳走様」
 食後の挨拶を済まして、トレイを片付け、制御部のブリーフィングルームへ入る。
 「エレン、情報は?」
「入ってる。
今回担当するのは4番地区と9番地区を最短距離で結ぶ直線通過トンネル。
今回は機体無しの生身での調査になるわ。
まあ、実際はバトルスーツを装備するから『生身』ではないのだけれど」
 エレンが言い終えると同時にエグが机のパソコンを操作する。
モニターに映る真っ黒なスーツが表示される。
「これだ。
訓練は普段のメニューにあるが、実働運用は初めてだ。
其処で車両から降りたら、まず作戦エリアに入る前にスクリーンシステムを用いた模擬戦闘を経験して貰う。
相手はゾンビの様な…そう、これだ」
映し出されたのは、人型の、しかし人の腕であろう物が異様に短く、代わりに背中から左右に伸びる腕の長い爪が印象的な、非常に気持ち悪いモンスターである。
「旧時代のアメリカのゲーム会社からキャラクターを引っ張って来た。
ネクロ…忘れた。
兎に角、このゾンビもどきを俺抜きで百匹全員で倒して貰う。
良いな?」
―きも!?― ―ゾンビより怖い―
―それ言うなよ― ―うわあ、只でさえトンネル暗いってのに
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