、かな…?)
あの恐怖は何だろう。
見た目に惑わされた、と言われれば納得せざる得ない。
只、それだと分からない部分が確かにあるのだ。
あの時、エグやトラックの運転手を含めた出撃した全てのパイロット達が口を揃えて「モニターに顔が映った」と言っていた。
その後も近距離通信は出来たらしいが、結局エレンとエグが通信出来たのは、それ以降の事だ。
ドームから運搬部隊が出る迄、通信に不自然な雑音が紛れていたのも事実だ。
だが、ケティーヴァは、それを含めた大部分に関してはエレンに事を言うつもりはないらしい。
「まあ、一介のオペレーターが全部知っても意味はないからなぁ
同盟グループ内でも、このコロニー自体、兵器開発を請け負ってるだけで、重要視されているプラント能力は皆無だから、結構下だし。
せめてエグが、もっと強ければなぁ」
「エグが悪いんですか?」
ついカッとなって口を出してしまうエレン。
「まあ、アームズフォートは倒せないだろう?」
そう言われたエレンは、自分自身の事を言われた訳でもないのに、あからさまに怒った。
「じゃあアームズフォート狩りさせるんですか!?
知ってるでしょう、腕が突出したレイヴンが片っ端から暗殺されるのを!!」
「それはオペレーターの情報収集が悪いからじゃないか?」
「…フランス人って嫌味ばかりで!!」
そのままエレンは会議室を出てしまった。
「ありゃ担当レイヴンが嫌な風に言われたから、じゃなくて夫が悪く言われたから、の反応だなぁ…」
「そう思うなら何故嫌味ばかり言うんだい?」
「うおっ!?」
突然の声に振り向くケティーヴァ。
「アンタレスさん!!
い、居たんなら居るって言ってくれれば…!!」
「言ったら仕事仕事煩いでしょ?」
「だっ、そりゃあ、そうですよ。
何で、こんな所に?」
「僕が此処に居て駄目な事が?」
「そりゃ屁理屈ですよ」
ケティーヴァは溜息交じりに言うがアンタレスは気にしない様子だ。
それがアンタレスらしいと言えば、アンタレスらしいが、もう少し此方の事を考えて欲しいと願うのは仕方ない事かも知れない。
少なくとも今のケティーヴァは、そう感じる。
「そうそう」
唐突にアンタレスが話題を放り込んで来た。
「例の幽霊もどき、地下トンネル全域を走り回ってるよ」
「何で貴方が、それを知ってるんですか?」
「リーダールートって奴だよ。
君も言ったろう、一介のオペレーターが知っても無意味だって。
要は、そう云う事だね」
(教える気はない、と)
「そゆ事」
「!?」
口に出した筈のない言葉の返事をされてケティーヴァは驚いた。
「見え見えだよ」
「見え見えって…」
アンタレスの左目が青く輝く。
それは比喩ではない。
そもそも彼の瞳の色は黒だ。
そして青色に変わった訳でもない。
「気にしても仕方ないよ。
知れば君も潰れかねないから」
そう言ってアンタレスが自分の横を通り過ぎようとする。
「待ってくださ――えっ!?」
その手の動きは、確実にアンタレスの肩を掴んだ筈だった。
だが、感触がなかった。
アンタレスの姿もない。
急いで部屋から飛び出て左右を確認するも、やはりアンタレスは居なかった。
ケティーヴァは自分の掌を見ながら、首を傾げるばかりだった。
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