撃前に飲むのが決まりである。
服用してしまったのである。
出したくても出せない。
それが恐怖になる。
出撃前に防御力が〜〜なんて考えていた自分を殴り飛ばしたい。
それ位怖い。
全てが怖くなって、敵ACの出現の恐怖が消し飛んだ頃だった。
『タス――ケテ』
『タ――ケ――ア――』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
再び通信。
『た――けて――た――』
「怖い怖い怖い怖い」
『た――助け――助けてくれ――』
「怖いこわ――うん?」
『た――けて――助けてくれ、エグ!!』
車両からだ。
カメラを上げると、黒い物体が浮遊しており、沢山のそれが車両の周りを行ったり来たりしていた。
完全な固体ではなく、煙の様に常に輪郭が揺れている。
浮遊・黒い・輪郭が分からない。
見事にホラーを語る三拍子だ。
「う、うわあああああああ!!」
モニターにそれが沢山映り、ロックマーカーがあっちこっちに飛び回る。
「来るな来るな来るな来るな来るな、こっちに来るんぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
堪らずトリガーボタンを押しっぱなしにする。
ズガギャギャギャギャ!!!!
酷い金属音の様な発射音と共に弾丸が撃ち出される。
黒い何かを順調に減らすエグ。
数が減っている事に気づき始めたエグは、冷静さを取り戻し恐怖に支配されていた思考を取り戻し始めた。
頭の中が『怖い物を排除する』事から『敵戦力の掃討』と云う最もらしい、それに変化していた。
死神の姿をした敵が鎌を振り下ろす。
冷静に右に回避し、ブースターを吹かして旋回しながら―つまり敵を正面に捉えながら、旋回し、レーザーブレードで一閃する。
敵は相変わらず浮遊しているが、よろめいた。
効いている様だ。
ならば問題ない。
敵の攻撃力が、どれだけあろうが相手は接近戦しか出来ない。
であれば、当たらなければ如何と言う事はない。
「っふ!!」
歩行ペダルを踏みながら操縦桿を倒してブーストペダルを踏みつける。
横に振られた鎌を飛び越え、敵の肩に脚部を叩き付け、そのままメインブースターだけで後ろに下がる際の自動運動で、脚部が前に突き出されるのを利用して、敵を壁に叩きつける。
「もう一発!!」
鎌を苦し紛れに降ろうとする敵。
だが、鎌の方向と逆に振ろうとしていた。
其処をエグ機のレーザーブレードが焼き飛ばす。
中途半端に振られた鎌が壁に刺さって消える。
逃げようとする敵へマシンガンを乱射。
至近距離で乱射のほぼ全弾を叩き付けられた敵が爆散する。
『…お?』
『機体システムが復旧した!?
一体何があったんだ?』
通信状況を一通り確認したエグが訪ねる。
「モニターは映っていたのか?」
『映るも何も、システムダウンしてたからなあ。
一応、発砲音っぽいのとレーザーブレードの起動音は聞こえたけど。
誰かが戦ってるって事は、流れ弾来ないかな、って。
怖かったぜ、ふう』
『―――』
(エレンは相変わらず、か。
何だったんだ、今のは?)
生物をロックオンするには頭部に生体センサーが必要だ。
なら幽霊も元は生物だったのだからセンサーが必要な筈だ。
或いはロックオン出来たのは『生きていなかった』からかも知れない。
ともあれ、あれは一体何なのだろうか。
一応、このドームには無法者が居る筈だ。
無法者の幽霊だろうか、と考える。
が、車両に群がるのは兎も角、死神の様な姿は一体何なのだろうか。
ジオ社に雇われたレイヴンのACに殺され、その際ACが死神に見えたのなら、ぎりぎり分からなくもないが。
兎に角、此処から去った方が良いのは、分かり切っている事
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