企業連合管轄下により建造された企業社会の運営を担う情報都市、ソーンガーデン。
ソーンガーデン襲撃事件は、各社上層部、及び企業連合総合管轄機関カラードの力を以てしても、情報漏れを完全に防ぐ事が出来ず、その情報は混乱として徐々に広がりつつあった。
大陸西部。
其処に聳え立つ、巨大な防壁が企業の『計画』が進まない理由だった。
「あれはまだ健在か?」
「はい、消費に対して生産が大きすぎます。
これでは崩せません」
一定距離――と言っても凄く広大な範囲だが、射程、及び感知範囲内に何らかの反応が入り次第、問答無用の大量の高出力プラズマビームが放たれる。
その向こうに顕在する、とある国家の言葉を借りて、『天の川』と表現される。
通称『天の川防衛システム』は、その圧倒的砲門数と出力により、絶壁として存在する。
又、旧中華人民共和国等の中華系統の民族によるコロニーが集中しており、防衛システムと無関係ながら配置上、企業に取って非常に分厚い防衛ラインとなっている。
「…あの民族の実質的な防衛層を迂回するとなると…『竜の巣窟』だな」
『竜の巣窟』。
その名の通り、ドラゴンの巣が集中している地域で、旧ロシア連邦、及び中国の北西に広く展開する危険エリアである。
「南は如何でしょうか?」
「あのルートは、いかせん中東連邦を通らねばならんからなぁ…」
中東の国々が早い段階で自ら合併し、国家解体を免れた、現時点に於ける世界唯一の国家であり、大国である。
企業に対し、非常に強い反対体制を取り、世界中から難民を受け入れ、その恩故に、この時代でありながら強力な志願兵による強者部隊が数多く存在する企業連合に対抗出来るだけの力を持つ国。
その中を通るルートである以上、面倒が多く、企業寄りとされている自分達には無理な話であった。
「衛星軌道上から再突入できればいいんだが…。
企業は『例の計画』で全部シャトルと打ち上げ施設を占領してるしなぁ」
「元々企業側だった割合が多いんだよ、畜生…」
小さな会議室で4人のレイヴンと一人のオペレーターが頭を抱えて悩んでいると、ノックの音がし、その後ドアが開いた。
「失礼します。
企業連合からの依頼メールが更新されました」
「んなの、後々」
「ウェズリー」
髭の濃い、アジア系の貫録のある男が、ヨーロッパ系の容姿の男を咎める。
「へいへいっと」
「何時もの内容なら、確認、そっちで大丈夫よね?
何か、おっきな仕事でも入った?」
「いえ、左程重大な依頼は来ていません。
しかし、3つしか来て無い上に、どれも重大マークがあったので…」
「マークが?」
文字通り重大な依頼につくマークの事である。
「ええ」
「重大な依頼じゃないのにマークって変じゃない?」
ヨーロッパ系の容姿の、優男と云った男が首を傾げる。
「説明から察せる以上の、何らかの事柄でしょう。
或いは――個人的な依頼、でしょうか。
どちらにせよ、依頼の説明内容は凄く普通でした」
「っま、何かあるんでしょうね」
同じくヨーロッパ系のスタイルの整った赤髪の女がサラリと言ってのけた。
「依頼はいつも通りだろう。
確認する程でもない、見る迄は、な。
時間はある。
今は『鉄壁の壁』について、だ。
下がってくれ」
「畏まりました」
依頼メールの事を伝えに来た女性が退室する。
「――で、どうすんの?
壁に特攻掛けるか?」
モニターに映る防壁を親指でさしてヘラヘラと笑いながらウェズリーが尋ねる。
「正直、高度を高く保ってVOBで突撃した方が撃たれる分も少ないだろうよ」
「ばーか、そんなんじゃ速攻で撃ち落
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