北へ

向かい歩いてた。
少女は名前を話したくなかったわけではなく、話せなかったのだ。
少し悪い事をしたと反省した。
月は煌々と青く光り、僕たちの道を示しているかのようだった。
「月や星がこんなに明るいなんて」
心の声が思わず漏れてしまっていた。でも、そのくらい人口的な光が極端に少なくなったこの世界でとても強く輝いているように見えて、綺麗だった。
吸い込まれそうなくらいの夜の闇に、生命の灯火を燃やしてるかの様な星達の輝きに手が届きそうな気がして思わず手を伸ばした。
「綺麗だよね。私、夜が好きなの。」
少女も立ち止まり星を見ていた。
「ごめんなさい」
「え?」
少女は今何に対して謝ったのだろうか。



「さあ、つきましたー!」
周りは木々に囲まれてるがある程度の設備は整ってるようだった。
「ここが研究所か」
プレハブより少しマシなその建物はつい最近まで使われていたのか、蔓や草はあまりない。
早速なかに入った。
中は実験を主にするような空間になっていて、ベッドは一つ、ソファやテーブルは小さめだった。キッチンも小さくなっている。最低限の設備だけになっているようだ。
その小さなテーブルに白い花が咲いていた。
百合の花だった。
「この花は?」
少女がトテトテと歩いてくる。
白いワンピースに白い肌、髪飾りの向日葵がとても似合うロングヘア。
少しドキッとしてしまったのは内緒だ。
「この花は私が好きな花なの。」
「そっか、ならユリは?」
少女は目を丸くして首を傾げた。
「何が?」
「君の名前だよ、ユリはどうかな?」
安易な考えに内心苦笑いしつつも、良い名前だとも思った。
「うん!私は今日からまた、ユリ!」
少女ユリは顔を赤らめながら喜んだ。
また?前に呼んでた人がいたのだろうか?
その答えもすぐに辿り着いた。父がそう呼んでたのか。
偶然にも被ってしまった名前に恥ずかしさが少し込み上げた。
気がつくと少女はソファで丸くなって寝ていた。
「風邪ひくぞ?」
猫みたいなその少女を抱き上げて、ベッドに寝かせる。
寝顔は微笑んでるように見えたが、どことなく悲しいような寂しいような気もした。
ユリが歌ってた歌が時折耳をこだましならがら、微睡んでいた。
あの、歌はなんだったかな?確か、ローレ、ら……。
そのまま歌とともに眠りについた。
13/02/10 21:15更新 / 田中かなた

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