読切小説
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アタシが出会ったお人よし
愛と勇気が勝つ類のストーリーなんて世の中には、決して存在しない。
これは今までこの荒廃した世界で生きて学んだ事だ。
そんなストーリーを信じている奴なんて今まで生きた中で1人しか知らない。
それほどまでにこの世界は破壊しつくされ、希望なんて残されていない。
その愛と勇気が勝つストーリーを信じてる様な奴に会ったのは、何時の時だったか・・・
今でもそいつに出会った事は鮮明に覚えている。
あの頃、アタシは独立系のミグラントとして活動していた。
決してどのミグラントグループに入れなかったわけでもない。
特定のグループに入っちまうと、色々、あるからな。
たまに傭兵で雇われることもあるが、関係は殆どの場合持つことは無い。
それにアタシの利己的な性格も嫌われてるからチームのお誘いすらも最近は無い。
「Death seed blind man's greed. Poets' starving children bleed. Nothing he's got he really needs. 21st century schizoid man♪」
一面砂だらけの砂漠、何も生み出す物はなく絶望の象徴ともいえるような場所。
あいつと会ったのは、まさしく此処で廃品回収をしようとしている時だった。
ところどころ、装甲辺やらが散乱している砂地を移動するとそろそろ見えるはずさ。
っと・・・自己紹介が遅れたね。
アタシは杏子、ミグラントの間では赤い悪魔と言われているらしい。
全く、変なあだ名をつけられるもんだよ。
まあ、機体の色や特性もあるんだろうけどね。
「お、あったあった。」
思った通り、破壊された機体を発見することができた。
奥に広がる砂地が無ければ峡谷に挟まれた砂場のようなところだ。
機体は黄色と茶色が混ざった重量逆接の機体でコアに軽く穴があいており、これが致命傷になったのだろう。
装甲も軽く焼かれておりTE系の武器の砲火を受けたことも推測できる。
まだ、武器回収はされていないようで、武器も携行したままだ。
武器はスナイパーキャノンにライフル、ハンガーにパルスマシンガンとバトルライフルだ。
搭乗者は結構、器用な奴だったのかもね。
もしかしたら、金に物を言わせただけなのかもしれないけどね。
まあ、結果は見ての通りさ。
「・・・うーん。」
スナキャは性能が良ければまあまあな値段で売れるが・・・
パルマシとライフルとバトライはありふれた武器な為に余り儲けにはならないだろうなー。
機体自体をかっぱらう手もあるが、此の損傷具合だとどのくらいで売れるのか・・・
まあ、売れるものだけをかっぱらっていくってのが、アタシの主義だ。
とりあえず、もっと近づいて機体の様子でも確認するかと思った最中の事だった・・・。
「そ、その機体から離れてっ!」
オドオドした少年の様な声が通信から聞こえた。
一瞬、驚いたのは言うまでも無いが、驚いた後はキョトンとしてしまった。
まだまだ、ルーキーのヒヨッ子っていったところに見える。
アタシなら有無を言わさず、残骸を漁ってる奴を攻撃するけどね。
「なんでさ。アンタもコレを狙ってたわけ?」
リコンを射出して周りの状況を探るために索敵を開始する。
通信に対しては、適当に言葉を言った。
「此処はAKマスターアームズの縄張りなんだから・・・その・・・。」
少年はやはりオドオドとしたような声で言葉を言った。
どうにか戦闘を回避したいと言うような思惑が明らかに見え隠れしている。
本当にルーキーのヒヨッ子・・・
いや、くっだらないお人よしだね。
それともアタシの事が怖いのかな?
「それが何?アタシを止めたいのなら攻撃すれば?」
そんな会話をしている最中に機影を確認できた。
砂に埋もれかけている建物の上にちょこんと黒い軽量逆関節の機体が佇んでいた。
武器は両手にライフル、ハンガーにパルスマシンガンか・・・
相性は正直言うと悪いが、アタシには一撃必殺のヒートパイルがある。
相手は通信からしてルーキーだし、技量で押すこともできるかもしれない。
「え・・・うー。」
通信からは困ったような声が聞こえてくる。
何だか、ちょっと可愛く思えてしまったが、此処は戦場だ。
そんな感情なんて持ち込むべきではない。
「・・・んで、どうするの?」
こんなに悠々とはしていられない。
少年に対してアタシは高圧的に答えを聞き出す。
「うーん、スナキャと機体以外なら持って言っても良いけど・・・」
少年はやはり、戦いを避けるために交渉をしているようだ。
しぶしぶと言った感じで言葉を言った。
そんなことを飲むアタシじゃない、奪える物は根こそぎ奪ってやる。
「じゃあ、交渉は決裂だね。」
アタシはサラッと流す様に言葉を言った。
こう言う相手にははねつけるのが一番効果的だ。
今まで生きてきた経験上では・・・だけどね。
「そ、そんな・・・へ!?え?」
少年はアタシの言葉を聞いて引きとめるように言葉を言った。
だが、その後に何だか驚いている様な言葉を言った。
「・・・?」
何が何だか分からなかったと言えば良いだろう。
これから一方的な交渉を始めることができると思ったのに、少年は別の事に気を取られている。
気を取られるような事なんてなんなんだろうか。
「逃げて、今すぐ・・・」
少年は静かに言葉を言って警告を行った。
正直言って何が何だか分からないと言うのが正直な気持ちだ。
何かハッタリでも噛まそうとしているのだろうか
「そんなことで嵌めようったってそうはいかないよ。」
アタシは看破するように言葉を言った。
こう言う気の弱い奴は虚言で状況を打開する癖もあるから困る。
「逃げてよ!あっ・・・!?」
「・・・なっ!?」
少年はなおも懇願するように言葉を言うが、それでもアタシは逃げる気は無かった。
だけども、機体に衝撃が走った時にその警告は本物だったと言うことが理解できた。
此の衝撃はキャノン系の武器でも、貰ったような感じだ。
「・・・また!?」
少年は機影を確認したのか、言葉を驚く様に言った。
そして機体を動かしてゆっくりとアタシの方に向かって来た。
「何がどうなってやがんだ・・・。」
このままこの場所に居たら不味いと言うことはとりあえず、分かった。
操縦桿に力を入れて機体をまともに動かし始める。
アタシを狙うだなんていい度胸じゃないか・・・
とりあえず、弾が飛んできた方向を見れば、スナイパーキャノンを構えた四脚と観測主をしている様な重量二脚の二機が居た。
四脚は先に述べた様に、スナキャとレーザーライフル、ハンガーにライフルとヒートハウザーを持っている。
重量二脚はレーザーライフルとライフル、ハンガーにパルスガンとブレードを装備していた。
どちらも先ほどのACの残骸と同じ、黄色と茶色が混ざった機体食をしている。
こいつ等は仲間なのか・・・
「同志のかたき、世に平穏のあらんことを・・・。」
「消さねばならぬ、世に平穏のあらんことを・・・。」
通信からは何か呪文を呟くような2人の男の声が聞こえてくる。
その無機質な声は何かに操られている様なそんな不気味な雰囲気を感じさせる。
「何なのさ?あいつ等は?」
アタシは通信から聞こえた無機質な声を正直言って気味悪く感じた。
そして、此の坊やが狙われているということも同時に理解した。
アタシはさしずめ、仲間と思われたのかもしれない。
「ビーハイブだよ。知らないの?」
少年は多少、口に出すのも逃げ苦しげな感じで言葉を言った。
恥ずかしいことを言うが、アタシは情報に疎いもんでね・・・。
そんな通信を交わしている最中にまたスナイパーキャノンが飛んでくる。
「・・・要するに叩きのめしちゃえばいいんでしょ?」
アタシはニヤリとした表情を浮かべながら機体を滑らせてスナキャを避ける。
敵がどういう勢力かは分からないが、攻撃してくるのなら倒せばいい。
売られたケンカは買う、それがアタシの流儀だ。
「駄目・・・逃げて!戦ったら貴方も・・・」
少年は好戦的なアタシに逃げる様に言った。
不利な状況になると言うのにこんなことを言うのは、この少年の言葉は信用できる。
こいつ等と関わると差し詰め、仲間が報復しにくるとでも言う感じか・・・。
全く、この少年はどこまでお人よしの甘ちゃんなんだか・・・。
「アンタはアタシの援護をすればいいの。」
「・・・分かったよ。」
アタシは命令する様な口調でお人よしな少年に言葉を返した。
少年は凄味に押されたのか、もう引き留めずに短く言葉を言っただけだった。
そして機体の足を稼働させて空中に上がり、牽制弾として、両手のスナイパーライフルを放った。
放った弾は四脚のコアに二発とも当たった。
しかし、致命傷にはならず、そのまま四脚は構えたままの体勢を維持している。
「世の平穏を乱してなんとする。」
「神罰を下さねば。」
またも通信から狂信的な口調の声がする。
重量二脚はブースターに火を入れて前に機体を移動させる。
どうやら、前衛後衛に分かれた様だ。
「一緒に移動するよ。」
アタシは少年に対して命令をした。
ああいう優柔不断な人間は指示をしてやらないと動かないからね。
確実に潰せる自信があるのは、重二だ。
少年の機体の武装にパルマシが含まれているとなれば、相手は厳しいだろう。
それにフォルムから見て、KE対策は万全の様に見え、少年の武装では厳しいだろう。
「了解。」
少年はもう、何も言わないのか、そっけなく返事を返して機体を前線に持っていく。
アタシは少年の機体が前に行ったちょっと後について行くように機体を動かす。
目の前に立ちはだかるのは重二で、もう既に射程圏内に入っているのか、レーザーライフルとライフルを先行している少年の軽逆に放つ。
しかし、少年の機体は足に力を込めて、飛び上がり、弾を避ける。
そして頂点で重二の機体に落とすかの如く、肩から何か弾を打ち出した。
機体自体には当たらなかったが、砂漠の砂に着弾すると激しい光が重二を包んだ。
いわゆる、フラッシュロケットだ。
重二は光に包まれて一時的にパイロットが死んでいる状態なのか、その場から動かずにジッと固まってしまっていた。
少年の軽逆の下を潜る様にアタシはグライドブーストで彼我の距離を詰める。
武器は必殺の武器、ヒートパイルに変える。
そしてそのまま、正面に突貫するように杭を打ち出した。
「・・・!!?」
ガスンという金属を貫く音が聞こえた。
此の音は当たった音でその後に物凄い爆発が起こり、機体は爆散するように四方に吹き飛んだ。
通信からは悲鳴さえも聞こえずにぶつ切りになった感じだ。
「す、凄い・・・。」
少年は空中から光景を見て居たのか、驚いた感じで言葉を言った。
軽逆の機体はゆっくりとブースターで砂をまき散らしながら着地の衝撃を和らげアタシの機体の近くに着地した。
「同志・・・。おのれ・・・。」
四脚の方はスナキャの構えを解き、スナイパーキャノンを捨てた後に撤退するのか2人の方を向いたままグライドブーストで後ろに逃げる。
流石に2対1で分が悪く、見た感じコンビネーションがよさそうな2人にはかなわないと判断したためであろう。
「あっ、逃げられちゃうよ!」
少年は慌てた様な感じで言葉を言った。
そして軽逆の機体はグライドブーストで四脚の逃げる方向に移動させようとブースターに火を入れた。
「無理だね。アタシの機体じゃ追い付けないし。アンタの機体でもエネルギーが切れたところを叩かれるのが落ちさ。」
アタシは意気込んで機体を追おうとする少年をたしなめる。
直観で動きまわろうとするこういう奴は本当に困る。
さっきのお人よしの度合いもひどかったし、戦場に出て長生きはできないタイプだね。
「聞こえるか?戻ったぞ?」
突然通信から青年の声が聞こえた。
声質からして冷静で物静かなイメージを感じる。
詳しく言うなれば少年とは正反対のタイプとでもいえば、いいのだろうか。
辺りを見回せば、黒い中量二脚の機体がちょうど、高い崖の上に佇んでいた。
「あ、兄さん・・・。」
少年の方は気を取られたのか呆けたように言葉を言った。
そして機体の方も追うのをやめたのか、ブーストの光が消えていく。
ふーん、兄弟か・・・。
兄貴はコイツのような甘ちゃんな感じはしないね。
「ん?そいつは・・・赤い悪魔・・・。」
青年は少年の機体の傍に佇む機体の存在に気が付いたのか、静かに言葉を言った。
アタシも有名だねぇ・・・。
さて、此処は逃げる算段でもしておこうかな。
流石に2機が向かってきたら勝てるかどうかわからないし・・・。
「へ?あの・・・有名な?」
少年はアタシの事を知らなかったのか先ほどよりもさらに呆けた感じで言葉を言った。
情報にも疎いとは本当に少年は何で此処まで生き残れてるのか・・・
「赤い悪魔・・・何をしに現れた?」
青年は冷たい印象の声で話しかけてくる。
招かれざる客か・・・やっぱり、此処は捨て台詞でも吐いて逃げようかね。
「兄さん。駄目だよ。せっかく僕と協力してビーハイブを追い払ってくれたのに!」
少年は兄の行動に対して反発しているのか、ちょっと怒ったように言葉を言った。
2対1で煮るなり焼くなりすればいいのにアタシを庇ってくれるのか?
全く、何処まで甘いんだか・・・
「だが、そいつは・・・」
青年は少年の勢いに押されつつも次の言葉を言おうとするが、言葉が出ないのか口をつぐんでしまった。
この様子だと逃がしてくれるかもしれないね。
「ねぇ、僕らの部隊に入ってくれないかな?」
「お、おい・・・。」
少年は兄の言葉など聞かないつもりか、アタシをスカウトしに来た。
全く、呆れを通り越して褒めたくなっちゃうよ・・・
兄の方もどうやら慌てているようだ。
「・・・ったくもう、調子狂うよな、ホント。」
アタシはハァと息を吐いて言葉を言った。
少年はアタシの味方をしてくれるようだが、チーム内で仲間割れをするとはね。
「返事は・・・?」
青年の方は弟の言動にとやかく言うつもりはないのか、静かにアタシに言葉を言った。
此処でアタシが否定の言葉を返したらどうなるんだろう。
兄弟で殺しあいでも演じるのかねぇ。
でも、今のアタシは不思議とそんなことをさせる気にはならなかった。
「分かった、負けたよ。今日からアタシは此処のチームに入るよ。」
アタシは肯定の言葉を静かに返した。
やれやれ、赤い悪魔と言われたアタシがこんな選択をしちゃうなんてね。
ずっと過去のアタシからすれば考えられなかっただろう。
何が原因かと言われれば少年の純粋さに負けたと言えばいいのかな。
「僕はシャドウ・サン。よろしくね!」
満面の笑顔を浮かべて居るだろう口調の少年の言葉が聞こえた。
「アタシは杏子だ。」
アタシも多少、はにかみながら言葉を返した。
これがアタシとサンの出会いだった。
「・・・シャドウ・ムーンだ。」
そして、そのクールな兄との初めての遭遇だった。

「杏子」
20歳前後の女性。
搭乗機体は遠近距離同時対応可能な重量逆関節、ロッソ・ファンタズマ。
巷ではパイル使いの名手であるとともに赤い悪魔として恐れられている。
男勝りな口調や挑発的な態度が多く利己的な性格をしている。
そのような性格なのは弱肉強食の考えが基礎にあり、それを彼女自身が言い聞かせるようにして生きていることに起因している。
そのために、時折、本当の気持ちが出てくる時もある。

「シャドウ・サン」
16歳前後の少年、ムーンの弟。
搭乗機体は援護主体の軽量逆関節、ゼロ・サクリファイス。
オドオドとした性格で出来れば戦闘を回避したい平和主義者。
そして利他的でお人よしでもある。
人を殺めることを嫌っており、単機で行動するときは敵機体を倒すことは無く投降や撤退を呼び掛ける。
その性格故に「甘ちゃん」やら「お人よし」の烙印を押されている。
だが、本人は余り気にしてない模様で平和主義を貫いている。

「シャドウ・ムーン」
20歳前後の男性、サンの兄。
搭乗機体は、汎用性に優れた中量二脚、サーティースフライデイ。
非情にクールな性格で何時も冷静な印象を見せる。
弟のサンとは違い必要な場合は時に非情さも見せ、仕事はキチンとこなすタイプ。
だが、決して冷酷な性格と言う訳でもなく、話せば分かる人間でもある。
女性と付き合うのが苦手で、何時もとは違う一面が見られたりもする。
しかし過去の出来事により、恋愛感情を抱けなくなっている。

「ビーハイブ教徒」
この世から争いをなくすために日夜戦っているという宗教集団。
言動は狂信的で何者かに洗脳されているような印象を受ける。
口癖は「世に平穏のあらんことを」。
実際はただの金儲け集団であることを彼らは知らない。
12/05/14 10:07更新 / シャドウ

■作者メッセージ
これを書くのに何週間かかったのか・・・
まあ、とりあえず、こんなもんか。

杏子が冒頭に歌っていたのは、俺の好きな楽曲だな。
King Crimsonの21st Century Schizoid Manっていう曲なんだが、暇があれば聞いてくれ。
かなり長い曲だが、歌詞と間奏が好きなんだぜ。

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