連載小説
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黒い来訪者
ザッザッザッ・・・竹箒が地面を擦る独特の音が本殿の近くで聞こえる。
「終わったら此処に戻ってきなさい」
紅白の巫女に少々、ツンとしたような声で此処まで送り出されてきた。
掃除をしているのは和風の塊とでも言うような神社には似合わない黒いローブを着ている十代後半程度の魔術師風の青年であった。
賽銭箱の近くの少し暗い影の場所で下を見て疲れたような感じで砂埃を外へと追いやるため黙々と作業していた。
それにしても此の神社には参拝客は居ないのだろうか、誤って賽銭箱に箒を当ててしまったが、中からは軽い、乾くような音が響くだけであった。
腹が減った。青年はフウと息をつきながら1度手を休めるのであった。
「おーい、霊夢(れいむ)!・・・じゃないな。」
「・・・誰だ?」
空から呼びかけるような少女の声が聞こえてくる、明らかに先ほどの少女とは違う元気そうな声であった。
青年は疲れたようにゆっくりと顔を上げて斜め上を見るのだが、声の主は箒に乗って浮いているようだ、魔女をイメージして貰えれば分かりやすいだろう。
ウェーブのかかった、金髪のロングヘアーが特徴的で、魔法使いの様な黒色の先がとがった帽子をかぶり、黒系の服に白いエプロン、青年よりも少し背は小さい。
青年がフウと息をついて静かに言葉を言った後に箒からスタッと適当な場所に少女は降りて、物珍しそうな物でも見るかのように青年を見て近づいてくるのであった。
「普通は名乗ってから名乗らせるもんだぜ?まあ、私は霧雨魔理沙(きりさめまりさ)だ。」
「すまない、俺はシャドウ・ムーンだ。」
魔法使い風の少女はサバサバして男勝りな口調で青年に対して言葉を言いつつ自己紹介をするのであった。
青年も同じく軽く謝りの言葉を最初に言った後に相手に対して自己紹介をするのであった。
「見ない顔だな、もしかしてお前、外来人か?」
「外来人?」
「霊夢から聞かなかったのか?つまり何処か別の世界から此処に来たって事だな。」
「じゃあ、此処は何処なんだ?」
「幻想郷の東端、博麗神社だぜ。」
「此処からは出られないのか?」
「普通の方法なら無理だな、まあ、霊夢に相談すると良いぜ。」
そんな質問の連打と回答が青年と少女の間で繰り返される。
少女の方は楽観的な感じだが、青年の方は少し慌てているような感じであった。
こうしている場合じゃない、境内全体を掃除するとなれば時間がかなり掛かる、事は思ったよりも深刻のようだ。
青年は掃除の途中ながらも踵を返して箒を担ぐようにして持ち、送り出されてきた場所に戻ろうとするのであった。
魔理沙も同じように箒を担ぐようにしながら青年の後にゆっくりと着いていくのであった。
時刻は丁度、昼頃になった頃だろうか、太陽が照らし出す影も大分、短くなった。
青年は険しい表情で縁側までの道を進んでいたが、縁側に戻ってきて見えたのは掃除するように命令した紅白巫女が呑気に蕎麦をいい音を立てながら啜っているところであった。
「おい、いい加減、俺がどうしたらいいのか教えてくれないか?」
青年は一瞬、殴りたい気持ちになったのは言うまでもなかったが、呑気に蕎麦を啜っている巫女に対してハァと息をつき、箒を下げて疲れた声を掛けるのであった。
「掃除は終わったの?」
「まあ、霊夢、そんなこと言わずに相談に乗ってあげようぜ?」
「あら、魔理沙、来ていたの?」
恐らく名前が霊夢であろう少女は蕎麦の丼を自らの隣に置いて、まだ掃除が終わってないと思っているのか正面を向いたまま、素っ気なく青年に対して言葉を言うのであった。
だが、魔理沙は青年が質問に答えるのを遮るかのように軽く笑いながら言葉を言うのであった。
霊夢は来訪者がいたことに驚いたのか正面を向いていた視線をゆっくりと戻してフウと息をついた後に静かに言葉を言ったのであった。
「私は博麗霊夢(はくれいれいむ)、博麗神社の巫女よ。何か聞きたいことは?」
友人のたっての頼みは断れないという訳なのか、青年に対して少々、やさぐれた雰囲気を醸し出しながらも青年の話を聞こうという態度を見せるのであった。
「シャドウ・ムーンだ。どうすれば、此処から帰れる?」
「そんなこと知らないわよ。」
「じゃあ、帰る方法が分かるまで面倒を見てくれないか?」
「それは無理ね。自分で何とかしなさい。」
結局、霊夢もどうしたら良いのか分からないらしい。
やさぐれた雰囲気は続いたままで青年は軽くあしらわれてしまうのであった。
それを端から見ていた魔理沙はいつものことだと思っているのか、特に何も言わず軽く笑いながら様子を見ているだけであった。
「一段落付いたところで、ちょっとムーンを借りてくぜ?」
「え?ちょ・・・」
青年は未知の世界でどうしようかとフウと静かに息をつくのであったが、魔理沙がとんでもないことをサラッと口に出して青年のローブの首根っこを掴むような感じで、青年を引っ張っていくのであった。
青年は突然のことに驚きながらも引きずられるようにして着いていくしかなかった。
「ちょっと、私に付いてきてくれないか?」
「箒に乗れと言うのか?それは断る。」
「腕ずくでも連れて行くぜ?」
博麗神社の境内で何やら2人の人物が言い争っている様であった。
もう既に昼の日差しが二人を照らしていた。
どちらも黒を基調とした服を着ており、魔術師風の格好であるので非情に馬が合いそうに見えるので、端から見れば意外に思うに違いない。
どうやら青年は箒に乗ることに拒否しているようであった、何故、拒否しているかというのは大人の都合上、話さないで置くが、どうしても魔理沙は連れて行こうとしているようである。
青年の側からすれば、飯を食べていないのにこれ以上、連れ回されるのは御免だという心境だろうか。
「私に付いていけばご馳走が食べられるかも知れないぜ?」
「・・・分かった。ちょっと待ってくれ、俺の姿が見えなくなったら出発してくれ。」
青年はフウと息をついた後に静かに少女の方に歩いて行ってしゃがんだ後に地面の影に手を当てて静かに目を瞑るのであった。
少女は青年を見て何か不自然なことを見つけたが、次に起こった出来事に驚いて指摘することを忘れてしまった。
「うおっ。すげぇな!影に潜り込んだのか?・・・良いから早く行け・・・!?」
青年は溶けるようにして居なくなり、影の中に吸い込まれるように消えたのであった。
魔理沙は驚いて感嘆の声を上げるのだが、自分の口から予期せぬ声が出れば流石に驚くのであった。
どうやら青年は影に潜り込めると同時に影を通じて本体まで干渉できるようである。
少女は「分かったぜ。」と一言言えば、魔理沙はさっと箒にまたがって空へと飛ぶのであった。
縁側では霊夢と何処からか現れた人物が何かを話しているのであった。
そんなことに気づくわけもなく1つの影は博麗神社を去っていった。

「シャドウ・ムーン」
能力:影を操る程度の能力、闇を操る程度の能力
幻想郷に入り込んでしまった魔術師風の黒いローブを着た謎の青年、この物語の主人公。
性格は基本、クールで無表情、女性に弱い。
見た目とは裏腹に結構優しい一面も持っていたりする。

http://dic.nicovideo.jp/a/霧雨魔理沙
「霧雨魔理沙」
能力:魔法を使う程度の能力
魔法の森に住む魔法使い。
根は真っ直ぐで努力家かつ勉強家だが、ひねくれ者な上に性格が悪い。
蒐集家で幻想郷の珍しい物をコレクションにしている。
幻想郷の色んな人にモテている。

http://dic.nicovideo.jp/a/博麗霊夢
「博麗霊夢」
能力:空を飛ぶ程度の能力、霊気を操る程度の能力
幻想郷東端にある博麗神社の巫女。
単純だが裏表の無い性格で、喜怒哀楽が激しく、怒りの言葉で短絡的な会話することも多い。
神社にお賽銭(お金)が入らないことが悩みだとか・・・
通称、腋巫女、やさぐれいむ。
11/09/12 14:38更新 / シャドウ
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■作者メッセージ
さっそくYY様に感想を頂きました〜、ありがとう御座いますorz
どのような感じで投稿していけばいいか迷いますね。
一気に投稿してもアレですし・・・

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まろやか投稿小説 Ver1.50