連載小説
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第二話「premier」
 フランシスとユリエールは海の上に居た。
 二人が乗るネクストは水上での移動のために起動したブーストで足元から水飛沫を上げながら海上を進んでいる。
 既に作戦領域である旧チャイニーズ・香港海域に入っていた。

『リンクス達、作戦を開始してください』

 二人のオペレーターであるクレア・ブライフォードの声が通信を介して耳に入ってきた。
 職務のためか感情はない、だがそれでいて落ち着いた綺麗な声だった。
 任務だというのに「綺麗」などと悠長なことを思い浮かべている自分を、フランシスは心の中で叱咤した。
 そう、これはもう実戦なのだ。

「ジャンティ・アムール、作戦を開始します」

「ジャンティ・アミティエ、同じく作戦を開始します」

 そう言って、二人はローゼンタールの標準機「TYPE-HOGIRE」をベースにした白亜の機体を戦闘モードへ移行させた。
 ロックオンシステムが作動して、水中から空へとそびえるビル群を捉える。
 AMSにも身体にも問題はない。

「ユリエール、各個撃破しましょう。ただ、敵の装甲には注意して」

「了解です、お姉様。土台になっているビルを狙えば良いですか?」

「やはり私の妹ね」

 その返事を肯定と受け取ったユリエールは満足そうに微笑を浮かべた。
 敵はGA社のMT部隊。その数8。
 MTは柵のように正方形に囲んだ装甲を有し、中央から覗き込むように中口径のキャノンを携えている。
 その装甲は物理兵器を殆ど通さない頑強さを持つ。いかにもGAらしい無骨さを漂わせる兵器だった。

「行きましょう」

 その言葉を合図に二機は左右へ散開した。
 敵は左右のビルに縦に三機づつ、そして中央の巨大なビルに二機設置されている。
 ビルを破壊しながら進み、中央のビルに到達する前に二機が合流するのがベスト。頭の中でフランシスは言い聞かせるようにそう呟く。

「きゃっ」

 弾けるような音が空気を裂き、それと同時に短い悲鳴が聞こえた。
 ユリエールの声だった。

「ユリエール、これは実戦よ。気を引き締めて」

 原因はネクストに爆発的な瞬発力を与えるクイックブーストにあった。
 クイックブーストは瞬間的に加速をするため、回避、接敵、急旋回などに使用される多目的ブーストシステムだがその性質故に搭乗者にもたらす負担は大きい。
 それは二人が行っていたシミュレーションには無いリアルな負担でもある。

「すみません、失念していました」

 そう謝罪はしたが、ユリエールのネクスト「ジャンティ・アミティエ」はそのクイックブーストによって接近したビルを左手のレーザーブレードで切り裂いた。
 ビルはMTを巻き込んで崩壊する。
 水上移動能力の無いMTにとってはそれだけで致命傷だった。
 ユリエールは海中に落ちていくビルの破片を左に避けて、次の目標へ向かうため加速。噴射音と空気を裂く音が交じり合う。

「(私も負けていられないわね)」

 ユリエールの対応力に対抗心――我ながら子供っぽいとは思った――を燃やしたフランシスもまたクイックブーストを起動。
 搭乗機の「ジャンティ・アムール」を目標のビルに接近させ、左手のレーザーブレードで柱を焼き切る。
 破片の間を縫うように避けて続けざまに前方にあるもう一つの目標に接近。
 MTがキャノンを撃ってきたが、斜め前方にクイックブーストを展開。
 距離を詰めながら敵の砲撃を避け、海中に没した砲弾の上げる飛沫を背にビルを切り裂く。
 実戦での感覚が徐々に身体に染み渡っていくのを彼女は感じている気がした。

 その後三つ目のビルを破壊したフランシスがビル群を飛び出るのと、ユリエールが彼女の横に現れるのは同時だった。
 合流した二機は前方にある通常のビルの何倍はある巨大なビルを捉える。

「これは大きすぎるわね…」

 先程までのビルよりも遥かに大きく、高いビルを見上げてフランシスは呟く。

「そうですね…では―」

 ユリエールが呟き返すのと同時に二機はほぼタイムラグの無い動きで上空へ飛び上がった。
 降り注ぐ砲弾を振り切って、ビルの屋上を捉える。
 MTは既に此方にキャノンの照準を合わせていたが、二機はクイックブーストを横に展開してロックを振り払う。
 そしてフランシスは右に、ユリエールは左に有した翼を前方に展開した。
オーメル・サイエンス社製大型三連装レーザーキャノン「EC-O307AB」。
その翼のような象徴的なデザインはローゼンタールの機体に搭載される大型兵器の代表格だ。

「これで終わりですっ!」

 二翼六門の砲塔が左右から二機のMTを捉える。
 MTも振り切られた照準を合わせようとキャノンを旋回させようとしているが、間に合わない。
 砲塔から放たれた橙色に輝く六条の閃光はビルの屋上を、そして二機のMTを打ち貫き、爆散させた。

『目標の撃破を確認。ミッション完了です』

 降り注ぐビルの破片に当たらぬようゆっくりと後退しながら二機は水上に着地。
 クレアの報告を聞いて僅かながら二人は安堵の溜息をついた。
 そして、実戦の空気とネクストの圧倒的な力を実感する。

「(私達なら…何かを変えることができるかもしれない)」

 フランシスはそんな希望を抱き始めていた。

『二人とも、よくやったわね。帰ってきなさい』

 職務モードが解けたクレアの優しい声を聞き、フランシスとユリエールは海域を後にした。

10/02/27 13:52更新 / セーフティハマー
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