読切小説
[TOP]
予想外の防衛戦
人々は自らを滅ぼすとは知りながら、争うことをやめられない。
とても卑小で極めて愚かな存在。
自分もその1人だと言うことは十分に自覚がある。
だが、無闇な攻撃をしないという点では、自分はまだマシかもしれない。
あくまで自らに危害を加える者たちを打ち払うだけだ。
こんな何もない砂に埋もれて行くだけの拠点を誰が攻撃してくる方がオカシイのだ。
利益ではなく、感情に基づいての行動でしか此処への攻撃は考えられない。
砂漠の建物の上で警戒をはり巡らせているのは、黒い中量二脚と白黒のタンクだ。
中量二脚のACは、右にTANSYとARACHIDE、左にSTREKOZAとUTICAといった装備だ。
タンクの方は両手に大弾倉を備えたキャノンのAZALEEと所謂、オーバードウェポンであるヒュージキャノンを携行している。
その中量二脚のACの狭いコクピット内では、ジッと物を考えている青年が1人。
「おーい、シャドウちゃん?」
通信から軽い感じの声が聞こえてくるが、この声はロウケンさんの声だ。
「・・・え?あ、ああ。」
ムーンは慌てた様な感じで返答を返した。
えっと、何の話をしていたんだったか・・・
前にサンと話していた時と同じ様にセンチになってしまっている。
今はロウケンさんと自分とで拠点防衛の最中だと言うのに気を引き締めなくては・・・
「そんなにサンが心配か?」
ロウケンさんは、ケラケラと笑いながらからかう様にムーンに対して言葉を言った。
サンは、新しく同盟を結んだLibertadoresに傭兵として派遣されて任務についている。
任務に関しては人を探すだけの失敗のしようがない任務なので余り心配はしていない。
だが、問題は汚染地域と言う未知の土地だと言うことだろうか・・・
一応、想定外に備えて杏子を後詰として出撃させたので余り心配はしていない。
出撃してくれるように頼んだ時、杏子はちょっと嫌な顔をしていて、しぶしぶ引き受けた様な感じだったが、義理堅いので任せておけば大丈夫だろう。
ちなみにサンに、嫌な思いをさせないために杏子が付き添っていることはあえて知らせて居ない。
そして、なべさんとリーダーは此処から少し離れた射撃場に武器商人と厳選に行っているので、留守番は自分たち2人だけだ。
ちなみに武器商人はロザリィという名前の人物で年相応の魅力のある人物だった。
「いや、別に。」
ムーンは表情をあらわさず、素っ気なくロウケンの通信に言葉を静かに返す。
こんな時代だ、気が付けばどちらかが居なくなっているということもありうる。
心配すれば切りが無くなるのであえて余り考えてはいない。
と言うよりも、今からそんな事を考える前に警告音が鳴り響いた。
「・・・来た、ぜ?」
ロウケンは、急に真剣な口調で言葉を呟くように言った。
この警告音は拠点の領域内に敵が侵入した時に流れるものだ。
「そうだな・・・。」
ムーンは先ほどと同じ調子で単調に通信を返して、操縦桿に手をやってギュッと握った。
さて、先ほどの話は置いといて戦いに集中しなければいけない。
先ほど補給が終わったばかりだし、機体の調子も良くなっているはずだ。
「コーデリア、居るなら返事をしなさい!」
急に通信から女性の甲高い声が聞こえた。
コーデリア?そんな人物はAKマスターアームズには居ない。
「偵察型、狙撃型、防衛型、そしてヘリだな。何機居るんだ?奴ら、MoHの部隊だぜ。」
ロウケンは、情報処理をしながらムーンに情報を送る。
その口調は多少驚いている様である。
その驚いている理由は敵の数なのか、それとも攻めてきた部隊か。
「MoHが何故、こんなところに?」
ムーンは驚きながらも呟くように言葉を言った。
此処には何もないと言うのに、攻めてくる理由が思い当たらない。
そうなると先ほど言っていたコーデリアという人物を探しに来たのだろう。
「さぁな?」
ロウケンは一笑した後に言葉を言った。
もうそろそろ、防衛ラインにさしかかるところだ、そろそろ動くべきだろうか。
スキャンモードを維持しつつも徐々に近づいてくる敵影を待っていた。
そろそろ敵部隊は砂丘のカゲに隠れて見えなくなる頃だ。
正にその時に横に居るタンクは、両手のキャノンを敵に向けてけたたましい音と共に弾を同時に放つ。
その弾は偵察型のMTに当たり、MTは爆散して破片を辺りに散らかす。
「・・・正面から磨り潰してやりなさい。バラバラになるまでね。」
MoHの部隊の指揮官である女性は攻撃でやられたMTの事など気にしていないかのごとく威圧のある感じで言葉を言った。
代わりは幾らでも居ると言う訳なのだろうか?
そしてAC二機にMTを向かわせるということはそれだけ数があると言うことなのだろうか・・・
「ロウケンさん、頼むぞ?」
ムーンは、静かに相棒に対して頼む感じで言葉を言った。
さて、突っ込むとするか・・・
レバーを思いっきり前に倒して機体を操る。
中量二脚の機体は建物の上から降りて、そのまま砂丘の方面に移動していく。
砂漠の砂が巻き上げられて黄色の尾の様な物を作る。
「ああ、任せとけ。」
ロウケンはムーンの頼みに対して、軽く返事を返す。
タンクの方も中量二脚の機体について行くようにして移動を開始した。
「・・・目障りだ。」
中量二脚が砂丘を挟んでMT部隊と向かい合うと言う時に砂丘の影からヌッとヘリが3機、姿を現す。
そして瞬時にミサイルを中量二脚に対して放つ。
ムーンは、無表情のままハイブーストのスイッチを入れてレバーを右に動かして機体を瞬時に加速させる。
ミサイルは目標を追尾できなかったのか、横をすり抜けてユラユラとした機動を描き遥か後ろで信管が作動したのか爆発した。
そして機体を正面に移動させてTANSYとSTREKOZAを構えて弾丸を放つ。
弾丸は全てヘリに直撃して瞬く間に鉄屑へと変貌して地面に落ちる。
機体は砂丘の頂を超えてMT部隊を見下ろす形となる。
前衛には偵察型とヘリ、遠距離には狙撃型、そしてそれを守るように防衛型が配置されていると言えばいいのか。
敵の配置を確認していたときに遠距離からスナイパーキャノン数発が同時に飛んでくる。
弾道は正確なのと、少し離れたところに撃っている二種類があった。
「・・・っ、くそっ。」
ムーンは焦りながら機体を操るが、被弾の警告が鳴り響く。
APには、あまり支障はなさそうだが、1、2発は確実に当たってしまった。
その間に偵察型のMTとヘリが近づいてくる。
「大丈夫か?」
ロウケンは通信で悪態をついたムーンに対して言葉を言った。
タンクはムーンのちょっと離れたところの砂丘の頂に到着していた。
そしてキャノンを再び構えてけたたましい音と共に放った。
目標は狙撃型だったようで、弾を食らった狙撃型は爆発こそはしなかったが、再起不能の状態に陥ったか、ガクッと崩れるような感じで地面に倒れる。
「・・・問題ない。」
ムーンは冷静に言葉を返しながら、機体を前進させ近づいてきた敵に銃を向けて放つ。
ヘリはすぐに落ちる物の、偵察型のMTはTANSYとSTREKOZAの1発ずつでは落ちないようで、レーザーの雨を多少浴びることになった。
ムーンの機体はTEには弱く、余り相手をしたくない相手でもある。
あと、この脚部は旋回性能が悪いので近距離での戦闘は分が悪い。
接近する前に幾らか落としたが、ムーンの機体に2機の偵察型のMTが付きまとう感じになった。
「・・・全く。」
ロウケンは、ムーンの機体の様子を見てキャノンの標的を遠距離に居るMTから纏わり付いている偵察型のMTに変えた。
そして軽く微笑むような感じで言葉を言って、キャノンのトリガーを引いた。
見事に偵察型のMTにキャノンは当たり、MTは爆散した。
ちょうどその時にムーンの機体ももう1機を照準に捕えて粉砕したところだった。
「すまない・・・。」
ムーンは助けてくれたロウケンに対して礼を言いつつ機体を操る。
あと残っているのは狙撃と防衛型のMTだ。
「流石にAC2機はきついかしらね。オズワルド、お願いするわ。」
前衛がやられたのと同時に指揮官の女性は言葉を言った。
オズワルド、誰だ?ACか!?
推理が頭の中を錯綜していたが、どう行動するかは決められなかった。
「全く、お前は・・・。」
通信からは老兵と言った様な感じの修羅場をくぐってきた感じの声が聞こえる。
何処から来る!?オペレーターがこの場にはいないので確認ができない。
スキャンモードを起動して索敵を開始するが正面には何も新たな機影は確認できない。
とりあえず、元いた場所に引いた方がいいと判断したのか、機体を正面に向けたまま後ろに滑らせる。
「・・・なッ!?」
「・・・ロウケン・・・さん!?」
ちょうど砂丘の上まで到達した頃に、後ろから金属同士がぶつかり合う大きい音が響いた。
そしえ一瞬だけ通信からロウケンさんの声が聞こえた。
正直言って通信を聞いた瞬間に戦慄して、顔面が蒼白になった。
音が聞こえた方へ旋回すれば見たく無い光景がそこにはあった。
上半身がぐったりとした感じのタンクが見えて、そのすぐ傍には灰色の重量二脚のACが立っていた。
正直言うと状況を飲みこめなかった。
ロウケンさんがやられるなんて何かの間違いに決まっている。
強襲という敵の戦略を考えることは無く、今起こったことの否定を頭の中でしていた。
「降参してくれ。お前も死ぬことになる。」
オズワルドはムーンに対して忠告の様な言葉を言った。
重量二脚のACの武装はプラズマガンにバトルライフル・・・
ムーンの機体、サーティースフライデイにとっては苦手な武器だ。
2機は向かい合う様な形になってお互いの姿を見ていた。
「ふざけるなっ!誰が降参するか!」
ムーンは落ち着き払ったオズワルドに対して激昂するように言葉を言った。
ロウケンさんがやられたと言うのに、降参など出来るものか。
降参するぐらいなら刺し違えて自爆してやる。
「哀れな・・・。」
オズワルドは激昂したムーンに対して冷静に言葉を言った。
そして重量二脚の機体はサーティースフライデイに銃を向ける。
中量二脚の戦い方としては、火力が完全に負けているために相手を機動力で翻弄するしかない。
レバーを思いっきり前に倒して、重量二脚の方に向かおうとするが、重量二脚は的確にムーンの機体を捕えてプラズマガンを放つ。
「・・・っう。」
瞬時に左側にレバーを倒してクイックブーストのスイッチを入れるが、プラズマガンの爆発がジリジリと装甲を焦がす。
ムーンも負けじとハイブーストの後に機体に向かいながら両手の銃を放つが、重量二脚は仁王立ちのまま射撃を続けていた。
どうやらオズワルドは火力戦以外を挑む気はなさそうだ。
そして止めとでも言う様にバトルライフルの弾がムーンの機体に直撃した。
ムーンの機体は一瞬、後ろに吹き飛ばされるようになるが、何とか持ちこたえて砂漠に足を立てた。
だが、重量二脚とはほぼ目と鼻の位置にあり、とても不味い状況である。
このままだと機動戦をする前にやられてしまう。
「若いな。」
オズワルドはまるで昔を思い返すかのように台詞を言った。
そして重量二脚の機体はムーンの機体に向かってブーストチャージを行う。
「っ・・・ぁあああ!?」
ムーンは、危険エリアに入り込んだのは分かっていた。
後ろに思いっきりレバーを倒してハイブーストのスイッチを入れる。
だが、遅かったようだ・・・。
金属同士がぶつかり合う音が再び響き渡る。
機体全体に走る衝撃。
ムーンは悲鳴を上げる事しか出来なかった。
機体は砂に吸い込まれるように倒れて砂が巻きあがる。
重量二脚の機体はムーンの機体を蹴った後、勢いが付いていたため多少、移動した後に動きを止めた。
「・・・命を粗末にしたな。」
オズワルドは静かに容赦なく言葉をムーンに対して言った。
機体の距離は離れている者のバトルライフルは十分に届く距離だ。
「っぁ・・・ぅ・・・。」
背中が打ちつけられて意識が飛びそうになった。
操縦桿を操って何とか機体を動かそうとするが機体が動かなかった。
コクピットから見えるのは、青い空と白い雲だけだ。
動け・・・動いてくれ・・・。
「・・何っ!?」
「っんぁ・・・!?」
一瞬だけ、青い光が視界に入ってくるのを感じた。
プラズマガンでも撃たれたのかと思ったが、すごく大きな衝撃音が響いた。
ムーンは、驚いて声を上げるが、それと同時にオズワルドの驚いた声も聞こえた。
砂が巻きあがり、青い空が見えていた視界を遮った。
「へへっ・・・消し飛んだ・・・か?」
「ロウケンさん!?」
何が起こったかと言えば、単純明快なことだ。
ヒュージキャノン、規格外のエネルギー弾を打ち出す魔砲・・・
タンクが、青い光を灯しながらそれを構えていた。
重量二脚の機体は直撃しなかった物の爆風は食らったのか膝を付くような姿勢になっていた。
そしてロウケンは、苦しみながらも微笑みながら言葉を言った。
二発目を打ち出すつもりなのか、またも青い光が輝きを増す。
ムーンは、安堵しながらも叫ぶように言葉を言った。
「っ、これ以上は不味い・・・。」
「・・・全機、撤退しなさい。」
オズワルドは、冷静に言葉を言った。
どうやら機体の被害状況でも確認している様である。
指揮官の女性は舌打ちしながらも冷静に命令を下す。
重量二脚の機体は2人の方を向きながらグライドブーストでMT部隊と合流すべく進んで行った。
「逃がさない・・ぁぁあ!?」
ロウケンは、やはり苦しそうな感じで言葉を言った。
タンクが狙いを付けている最中に突如通信がブツ切れになった。
それと同時にタンクは軽い爆発を起こして左腕が吹き飛んだ。
「・・・ロウケン・・・さん!?」
ムーンは表情が凍りつきながら言葉を言った。
砂漠は静寂に包まれ、砂に埋もれた機体とうなだれる様に俯いているタンクだけがあった。
12/04/07 14:19更新 / シャドウ

■作者メッセージ
学校が始まったから遅くなっちまった。
もう時間をかけないと書けないかもなー。

TOP

まろやか投稿小説 Ver1.50