連載小説
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碧崎事務所
日が暮れ、空が紅から紫にと移りだす頃僕たちは家に着いた。
外では取り分け何もせずにただ二人で散歩をしていた。
日が暮れてきたから帰ってきたのだ。
「ナオヤ、いっぱい歩いたから腹が減った。飯が食べたい。」
いや、僕だって疲れたよ?散々、引っ張り回しておいて帰ってきたら飯を作れだと?でも、散歩は嫌じゃなかったし、どちらかと言うと楽しかったし。
「ナオヤ?飯は作らないのか・・・?」
ま、こーゆーのも悪くはないか。
「わかった。今から作るから、テレビでも見て待ってなよ。」
魁はご機嫌良くソファーへ座った。
「まるで妹だな。」
なんて洩らしながらキッチンへ入った。


今日はカレーだった。ナオヤの作る料理はそこらの料理より美味い。
自分の方向性をもう少し見つめ直したら良いんじゃないだろうか。
まぁ、そうされると困るのは私なんだが。
午後10時頃、ナオヤに一本の電話が入った。
なんでも、ナオヤが働いているとこの社長らしく、リンと言うらしい。
そのリンに呼び出されて今から向かわないといけないらしい。
「そうゆうわけだから、魁は留守番を頼む。勝手に外に出ちゃ駄目だよ。」
「私は子供じゃない。」
少し怒った。
「君はまだ、子供だよ。」
ナオヤは私をなだめるように頭を撫でた。
その感覚がどこか懐かしく思えた。
「んじゃ、行ってきます。」
扉を閉め、足音が急に遠ざかっていくような気がした。


外は暗い闇に包まれていてそのなかで月が煌々と光っていた。
凛さんのとこに行く前にコンビニで差し入れ代わりにジャンクフードを買った。凛さんの事務所は工事途中に廃棄された未完成の建物。本当は5階建てだったのかもしれないが4階のフロアだけありそこが屋上みたいになっている。1階は駐車場になっていて、2階は凛さんの部屋らしく入ったときはない。
だから、3階が仕事場だ。幸いエレベーターは使えるようになっており移動は楽だ。なんでまたこんな建物を買い取って使おうと思ったかわからないが、とんでもないお金持ちだろう。ある意味、凛さんにとっては娯楽の一貫なのかもしれない。などと考えていたら仕事場に着いた。どこから運んで来たのか決して安くはないだろうソファーやら机やら細かいものまで必要なものは全部揃っている。そのなかで優雅にコーヒーなんか飲んで座っているこの人が・・・。
「榊原、遅いぞ。何をしていた?」
凛・・・、碧崎凛だ。髪を後ろで結っているためかどこかの秘書みたいだが、凛さんには無理だろう。
「コンビニで差し入れ買ってきたんです。ここの机に置いときますね。」
「ん、ありがとう。それより榊原、あの双子の娘は家にいるのか?」
双子の娘・・・、僕の妹のことだろう。高校1年生でお嬢様学校に通っている。春菜と秋奈だ。春菜はおとなしい性格で、秋奈は明るい性格だ。
一度街中で会ったときがありその時に凛さんは気に入ったらしく。何かと心配してくれる。なんでも、素質があるらしい。
「家にいますよ。夏休みに遊びに来ると言ってましたけど・・・。それより、何か用事があったんじゃないんですか?」
正直僕も早く帰って寝たい。そう催促すると凛さんも察してくれた。
「そうだな、すまん。んじゃ、早速本題に入ろう。ここ最近の連続殺人事件は知っているよな?」
僕は努めて冷静に話を聞いた。
「榊原、君は調べる能力に長けている。これが君の仕事だ。」
「調べて、どうすれば良いんですか?」
凛さんは煙草に火をつけた。
「簡単だよ、犯人の素性を調べるのさ。それだけだ。まぁ、そいつが魔的であればもっと調べる必要があるのだけど、まだその段階じゃない。」
「書類にまとめれば良いんですね?」
「そう言うことだ。話が早くて助かるぞ、榊原。」
僕の脳裏には魁が浮かび上がったが、すぐにそれを振り捨てた。
「それじゃ、失礼しますね。」
凛さんから情報書類をもらって僕は外に出た。
「榊原は行ったか。さて、どうでるかな、犯人は。」
煙草の煙が揺らめいていた。


外に出て僕は走った。魁ではないことを証明したい。
誰にでもなく、自分自身に。
「魁・・・。」
月はただ煌々と光っていた。








12/09/20 22:29更新 / N-BYk
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まろやか投稿小説 Ver1.50