連載小説
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幻想郷入り
日もすっかり沈んでしまって、人々は休息の時を迎えていることだろう。
静かな草原、夜風が草を撫で、それと同時に青年の寝癖の付いた髪も撫でる。
黒いローブを着た魔術師風の青年は身をかがめて、草に自らの姿を隠すようにしているのであった。
この草原は時折、魔物も目撃されると聞いて居るが、アイツがそうなのだろうか・・・
かなり遠くにいるが、姿はキチンと捉えることが出来た。
キマイラという怪物を知っているだろうか、獅子の頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ生き物だ。
キマイラとは厳密に言うと違うが、山羊の角を携えた獅子の顔と筋肉質の胴体にサソリの尻尾、コウモリの翼という異様な外見をしていた。
最もこんなおぞましい魔物に出会うのは初めてではなかった。
出来る限り、戦火は交えたくなかったのでやり過ごすことにしたのだが、魔物の方は匂いに感づいているのか、此方の方にのっしのっしと接近して来た。
青年はあくまで限界まで身を屈めておくことを決心しているのだが、半分は戦わざるを得ないと気がついているのか、ローブの中に手を突っ込んで中にあるナイフを握りしめるのであった。
攻撃準備を整えて魔物の隙を狙っていたのだが、魔物はコウモリの翼を広げ、足に力を込めて地面を蹴り、自前の翼で空を舞った。
青年はもう姿を隠すのを諦めたのか、すっくと立ち上がって空に飛んだ魔物を睨むように見るのであった。
空を飛んだ魔物は青年めがけて滑空するのであったが、青年は慌てずに地面を蹴って魔物と同じように闇の中を飛ぶのであった。
魔物の方は既に青年を狙うための滑空状態に入っていたので青年が居た場所に突っ込むようにして地面に降り立った。
青年は飛んだとき、最頂点に達したとき下にいる魔物に対して掃射するように4本のナイフを両手から放つのであった。
魔物の上は死角になっているためにナイフは勿論、魔物の背中に刺さった。
しかし、魔物にとってダメージは軽微なのか、特に何のリアクションもせずに獣特有の咆吼を発するのであった。
その咆吼はとても大きく、魔物に出くわしたことのない者にとっては恐怖を植え付けるだろうが、青年は平然とした感じで元居た場所から離れた後方の地面に降りたって、魔物を見据えるのであった。
魔物は先ほど与えたナイフの痛みの所為か此方の様子を伺って居るようであった。
「我を守護する闇よ。我が前に集いて刃をなせ。闇刃!」
青年は先手を取るべきだと思ったのか、唇に人差し指を乗せて静かに呪文の詠唱を初めて唱えると同時に魔物に対して指を向けるのであった。
真っ黒い先の尖った刃が魔物に対してかなりのスピードで放たれる。
しかし、魔物は余裕げにまた持ち前の翼を使い軽く青年の方向に向かってジャンプするのであった。
「我を守護する闇・・ッ!?」
青年はチッと舌打ちをするも手段は講じているのか、慌てずに次の呪文を唱えようとするのであったが、魔物の動きは鋭く、次に地面に足を着くと同時に青年に向かってタックルを咬ますような感じで飛び込んでくるのであった。
青年は対応しきれずに魔物にのし掛かられるようになってしまうのであった。
魔物はグルルと喉を鳴らすような仕草をして青年の肢体を押さえつけるように覆い被さろうとした。
「・・・我を守護する闇よ、我が魔力を代償に闇の眷属とならしめよ、禁術、影同化!」
青年は魔物に押さえつけられながらも、半ばヤケに成りながらも呪文を唱えるのであった。
唱えた呪文は自分の中では窮地に陥ったときしか使わないと決めた呪文だ。
しかし、闇に覆われている今、光に照らされて作られた影など存在しないというのに一体どうなるのであろうか。
自分の身体が段々と地面に埋まっていくような感覚がする・・・
これはしまったか!?
青年はそう考えながらも薄れ行く意識の中、ぼんやりと考えながらもただ、魔物の顔を見続けるしかなかった。
11/09/20 18:22更新 / シャドウ
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■作者メッセージ
ちょっと今回は第三者視点で書いてみました。
何時もとほぼ同じ書き方ですがなり茶に近い書き方ですね。
ちなみに鬼が襲ってきた理由は次で分かります(ぁ)

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まろやか投稿小説 Ver1.50