読切小説
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コロンの場合(一話完結例)

コロン・トランスバース、19歳。
空は雪のちらつく曇り空ですが、町にはにぎやかな音楽が流れ、人々は皆うれしそ
うに歩いています。
今日はクリスマス・イヴ。一年で一度、誰もがなんとなく幸せな気分になれるお祭
りの日です。

コロンはシティホールの控え室にいました。
ホールの入り口には、「クリスマス公演、オペラ「愛の妙薬」13時開演」と大きく
書かれた立て札があります。
今日、コロンはオペラの主演女優として舞台に立つのです。
オペラの舞台には何度か立ったことはありますが、主演は初めてです。コロンの顔
は少し緊張気味でした。
「兄さん、見に来てくれるかな・・。」
コロンは控え室の鏡を見ながらつぶやきました。

コロンの兄、ベルテブラはレイヴンでした。
幼いころ、2人の兄弟は企業間の抗争に巻き込まれ、大切な両親と家を失いまし
た。
そこで外科医だったベルテブラは職を捨て、復讐のためにレイヴンとなったので
す。
やさしかった兄がレイヴンとなったことは、コロンには大変ショックでした。
「復讐のためだけじゃない。俺は、お前を守るためにもレイヴンになったんだ。」
というのが兄の口癖でした。
レイヴンの仕事は不規則で忙しく、コロンはなかなか兄の元気な顔を見ることがで
きなくなりました。
でも今日は、コロンの舞台姿を見に来てくれることになっていたのです。

13時。
舞台の幕は上がりました。
コロンは観客席を見ます。
軍服をまとい、緑のキャップを目深にかぶった、ベルテブラはそこにいました。
コロンは緊張の中にもうれしさを隠しきれず、演技にもいつも以上に熱がこもりま
した。
観客からは惜しみない拍手が送られました。

第一幕が下り、コロンは控え室に戻ります。
舞台裏の廊下にはベルテブラが花束を持って立っていました。
「兄さん。」
コロンの顔が笑顔で輝きました。
「コロン、いつも一緒にいてやれなくてすまなかったな。今日は仕事はなしだ。公
演が終わったら、二人でクリスマスパーティーをやろう。」
よれた軍服に無精ひげ。疲れた顔はしていましたが、ベルテブラもうれしそうで
す。
「わあ、ありがとう。兄さん、あたし、頑張るから、第二幕もちゃんと見ていて
ね。」
「お前も上達したな。終演後、ホールで待ってるぞ。」
ホールで第二幕の開始を告げるベルが鳴ります。
「じゃあね、兄さん。」

しかし、それが元気な兄の姿を見た最後でした。

終演後、だれもいなくなったホールですすり泣くコロンの姿がありました。
「兄さん・・・どうして行っちゃったの?約束したじゃない・・。」
控え室にはベルテブラの置手紙がありました。
(コロン。すまない。どうしても外せない依頼が入った。今日はパーティーはでき
ないようだ。明日には帰る。)

しかし、ベルテブラは帰ってはきませんでした。
次の日も、その次の日も。
レイヴンの仕事斡旋企業であるコーテックスに問い合わせても「ミッション中に行
方不明」という答えしか返ってきませんでした。
コロンは途方にくれ、毎日を泣き暮らしました。
美しかったソプラノボイスはかすれ、舞台に立つこともなくなりました。

そんなある日、コロンの前に一人のレイヴンが現れました。名をゴールド・ブリッ
ドといいました。
彼はベルテブラと共同でミッションをこなした際に、ベルテブラに助けられ、その
お礼を言いに来たといいました。
「そうか・・。彼は行方不明に。探すあてもないと。」
ゴールドの言葉にコロンは黙ってうなずきました。
「なら、君もレイヴンになったらどうだい。レイヴンのことはレイヴンが一番よく
わかるぞ。コーテックスは必要以上のことは教えてくれないからな。」

数日後、コーテックスのレイヴン試験の名簿に「コロン・トランスバース」の名が
ありました。
「兄さん。あたし、もう泣かないから。必ず見つけるから。待っててね。今度は舞
台が終わるまで。」


2004/06/05(土) 完結
12/04/28 11:09更新 / YY

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まろやか投稿小説 Ver1.50