連載小説
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終わり、そして始まり
煙を上げているメッツェンバウム倉庫の上空に、ミラージュのマークをつけた輸送機が到着しました。
そこから、1機の緑のACが降下しました。ミラージュの雇った民間遊撃隊のACです。
そのACはOBを吹かしながら倉庫に入りました。
煙と炎を上げ、倒れている6機のMTが見えます。
緑のACのコクピットに座るゴーグルの青年は、ため息混じりに通信を入れました。

「だめだ、もうやられた後だ。リーダー、どうする?・・・。」

ゴーグルの青年のACのコンピュータが、不意に作動しました。

「!」
『・・・敵ACを確認。ランカーAC”メタスターシス”です。』

レーダーの示す方向には、倉庫外へブースターで遠ざかる黒いACの姿が、夕もやに霞んで見えました。

「追えるか・・・。いや・・!」

『ゼスト!追いなさい!逃がしたらおしおきですわよ!』
通信機から女性の声がします。ゴーグルの青年の上司なのでしょう。

しかし、ゴーグルの青年には、MTのコクピットに倒れている人影が見えていました。

「リーダー!生存者がいる。2人だ。生存者の回収を優先する。」

いつしか雲は晴れ、暗くなった空にはうっすらと細い月が見え始めていました。

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フォーラは目を開けました。
白い天井が見えます。

「私・・・生きてるの?」

フォーラは周りを見回します。病院のベットのようです。
右目が見えません。右手には厚く包帯が巻かれています。

「やあ・・・気がつきましたね。」

白衣を着た眼鏡の男とゴーグルの青年が部屋に入ってきました。

「主治医の薬師寺です。よろしくお願いします。」
白衣の男は慇懃に頭を下げました。
もう一人のゴーグルの青年はACパイロットのようです。

「皆は・・・?」
フォーラは真っ先に気になったことを尋ねました。

「ああ・・。ひとり、若い男も回収したんだけど、さっき、亡くなったよ。」
ゴーグルの青年はひどく辛そうに、そう言いました。

「ゼスト君・・・。それはしばらく伏せときたかったんが・・。」
薬師寺と名乗った白衣の男が少しあわてたように言いましたが、
フォーラはもう聞いてしまいました。

「デュオ・・・!・・・!」
フォーラの両目から大粒の涙がこぼれました。
「ゆるせない・・!ゆるせない!殺す!みつけだして・・・!絶対!」
フォーラの心は、皆の命を一瞬にして奪った黒いACに対する怒りでいっぱいでした。
「仇は討つわ!必ず・・・!」

「あのさ・・。その若い男から、おそらく君にあてたものじゃないかと思うんだけど、これ。」
ゼストと呼ばれたゴーグルの青年は小さな包みを差し出しました。
メモがはさんであります。
”誕生日おめでとう。僕の好きなフォーラへ。”

間違いありません。デュオの字です。デュオは、本当は誕生会のときにこれを渡すつもりだったのでしょう。
でも、デュオは、もう遠い遠いところへ行ってしまったのです。

「・・・・」
その包みには、小さな子猫のアクセサリーが入っていました。
フォーラはそれを胸に抱きしめます。あふれる涙がそれを濡らしていきました。

薬師寺とゼストは顔を見合わせます。

「ゼスト君。この人の部隊は、皆、いなくなってしまったのですか?」

「うん。全滅みたいだ。薬師寺さん。」

「ふむ・・・。では、・・・フォーラさん。退院後は私の事務所で働きませんかね?他にあてがあるのならいいのですが・・。
最近、人手が足りなくて困っているのですよ。」

突然の話に、フォーラは答えません。気持ちの整理がつかないのでしょう。

「薬師寺さん、それはまた?」
ゴーグルの青年は意外そうに問いかけます。

「なに、ほっとけないでしょう。
ほっとくと何をするかわかりませんよ、このお嬢さんは。」

「成る程・・。」


そのとき、勢いよく病室の戸が開きました。
「おっす!野郎ども!!」

「クレアさん!?」
フォーラが驚いたのも無理はありません。

入るなり元気よくそう言い放った女性は、クレアに瓜二つでした。

「へぇ〜。この子が。よろしく、あたし、コロンだよ!」
一点の曇りもない笑顔。

「え・・ええ・・。よろしくお願いします。」
フォーラは完全にその勢いに飲まれてしまいました。ACに対する激しい悲しみと怒りも
少し薄らいだようです。

「噂は聞いてるよ。あなた、名前は?」

「フォーラ=ウィンスローといいます・・。よろしくお願いします・・・。」
フォーラはぺこりと頭を下げました。

フォーラはその後2週間ほどで退院、薬師寺の事務所で働くこととなります。
フォーラの物語はここから始まるのです。いつか、必ず仲間たちの仇を討つことを誓っ
て。
10/02/25 12:57更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50