連載小説
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暗闇の空
「青い”ダークネススカイ”は、俺たちの前に立ちふさがった。
”ダークネススカイ”に対抗できる兵器は、他社製の高性能MTか、同じ”ダークネススカイ”しかない。”ダークネススカイ”をACとするならば、ACなど下級MTに等しい。テストパイロットだった俺にして言えることだった。
だが、俺たちが乗っているのは、AC、だ!

”チューマー!”

リンダの声は、明らかに怯えていた。
リンダは、過去に二回、先日の海上戦を計上すれば、三回も”ダークネススカイ”に敗れている。その恐ろしさは骨の髄まで染み付いているはずだ。

”…臆するな。勝機はある。”

”そうですわね。こんな所で終われるものですか。”

”ああ。…行くぞ!!”

俺は”メタスターシス”のOBに点火し、正面から突っ込んだ。”ダークネススカイ”のAIの弱点を突けば、あるいは…!
轟音を立てて発射された二束四連のグレネード砲弾を頭上にかわし、俺は敵に肉薄した。
ところが、目の前にあったはずの巨体が、一瞬で消えた。

『!?』

敵は、信じがたい速度で俺のACを振り切ったのだ。
格納庫の隅まで滑走した敵は足元から火花を散らしてターンし、”ジャンネッタ”の、その無防備な背中にグレネード砲弾を放った。

一瞬だった。
4発のグレネード砲弾の直撃を受け、”ジャンネッタ”は粉微塵に四散した。

『リンダ…!!』

あっけない最後。悲鳴すらなかった。
彼女の自慢だったグレネードキャノンの半切れが、かすかな煙を引いて落ちていくのが見えた。

”ジャンネッタ”を葬った”ダークネススカイ”は、威圧的に両の手を広げた。
対する俺は、一人。
一人。
そうだ。俺は一人だった。
ロメアが死んで、一人、あらゆるものを憎み、”癌”と呼ばれた頃の俺が、蘇った。
こいつは、やっと、俺が取り戻してきた、温かい人の心を、踏み潰した。
クレストの実験室で、リンダの笑顔に何度救われたことだろう。
素直じゃない、少し、はにかんだような笑顔。あの笑顔は、もうない。
吹き上がる、黒い、黒い、憎悪。
俺の目の前を、再び暗黒が覆った。…暗闇の空。
ニクイ…!キサマガ、ニクイ…!

”ダークネススカイ”が再度、俺に向かって発砲した。
だが、その時の俺には、もう、全てが止まって見えた。

『なめるなよ、ザコが。』

俺は、残酷な笑みを浮かべていたに違いない。
俺は敵の攻撃を軽くかわし、鋭いジャンプから、一気に距離をつめた。
側面へ急速に滑って逃れようとする敵の動きは、完全に読めていた。
俺の振り出したブレードは、敵の背部ユニットをゼリーのように抉った。

ギギッ、ギギギッ…!

破片を撒き散らしつつ、敵は左拳を俺に向かって振り下ろした。
同時に、その指先からリニア弾が発射される。
が、それも、その時の俺にとっては稚戯だった。
マシンガンの銃身でリニア弾を受け、その銃身が四散するが早いか、振り下ろされた左拳にブレードのカウンターを食らわせた。
ブレードに貫かれた左拳はスパークし、一瞬の間を置いて吹き飛んだ。

『くっ、ははははは!』

俺は狂ったように笑った。
事実、狂っていたに違いない。
敵をいたぶり、殺すことがこれ以上ない楽しみに思えた。
敵は右手のブレードを振り、俺との距離を離そうともがく。
俺はそのブレードをいなし、敵の頭上に張り付いた。

『死ねよ。貴様がな。』

俺が、その脳天にブレードを突き下ろそうとした、その瞬間だった。

”チューマー!ダメッ!”

聞き覚えのある女の声と共に、一発のエネルギー弾が”ダークネススカイ”のエネルギーシールドに弾けた。

青い、軽量型のACが、格納庫の天井から覗いていた。
コロンだ。
その一瞬、俺を覆っていた闇が霧散した。
あらゆる闇を消し去る、暖かで、まばゆい光。

その隙を、敵は見逃さなかった。
敵は、その右手で俺のACを鷲掴みにし、まるでハエでも潰すように壁に叩きつけた。

『!?ぐはッ!!』

コンソールはスパークし、煙を上げた。
メインカメラは死に、サブカメラに切り替わった。
背部は目茶目茶に潰れたらしく、ブースターが動かない。
脱出しようにも、コクピットハッチすら開かない。
”メタスターシス”は、完全に死んだ。

『これまでか。しかし、闇のまま死ぬよりは、良かったのかもしれんな。
最後に目を覚まさせてくれたコロンには、感謝すべきか…。
ロメア…、俺もすぐそっちへ行くさ。待たせてすまなかったな…。』

ところが、敵は動かなくなった俺のACから興味を失ったらしい。
そのカメラアイは、天井の”アディーナ”に向けられていた。」
10/02/28 08:37更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50