連載小説
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格納庫
「地下都市の最深部と思われるところに、大型のエレベーターがあった。その奥に、ケイはいる。
俺たちはエレベーターを守っていた2機の敵ACを手早く片付け、エレベーターで更に下層に下りた。
そこは、地下都市に比べ新しい空間だった。恐らく、クレストが強化人間の実験などを行う際に、新たに掘削した空間なのだろう。空間を完全に閉鎖する形で、巨大な格納庫らしい構造物を認めた。この格納庫を通らない限り、先へは進めない作りだ。

”格納庫…。いるかしら。敵。”

”いるだろうな。どのみち避けては通れまい。”

”そうですわね。”

格納庫の周囲には敵影は見えず、俺は格納庫の入り口に近づき、スイッチを押した。鍵はかかっておらず、ギリギリと音をたて、格納庫はその口を開いた。
俺たちが格納庫に入ると、後ろでガチャリと鍵がかかり、格納庫内に照明が灯った。

そこに並んでいたものは…

ダークネススカイ。

俺たちは、あっ、と息を呑む。
俺が使っていたものよりも構造が簡略化されてはいるものの、あのクレストの超兵器”ダークネススカイ”が、それも十数機、林立していたのだ。
天井近くの高さに窓があり、そこに男の影があった。スピーカーから声が流れる。
ケイ、だ。

『驚いてくれたかい、チューマー君にリンダ君。
君たちの事は調べさせてもらったよ。ナービス製強化人間に、クレストの黒い稲妻か。どうりで、ボクの自信作がやられちゃうわけだ。でも、これで終わりさ。見てくれよ、ボクのこの部隊を。知ってるだろう?”ダークネススカイ”だ。
昔話をしよう…。クレストが地下都市を発見したとき、その最奥には旧世代の巨大兵器がほぼ無傷の状態で眠っていた。”プロトン-PI”と名づけられたそれを、クレストの軍事技術者は徹底的に解析した。その結果、それは並みの人間では操縦できない代物だということがわかった。パイロットの生命維持を完全に無視した作りだったのさ。そこで、クレストが考えたのは、並みの人間を超越する生命力をもった人間…すなわち強化人間、もしくは人間の代わりに操縦する人形の開発だった。また、”プロトン-PI”のデータを元に、量産兵器の開発に着手した。…それが”ダークネススカイ”だ。
ボクは実働部隊の司令であると同時に、”ダークネススカイ”の開発責任者だった。設計図も完成し、あとは操縦者を待つばかりだったんだが、ある日、ボクのところにやってきたノルバスクに突然解雇を言い渡された。開発に必要なデータの為にキサラギと裏取引をやったのがバレたらしい。悔しかったよ。ボクがクレストを追い出された後、”ダークネススカイ”に関わる研究は頓挫した。当然の結果さ。チューマー君、キミが使っていた”ダークネススカイ”は、量産化に失敗したプロトタイプの一機だったというわけさ。
操縦者の問題も解決できないまま、クレストは結局、研究施設を閉鎖した。ザマはない。そのあと、ボクは密かに施設を再起動し、数少ない部下とレイピアの協力を得て、遂に人形の開発と”ダークネススカイ”の量産化を完成した。それが、キミたちの目の前の、それさ。
ところが、どういうルートか、それをキサラギの一派に感づかれた。危機感を持った彼らは、旧世代の兵器の発掘に躍起になった。そして彼らは、クレストとは別の旧世代の兵器にたどり着いた…。ところが、それはパンドラの箱だった。”プロトン-PI”どころの騒ぎじゃない。彼らの掘り当てた兵器は、とても人間の手に負えるものじゃなかったんだ。にもかかわらず、彼らはそれを解放した。バカな奴らさ。その旧世代の無人兵器は群れをなして世界を滅ぼした。君らも見ただろう、アレさ。でも、それはボクにとっては好機だった。ボクを追放したクレストに、企業に、復讐してやるのさ。キサラギの馬鹿どものおかげで、企業の力は弱っているはずだ。キミたちにもそれを見せてやりたいけど、残念だったね。キミたちはここで死ぬのさ。』

『長々と、説明、感謝しますわ。でもね、死ぬのは私たちじゃなくて、あなたよ。残念だったわね。』

『威勢のいいお嬢さんだ。嫌いじゃないよ。キミたちの相手はとっておきだ。
ヴァーテブラ=トランスバース。
トランスバース財閥の取締りの長男、ヴァーテブラだ。聞いたことあるだろう?せっかくだから、死ぬ前にいろいろ聞かせてやろう。
財閥取締役のスカル=トランスバースは優れた科学者でもあり、研究の成果として”異質性空間エネルギー論”を提唱した。軍事への利用が可能だった為、クレストから研究データの提供を求められたが、彼は一貫して拒否していた。クレストは裏から手を回し、ミラージュに財閥を攻撃させた。クレストは財閥の味方をするふりをして、体よく研究データを手に入れた。スカルは死に、生き延びたヴァーテブラはフリーのレイヴンとなった。財閥の壊滅の裏にクレストの陰謀を嗅ぎ取ったヴァーテブラは、クレストの依頼を受けつつ尻尾をつかもうとしたが、逆に罠にはめられ、ボクの部隊に拘束された。彼の運命は、人形の実験材料だった。』

『よくしゃべる男ね。それが何だって言うのよ。』

『ひゃはは、あとは、見てのお楽しみ…。』

それっきり、声は途切れた。

ずしり、と地響き。

林立する”ダークネススカイ”の最奥の一機のカメラアイが、点灯していた。肩には王冠のエンブレム。カラーリングは、”ネモリーノ”と同じ、青。
まさか…!

”先程ハ世話ニナッタ…。二人マトメテ、死ネ…!”」
10/02/28 08:37更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50