連載小説
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侵攻
「貴様も知っていると思うが、コロンの兄、ヴァーテブラは、数年前より行方不明となっていた。
当時レイヴンだったヴァーテブラは、クレスト系列の依頼を受けたのを最後に足取りが途絶え、それを探す為に、コロンはレイヴンとなったと聞いている。ヴァーテブラのACは”ネモリーノ”といい、高出力のレーザーライフルを操り、各企業からはそれなりの信頼を受けていたようだ。コロンの話では、あのACが”ネモリーノ”ということになるのだろう。

コロンはその場を動こうとはしなかった。
”実の兄が親友を殺したかもしれない”という過酷な現実に耐えられないのは、流石に無理のない話か。
いつまでもそこに留まるわけにもいかないので、俺たちは再び二手に分かれた。コロンと共に留まるのがリンダ。俺とジャックは上層に戻り、目的地を目指す。コロンが動けるようになったら、コロンとリンダは俺たちを追うという方針だ。

俺とジャックは元の路上に戻り、レイピアの指示した方角を目指した。女二人を残していくのは気がかりではあったが、依頼の完遂のためには一刻も早い行動が必要だった。
地下都市はさらに深くなり、広がりを増した。林立する高層ビルは壁や天井からも隙間なく伸び、かつての栄華をしのばせた。

”静かだな。ジャック。”

”ああ。しかし、見られているような気がする。油断するな、チューマー。”

その時だ。レーダーに反応があった。小さな、無人の浮遊型のMTだ。
俺とジャックは攻撃態勢を崩さぬまま、様子を伺った。
そのMTから、しわかれ声が聞こえてきた…。

『ようこそ、レイヴンの諸君。ボクは、ケイ。ケイ=リュウガタケだ。
どういう方法か知らんが、レイピアがお前たちを呼び寄せたようだな。だが、お前たちたった四人ではどうにもならん。
…ん?イヤ、いつの間にか二人になっているな?ますます見込みなしという所か。せっかくだから、ボクの最後の実験に付き合ってもらうよ。お願いだから、あっけなく終わったりしないでくれ。じゃ、楽しみにしてるよ。』

MTは、一方的に喋り終えると、その場で自爆した。

”ジャック。”

”ああ。敵は、置いてきたコロンとリンダを把握していないようだな。好都合だ。
…来るぞ!”

レーダーに3つの光点が現れた。
AC、だ。
思う間もなく、ビル影から極太のプラズマ弾が発射された。それは空気を切り裂く異様な音と共に俺たちの間を抜け、背後のビルに着弾した。
ビル影から現れたのは、大口径プラズマキャンを背負った四脚型ACだ。しかし、俺はそいつに見覚えがあった。”FG5−PP”。かつて、ミッション中に遭遇し、撃破したはずのACだ。何故こんなところに?何故生きている?
さらに、反対側のビル影から二機のACがその姿を現した。フロート型と重量二脚型だ。フロート型のACは見覚えのないものだったが、重量二脚型の方は”サバーン”。これもやはり過去の戦いで死亡したはずのものだった。

”チューマー、一機ずつ潰すぞ。まずは、フロート型をやる!”

右腕のない”ドゥルカマーラ”は、フロート型ACに突進した。俺は他の二機を牽制しつつ、それに続く。
フロート型はハンドガンを撒きつつEOで迎撃するが、”ドゥルカマーラ”の装甲と突進力の前には無力だった。壁際に追い詰められたフロート型は、”ドゥルカマーラ”のバズーカの一撃で沈黙した。
そこへ、極太のプラズマ弾がかすめる。俺は愛機”メタスターシス”を跳躍させ、”FG5−PP”の頭上へ急降下した。再度、肩口をプラズマ弾がかすめ、装備したエクステンションパーツが吹き飛ばされたようだが、次の瞬間、”メタスターシス”のブレードは”FG5−PP”を縦に貫いていた。
残った”サバーン”は”ドゥルカマーラ”に接近戦を挑んだようだ。”サバーン”の振り下ろしたバズーカの砲身を、”ドゥルカマーラ”は同じくバズーカで受ける。ゴンッ、と暗闇に金属音が響き、両者の関節が低い唸りを上げた。だが、その力比べも長くは続かなかった。”ドゥルカマーラ”のインサイドハッチが不意に展開し、そこから飛び出した幾多の吸着地雷が”サバーン”を直撃した。上半身を爆炎に包まれた”サバーン”は後ろ向きにのけぞり、”ドゥルカマーラ”の足底に踏み倒された。
止めを刺すべく近寄った俺を、ジャックが制した。
”ドゥルカマーラ”はその残った左手で”サバーン”のコクピットブロックを掴み、ハッチをむしりとった。

そこに収まっていたのは…やはり人形だった。」
10/02/28 08:35更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50