生き残った者たち
「数人の兵を乗せた脱出用のコンテナと俺たち3機のACは、ミクリッツ港の波止場に逃れた。”奴ら”の飛来はまだ続いていたが、艦隊の全滅で目標を失ったのか、ややまばらになっていた。ジャックの指示で、兵たちはコンテナから波止場の兵舎に移った。彼らはそこで救助を待つこととなった。
『どうする、ジャック。俺は、もうお役ごめんでいいのか。』
俺はジャックに問うた。艦隊が全滅し、ノルバスク以下司令部が不在となった今、俺の任務は継続不能と思われたからだ。ところが、ジャックの答えはこうだった。
『チューマー。貴様の受けた依頼は何だ。”クレスト管轄のミクリッツシティーに入り込んだミラージュの部隊を殲滅し、外敵より市街を防衛する”という内容だったはずだ。それは私も同じだ。つまり、まだ終わってはいない。』
石頭のジャックらしい答えだ。その作戦自体の意味すら、もはや危うい状況と思えるが、依頼を全うするのが、軍人とレイヴンのあり様であると言われれば頷けなくもない。
波止場から数十キロ離れたミクリッツの市街地からは火の手が上がっており、市街地も例外なく”奴ら”の攻撃を受けたのが見て取れた。俺はジャックの市街地防衛作戦に加わることとした。
『リンダ。』
ジャックがリンダを呼んだ。リンダのAC”ジャンネッタ”は波止場の岸壁で、ノルバスクやアルサー、他大勢の仲間たちを飲み込んだ海を、身じろぎもせずに見つめていた。
『リンダ。まだ終わっていないぞ。いつまでそうしているつもりだ。』
AC”ジャンネッタ”は動かない。
『リンダ。お前は、ノルバスク閣下に何と言われた。”戦って死ぬだけが能ではない”と言われたはずだ。しかし、閣下は戦いの為に生き、戦いの為にしか死ぬことができなかった。閣下はな、閣下自身が歩みたくても歩めなかった、人生の無限の可能性を、お前に託したのだ。』
AC”ジャンネッタ”の消えていたカメラの光が、再び灯った。
『リンダ。お前の為に命をかけたアルサーの意思を、無駄にするな。奴もまた、戦いの為に生きた男だったが、最期だけは違った。リンダ、奴は戦いの為ではなく、お前の為に死んだのだ。企業の抗争などのためではなく、一人の、大切思える人の為に死んだのだ。奴は、お前に生きて欲しかった。ただ、それだけだった。』
AC”ジャンネッタ”のモーターが低く唸り、機体を振るわせた。
『リンダ。お前は生きなければならない。生きるためには、前へ進まねばならない。顔を上げろ。涙を拭け。お前に、立ち止まる暇など許されない。』
”奴ら”がまた増えてきたようだ。いつまでもリンダに構っている余裕はなかった。俺は、市街地に向かうべくAC”メタスターシス”のブースターに点火した。
『ジャック。行くぞ。』
『…ああ。』
ジャックのAC”ドゥルカマーラ”は、未だ動かないAC”ジャンネッタ”を振り返りつつ、背を向けた。
『…待って。』
リンダの声だ。
AC”ジャンネッタ”が、停止していた戦闘モードを起動していた。
『私も行く。』
暗雲の下に、ミクリッツの市街地が煙にかすんで見えた。
進んでも、生き残れる保障はなかった。しかし、進まなければ、生き残れる可能性もなかった。」
『どうする、ジャック。俺は、もうお役ごめんでいいのか。』
俺はジャックに問うた。艦隊が全滅し、ノルバスク以下司令部が不在となった今、俺の任務は継続不能と思われたからだ。ところが、ジャックの答えはこうだった。
『チューマー。貴様の受けた依頼は何だ。”クレスト管轄のミクリッツシティーに入り込んだミラージュの部隊を殲滅し、外敵より市街を防衛する”という内容だったはずだ。それは私も同じだ。つまり、まだ終わってはいない。』
石頭のジャックらしい答えだ。その作戦自体の意味すら、もはや危うい状況と思えるが、依頼を全うするのが、軍人とレイヴンのあり様であると言われれば頷けなくもない。
波止場から数十キロ離れたミクリッツの市街地からは火の手が上がっており、市街地も例外なく”奴ら”の攻撃を受けたのが見て取れた。俺はジャックの市街地防衛作戦に加わることとした。
『リンダ。』
ジャックがリンダを呼んだ。リンダのAC”ジャンネッタ”は波止場の岸壁で、ノルバスクやアルサー、他大勢の仲間たちを飲み込んだ海を、身じろぎもせずに見つめていた。
『リンダ。まだ終わっていないぞ。いつまでそうしているつもりだ。』
AC”ジャンネッタ”は動かない。
『リンダ。お前は、ノルバスク閣下に何と言われた。”戦って死ぬだけが能ではない”と言われたはずだ。しかし、閣下は戦いの為に生き、戦いの為にしか死ぬことができなかった。閣下はな、閣下自身が歩みたくても歩めなかった、人生の無限の可能性を、お前に託したのだ。』
AC”ジャンネッタ”の消えていたカメラの光が、再び灯った。
『リンダ。お前の為に命をかけたアルサーの意思を、無駄にするな。奴もまた、戦いの為に生きた男だったが、最期だけは違った。リンダ、奴は戦いの為ではなく、お前の為に死んだのだ。企業の抗争などのためではなく、一人の、大切思える人の為に死んだのだ。奴は、お前に生きて欲しかった。ただ、それだけだった。』
AC”ジャンネッタ”のモーターが低く唸り、機体を振るわせた。
『リンダ。お前は生きなければならない。生きるためには、前へ進まねばならない。顔を上げろ。涙を拭け。お前に、立ち止まる暇など許されない。』
”奴ら”がまた増えてきたようだ。いつまでもリンダに構っている余裕はなかった。俺は、市街地に向かうべくAC”メタスターシス”のブースターに点火した。
『ジャック。行くぞ。』
『…ああ。』
ジャックのAC”ドゥルカマーラ”は、未だ動かないAC”ジャンネッタ”を振り返りつつ、背を向けた。
『…待って。』
リンダの声だ。
AC”ジャンネッタ”が、停止していた戦闘モードを起動していた。
『私も行く。』
暗雲の下に、ミクリッツの市街地が煙にかすんで見えた。
進んでも、生き残れる保障はなかった。しかし、進まなければ、生き残れる可能性もなかった。」
10/02/28 08:30更新 / YY