リンダ=アルピニー
私が指揮を任されているのは、クレスト社の実動部隊のうちで、機動第二大隊と呼ばれる部隊だ。
数隻の艦、数十機の戦闘用MTと戦闘機、そして9機のACが主な戦力となっている。
部下の総人数は千を超えるが、まあ、その辺は本題ではないので細かいことは置いておこう。
今回、お話しするのは、大隊の旗艦「ジュピター」のクルーで、ACパイロットを務めている、リンダ=アルピニー准尉のことだ。
彼女は戦災孤児で、ライバル社のミラージュと我がクレスト社の戦いで滅びた町で、数少ない生き残りとして回収された。
あの戦いは本当に悲惨だった。互いに社運を賭けた激突だったために、大量破壊兵器がためらいなく使用され、多くの無関係な市民が犠牲となった。
当時2歳だったリンダ君は、息絶えた両親の前で無表情な目で立ち尽くしていたという。
軍に回収され、社の孤児院に引き取られたリンダ君は、9歳になった時、軍属への進路を希望した。若すぎるきらいはあったが、訓練生として受け入れられ、兵士としての厳しい訓練を受けた。
もともと才能があったのか、はたまた本人の努力の賜物か、めきめきと力をつけたリンダ君は、初陣で華々しい戦果をあげ、以後も類稀なる活躍を続け、齢僅か18歳にして准尉まで上り詰めた。
これまではよい。問題はこれからだ。まあ、ちょっと見ていただこう。
巡洋艦「ジュピター」の艦内ビュッフェ「エヌセード」。
ちょっとこじゃれたこのビュッフェが、リンダ君の職場だ。
器用なリンダ君は、ACパイロットをこなす傍ら、このビュッフェでシェフも勤めている。…味のほうはとても褒められたものではないが。
そのビュッフェのカウンターに腰掛けているのは、リンダ君の部下の、アルサー=ロキ上等兵。
そして、キッチンからカウンターに向かって立っているのが、そのリンダ君だ。
二人は、先ほど戦場から帰ってきたばかりのようだ。
「リンダ准尉、相変わらずの戦いぶり、痺れましたぜ。」
「ロキ、あなたのへタレぶりにも、私は痺れましたわ。」
ロキ上等兵は痩せた体に赤いメッシュのモヒカン頭。
リンダ君はちょっと釣りあがった眼に、やや濃い化粧、斜めに被った軍帽。
「それは言わない約束ですよ…。
しかし、リンダ准尉、なにもあそこまでやることはないでしょう。
既に戦意をなくした敵に、砲撃を撃ちこむなんて…。」
「あら。あいつらが弱いのが悪いのですわ。弱いものは死んで当然ですのよ。」
過激な発言だ。軍人としては適切かもしれないが、18歳の女の子のセリフとは思えない。
「まぁ、それはそうかもしれませんがね。でも、敵さんにだって家族もあるでしょうに。」
「私には、最初ッから家族なんてありませんわ。
知ったことではなくってよ。」
「はぁ…。」
「ロキ。貴方も、強くなることね。弱いものに生きる権利はありませんわ。」
軍の教育委員会に問題があるのかもしれん。
おや、だれかビュフェに入ってきたようだ。
小さい眼、落ち着いた物腰、物静かな表情、マントにステッキ。
アーテリー=ヘルベッサー中佐だ。
彼も今回の作戦に参加していたはずだ。
アーテリー中佐は静かにステッキを置き、マントを脱ぎ、カウンターに向かった。
「あら、アーテリー中佐。作戦お疲れ様でした。」
「ああ。リンダ准尉。なかなかの活躍だったな。
しかし、あれでは君自身のの命がもたんぞ。もっと命は大事にしろ。」
「お言葉ですが、中佐。戦って、戦い抜いて死ぬのが軍人の務めと心得ていますので。」
「ふん…。私は命が惜しいがな…。
それはそうと、今回、協力を依頼していた、傭兵のカイゼル君は?」
「チューマーと共に、敵残党の掃討に向かって頂きましたわ。カイゼルもなかなかの腕ですわね。」
「そうか。カイゼル君にチューマー君も一緒か。なら大丈夫だろう。」
アーテリー中佐は、カチリと煙草に火をつけた。
白い煙がすじを書いて天井へ昇っていく。
「ところで、アーテリー中佐。奥様、おめでたなんですって?」
「ああ。耳が早いな。はは。そのようだ。これで益々、私は死ねなくなってしまったな。」
アーテリー中佐は照れくさそうに頭をかいた。
彼は数年前に、社内結婚し、以後、忙しいながらも幸せな家庭を築いているらしい。
奥さんの名はヴェーナという。青い髪の、少し気の強い女性だ。
「私、ヴェーナさんにあこがれているんです。私もあんな強い人になりたいです。」
「ああ…そうか?伝えておくよ、はっは…
おや、もう時間のようだ。私はこれで失礼するよ。リンダ准尉もミーティングに遅れるな。」
アーテリー中佐は煙草を灰皿に収め、席を立った。
「リンダ准尉。俺も行きますぜ。」
アーテリー中佐と、続いてロキ上等兵はビュッフェを出て行った。
リンダ君も、手を拭きながらパタパタとキッチンの奥へ消えていった。
では今度は、戦場に残っているという、カイゼル君とチューマー君の様子を見てみることにしよう。
数隻の艦、数十機の戦闘用MTと戦闘機、そして9機のACが主な戦力となっている。
部下の総人数は千を超えるが、まあ、その辺は本題ではないので細かいことは置いておこう。
今回、お話しするのは、大隊の旗艦「ジュピター」のクルーで、ACパイロットを務めている、リンダ=アルピニー准尉のことだ。
彼女は戦災孤児で、ライバル社のミラージュと我がクレスト社の戦いで滅びた町で、数少ない生き残りとして回収された。
あの戦いは本当に悲惨だった。互いに社運を賭けた激突だったために、大量破壊兵器がためらいなく使用され、多くの無関係な市民が犠牲となった。
当時2歳だったリンダ君は、息絶えた両親の前で無表情な目で立ち尽くしていたという。
軍に回収され、社の孤児院に引き取られたリンダ君は、9歳になった時、軍属への進路を希望した。若すぎるきらいはあったが、訓練生として受け入れられ、兵士としての厳しい訓練を受けた。
もともと才能があったのか、はたまた本人の努力の賜物か、めきめきと力をつけたリンダ君は、初陣で華々しい戦果をあげ、以後も類稀なる活躍を続け、齢僅か18歳にして准尉まで上り詰めた。
これまではよい。問題はこれからだ。まあ、ちょっと見ていただこう。
巡洋艦「ジュピター」の艦内ビュッフェ「エヌセード」。
ちょっとこじゃれたこのビュッフェが、リンダ君の職場だ。
器用なリンダ君は、ACパイロットをこなす傍ら、このビュッフェでシェフも勤めている。…味のほうはとても褒められたものではないが。
そのビュッフェのカウンターに腰掛けているのは、リンダ君の部下の、アルサー=ロキ上等兵。
そして、キッチンからカウンターに向かって立っているのが、そのリンダ君だ。
二人は、先ほど戦場から帰ってきたばかりのようだ。
「リンダ准尉、相変わらずの戦いぶり、痺れましたぜ。」
「ロキ、あなたのへタレぶりにも、私は痺れましたわ。」
ロキ上等兵は痩せた体に赤いメッシュのモヒカン頭。
リンダ君はちょっと釣りあがった眼に、やや濃い化粧、斜めに被った軍帽。
「それは言わない約束ですよ…。
しかし、リンダ准尉、なにもあそこまでやることはないでしょう。
既に戦意をなくした敵に、砲撃を撃ちこむなんて…。」
「あら。あいつらが弱いのが悪いのですわ。弱いものは死んで当然ですのよ。」
過激な発言だ。軍人としては適切かもしれないが、18歳の女の子のセリフとは思えない。
「まぁ、それはそうかもしれませんがね。でも、敵さんにだって家族もあるでしょうに。」
「私には、最初ッから家族なんてありませんわ。
知ったことではなくってよ。」
「はぁ…。」
「ロキ。貴方も、強くなることね。弱いものに生きる権利はありませんわ。」
軍の教育委員会に問題があるのかもしれん。
おや、だれかビュフェに入ってきたようだ。
小さい眼、落ち着いた物腰、物静かな表情、マントにステッキ。
アーテリー=ヘルベッサー中佐だ。
彼も今回の作戦に参加していたはずだ。
アーテリー中佐は静かにステッキを置き、マントを脱ぎ、カウンターに向かった。
「あら、アーテリー中佐。作戦お疲れ様でした。」
「ああ。リンダ准尉。なかなかの活躍だったな。
しかし、あれでは君自身のの命がもたんぞ。もっと命は大事にしろ。」
「お言葉ですが、中佐。戦って、戦い抜いて死ぬのが軍人の務めと心得ていますので。」
「ふん…。私は命が惜しいがな…。
それはそうと、今回、協力を依頼していた、傭兵のカイゼル君は?」
「チューマーと共に、敵残党の掃討に向かって頂きましたわ。カイゼルもなかなかの腕ですわね。」
「そうか。カイゼル君にチューマー君も一緒か。なら大丈夫だろう。」
アーテリー中佐は、カチリと煙草に火をつけた。
白い煙がすじを書いて天井へ昇っていく。
「ところで、アーテリー中佐。奥様、おめでたなんですって?」
「ああ。耳が早いな。はは。そのようだ。これで益々、私は死ねなくなってしまったな。」
アーテリー中佐は照れくさそうに頭をかいた。
彼は数年前に、社内結婚し、以後、忙しいながらも幸せな家庭を築いているらしい。
奥さんの名はヴェーナという。青い髪の、少し気の強い女性だ。
「私、ヴェーナさんにあこがれているんです。私もあんな強い人になりたいです。」
「ああ…そうか?伝えておくよ、はっは…
おや、もう時間のようだ。私はこれで失礼するよ。リンダ准尉もミーティングに遅れるな。」
アーテリー中佐は煙草を灰皿に収め、席を立った。
「リンダ准尉。俺も行きますぜ。」
アーテリー中佐と、続いてロキ上等兵はビュッフェを出て行った。
リンダ君も、手を拭きながらパタパタとキッチンの奥へ消えていった。
では今度は、戦場に残っているという、カイゼル君とチューマー君の様子を見てみることにしよう。
10/02/28 07:54更新 / YY