皆に夢と幸福を
倒れた”ダークネススカイ”のコクピットハッチが、白い煙と共に弾けました。
チューマーは生きていました。
怪我をしているのか、起き上がることができません。
その前に、”アディーナ2号機”から降り立ったフォーラさんが、スッと立ちました。
チューマーはフォーラさんを仰ぎ見ます。
「…緋色の目の女。…貴様か。
フッ…俺を殺したいんだったな。さあ、やれ。こんなチャンスはないぞ。」
フォーラさんは無言で、腰のホルスターから拳銃を抜きました。
そして、その銃口をチューマーの額に押し付けました。
時が止まりました。
「ぱん!」
銃声は、拳銃からではなく…
フォーラさんの口から飛び出しました。
チューマーは一瞬つむった目をゆっくりと開きました。
「…殺さないのか?」
「いいえ、殺しました。」
訝しげな顔のチューマーに、フォーラさんは、拳銃をホルスターに戻して、にっこり、答えました。
「今、私は、あなたの過去を殺しました。
どこかで狂ってしまった、あなたの運命を殺しました。
これからのあなたは、もう今までのあなたではありません。
約束してください。生まれ変わることを。
そして、もう二度と、あなたや、私のような悲しい人を増やさないことを。」
「…できるのか?俺に。」
「できますよ。あなたも昔は、人を愛することのできる、優しい人だったはずです。
ロメアさんも…、天国からあなたの幸福を祈っていますよ。」
「…!」
チューマーの乾いた目から、もう何年も見せたことのない、熱い涙が流れました。
その涙は、この男の凍りついた心を溶かしていきました。
「さあ、立って、チューマー=マリグナント。」
フォーラさんにの手につかまり、チューマーは立ち上がりました。
秋の陽が、二人をまぶしく照らします。
「よう、チューマー。いい光景じゃねぇか。」
二人が振り向くと、そこにはあの男がニヤニヤしながら立っていました。
テロリストのノデュール=べナインです。
「緋眼の妖精さんよ、チューマーはひとまず俺が預かる。
なぁに、捕まる様なヘマはしないさ。…いいな、チューマー。」
「ああ。貴様の顔も、今は少し違って見える。案外、いい男だな、ノデュール。」
「へっ、茶化すなよ。…じゃあな、先輩さんによろしくだ。」
ノデュールのサイドカーに乗せられ、チューマーは去っていきました。
フォーラさんは、大きく手を振って見送りました。
今度会うときは、今とは違った顔の彼に、きっと会えることでしょう。
そこから少し離れた所。
黒煙を上げるAC”ドゥルカマーラ”の隣に、二人の男女が座っていました。
「なかなかいい結末じゃない?」
とアルピニー准尉。
「そうだな…。今回、私は悪役だったかな?」
とファイザー少佐。
「これから、見せ場はありますわよ。」
「そうだな…。まずは、自社の利益しか考えない、石頭の高官どもをなんとかするか。」
「それなら、私も協力いたしますわ。…あなたに、夢と幸福を。」
「おう。お前もな。」
二人の所に、白い担架を持った救護員がやってくるのが見えました。
チューマーを見送ったフォーラさんの前に、コロンさんが駆けてきました。
「フォーラちゃん!」
「コロン先輩!」
フォーラさんは、コロンさんの腕の中に飛び込みました。
「お帰りなさい、フォーラちゃん。あなた、本当に強くなったわね。」
「いままで、たくさんご迷惑おかけしました。でも、今度は私が先輩を支える番です。なんでも言ってください!」
「あはは、生意気ね。じゃ、帰ったら、早速お庭のお掃除してもらおうかしら。落ち葉がたまって仕方ないの。」
「えー。先輩も手伝ってくださいよ…。」
「あはは。さあ、帰りましょう、フォーラちゃん。お客さんが待ってるわ。」
「はい!」
フォーラさんは、秋空を仰ぎ見ました。飛行機雲が白いラインを描いています。
「クレアさん、デュオ、みんな…。さようなら。私、生きます。これで…よかったんですよね。」
フォーラさんは、空に、仲間たちの笑顔を見たような気がしました。
フォーラさんは、もう振り返りません。
これから、また元の通り…いいえ、今までとは少し違う、もちろん、いい意味で少し違う毎日が待っていることでしょう。
憎しみからは何も生まれません。
互いに理解し合い、許しあうことで、新しい何かが生まれるのです。
さて、これで、私の話はおしまいです。
皆に夢と幸福を。
Fin.
チューマーは生きていました。
怪我をしているのか、起き上がることができません。
その前に、”アディーナ2号機”から降り立ったフォーラさんが、スッと立ちました。
チューマーはフォーラさんを仰ぎ見ます。
「…緋色の目の女。…貴様か。
フッ…俺を殺したいんだったな。さあ、やれ。こんなチャンスはないぞ。」
フォーラさんは無言で、腰のホルスターから拳銃を抜きました。
そして、その銃口をチューマーの額に押し付けました。
時が止まりました。
「ぱん!」
銃声は、拳銃からではなく…
フォーラさんの口から飛び出しました。
チューマーは一瞬つむった目をゆっくりと開きました。
「…殺さないのか?」
「いいえ、殺しました。」
訝しげな顔のチューマーに、フォーラさんは、拳銃をホルスターに戻して、にっこり、答えました。
「今、私は、あなたの過去を殺しました。
どこかで狂ってしまった、あなたの運命を殺しました。
これからのあなたは、もう今までのあなたではありません。
約束してください。生まれ変わることを。
そして、もう二度と、あなたや、私のような悲しい人を増やさないことを。」
「…できるのか?俺に。」
「できますよ。あなたも昔は、人を愛することのできる、優しい人だったはずです。
ロメアさんも…、天国からあなたの幸福を祈っていますよ。」
「…!」
チューマーの乾いた目から、もう何年も見せたことのない、熱い涙が流れました。
その涙は、この男の凍りついた心を溶かしていきました。
「さあ、立って、チューマー=マリグナント。」
フォーラさんにの手につかまり、チューマーは立ち上がりました。
秋の陽が、二人をまぶしく照らします。
「よう、チューマー。いい光景じゃねぇか。」
二人が振り向くと、そこにはあの男がニヤニヤしながら立っていました。
テロリストのノデュール=べナインです。
「緋眼の妖精さんよ、チューマーはひとまず俺が預かる。
なぁに、捕まる様なヘマはしないさ。…いいな、チューマー。」
「ああ。貴様の顔も、今は少し違って見える。案外、いい男だな、ノデュール。」
「へっ、茶化すなよ。…じゃあな、先輩さんによろしくだ。」
ノデュールのサイドカーに乗せられ、チューマーは去っていきました。
フォーラさんは、大きく手を振って見送りました。
今度会うときは、今とは違った顔の彼に、きっと会えることでしょう。
そこから少し離れた所。
黒煙を上げるAC”ドゥルカマーラ”の隣に、二人の男女が座っていました。
「なかなかいい結末じゃない?」
とアルピニー准尉。
「そうだな…。今回、私は悪役だったかな?」
とファイザー少佐。
「これから、見せ場はありますわよ。」
「そうだな…。まずは、自社の利益しか考えない、石頭の高官どもをなんとかするか。」
「それなら、私も協力いたしますわ。…あなたに、夢と幸福を。」
「おう。お前もな。」
二人の所に、白い担架を持った救護員がやってくるのが見えました。
チューマーを見送ったフォーラさんの前に、コロンさんが駆けてきました。
「フォーラちゃん!」
「コロン先輩!」
フォーラさんは、コロンさんの腕の中に飛び込みました。
「お帰りなさい、フォーラちゃん。あなた、本当に強くなったわね。」
「いままで、たくさんご迷惑おかけしました。でも、今度は私が先輩を支える番です。なんでも言ってください!」
「あはは、生意気ね。じゃ、帰ったら、早速お庭のお掃除してもらおうかしら。落ち葉がたまって仕方ないの。」
「えー。先輩も手伝ってくださいよ…。」
「あはは。さあ、帰りましょう、フォーラちゃん。お客さんが待ってるわ。」
「はい!」
フォーラさんは、秋空を仰ぎ見ました。飛行機雲が白いラインを描いています。
「クレアさん、デュオ、みんな…。さようなら。私、生きます。これで…よかったんですよね。」
フォーラさんは、空に、仲間たちの笑顔を見たような気がしました。
フォーラさんは、もう振り返りません。
これから、また元の通り…いいえ、今までとは少し違う、もちろん、いい意味で少し違う毎日が待っていることでしょう。
憎しみからは何も生まれません。
互いに理解し合い、許しあうことで、新しい何かが生まれるのです。
さて、これで、私の話はおしまいです。
皆に夢と幸福を。
Fin.
10/02/27 09:53更新 / YY