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ACX二次創作SS一話
はじめに
本作品は、アーマード・コアXを元にした二次創作作品です。
原作にはない設定、用語、単語が登場する他、筆者のフロム脳で独自解釈した世界観の見解が含まれます。


1.“厄日だ−”

 一体いつからこのような世界になったのか、それは今となっては誰にもわからない。
 ただ、無限に続く広大な荒野のどこかで、今日もわずかな生活の糧を求めて、様々な勢力が争いを繰り広げていた。
 当然、その男−イグニス・R・セリングが辿り着いたその地域もそうだった。
 男は念入りに手元のモバイルPCの画面を見ていた。画面には、スキャニングされた周囲の地下が映し出され、無数の金属が点在していた。
 使い込まれ、傷だらけの画面と薄汚れクリアが所々剥がれたPCは、男にとって商売道具の一つだった。
 男は探していた。地中に眠る物資を−
 過去、かつてこの地球という星に繁栄した数多くの国家と、それを支えた数多くの技術と文化。
 長い時の中で、それは繰り広げられる争いの道具になり、同時に生活の糧となる。
 男は、ミグラントに分類される人間だった。
 各地を転々とし、交易を生業にする運び屋の総称。各種の生活必需品を運ぶ行商人である一方、武器や弾薬などを扱う死の商人でもある。
 そのカテゴリの中で、男は『探索屋』の一面も持つ少数派だ。
 自らが採掘したモノや回収をしたモノ、もしくはその情報を他のミグラントに売り、生計を立てる。
 物心ついた時からやっている繰り返しの日々。
(ここか…)
 PCが指す一際強い反応がある場所で立ち止まり、彼はしゃがみこんだ。
 そして、左手に着いていたグローブを脱ぎ、それを口にくわえ、左手を地面に着け、彼は意識を集中した−
 刹那、彼の意識の中にフラッシュが焚かれたかのようなイメージが鮮やかに翔り、と同時に、地下に眠るモノが『視えた』。
「ここだ、間違いない。そうだな…、ここから約8メートル掘ったところに、大きな『機械』が眠っているよ」
 そう言って彼は、自分を連れてきた男たちにそう告げた。
 彼の数メートル後ろには、採掘機械とそれを護衛する兵器を連れたミグラントがいた。
「よし、分かった」
 リーダーらしき男がそう答え、彼は仲間に作業へ取りかかるように指示を出す。
 一斉に彼らが動きだし、辺りは瞬く間に工事現場さながらの喧騒になった。
 その喧騒を流し眼に眺めてイグニスはモバイルPCを腰に巻いていたバックに戻し、その場を立ち去ろうと歩き出す。
「おい、『探索屋』!」
 ふと強い口調で呼び止められ、イグニスは半身振り返る。
 呼び止めたのは、リーダーの男だった。
「報酬だ」
 そういって、彼はある袋をイグニスに放り投げた。
 宙を舞い、彼の両手で受け止められた袋には、数日分の食料とボロボロの紙幣が数枚入っていた。
「サンキュ、毎度あり」
 気持ちのこもっていない声で、軽く笑って彼は再び歩き出す。
「また頼むぜ。来週は、遠い南の街へ行くんだ。色々と金目な物探し出さないといけないからな!」
 男にイグニスは、手を挙げ答え、彼はその場を立ち去った。
「…うわさ通りの男だったな。千里眼を持ち、各地を渡り歩く…。時代が違えば、違った人生を送っていたかもしれん」
 街へと戻るイグニスの後ろ姿を見送り、男は作業へと戻った。

 “陽だまりの街”
 この街は、最近そう呼ばれはじめているらしい。
 そう呼ばれるには、理由が三つある。
 一つは、数ある生活可能領域の中でも、比較的気候変動が少なく安定していること。
 二つ目に、ミグラントをはじめとする交易を営む勢力間の闘争が非常に少ないこと。
 三つ目に、この街の代表の力が圧倒的に強いということがある。

 そんな街だから、何かを求める者たちがここを訪れ、ある者は定住する−
 イグニスもその一人であった。
 ここに来たのは、ちょうど一年前。格別何か目的があるとかそういうわけではなく、ブラリと気ままにイグニスはやってきた。
 ほんの少し、休息がほしかった。長い放浪生活の中で、時折心の拠り所かほしくなるのだ。
 だが、見ず知らずの物をすんなり受け入れてくれるほどこの街は甘くはない。
 最初来た時は、怪訝にされ、寝込みを襲われたこともあった。このご時世ではどこでも見られる当たり前の光景かもしれない。
 “少しの間だけ、身を休めたら、また出よう”
 ただ、それだけだったのが、今こうして1年近く定住しているのは、恐らくその直後にある人物に助けられ、さらにその人物によって身の回りの環境が起こったからだ。
 街の古い一角にある聖堂。長い時、繰り広げられてきた戦火をかろうじて逃れてきたその建物が、彼の衣食住の場所であった。
 聖堂の内部、その奥にはかつての音色は失われたものの、その偉大さは失われていない巨大なパイプオルガンがあり、その中心には神の子の像が祀られている。
 果てなく争いが続けられる現在でも、人々は神への信仰を完全に忘れてはいない。
 今日もここは人々がやってきて、神への祈りを捧げている。
「俺にも、そういう時があったな…」
 聖堂の隅。並べられた長椅子をソファー変わりにして寝転がるイグニスは呟いた。
「あら、イグニス君は、無神論者だと思っていたわ」
 それを聞いていたのか、シスターはため息交じりにそう告げた。
「シスター・リトナ。人の話を盗み聞きするのはよくないって、神様は言ってなかったか?」
「あら、御免あそばせ。私はてっきり懺悔でもしているのかと思ったわ」
 クスクスとほほ笑むように笑い、彼女はイグニスの隣へ座った。
慈愛溢れる風格が、彼女が個々の主である所以なのかもしれない。
「でも、イグニス君。君も昔は神様を信じていたのでしょう?なんでやめちゃったの?」
「勧誘なら市内でやってくれ。単純に俺は形の見えないものは信じない質なんだ」
 ひょいと勢いをつけて立ち上がると、“あらあら…”と残念そうに言う彼女を背にし、聖堂の出入り口へと向かう。
「どこに行くか分からないけど、晩には戻ってきてね。今日は記念日だし」
「はっ?記念日?」
 まるで母親のように言うリトナに、イグニスは半身振り返って聞き返した。
「貴方がここに来て、今日でちょうど一年なのよ」
 手を軽く合わせ、相変わらずの満面の笑みでリトナはそう言う。
「ふ〜ん、そうなのか」
 気の乗っていない返事をし、イグニスは聖堂の外へと出た。
 日は西の空に傾いている。街の中心区は自分が見つけ出してきたと思われる機材を使い、そして、各地より流れ込んだ建材を使って再開発ラッシュが始まっていた。
 まだこの周囲には波及していないものの、この街の安定が続けばいずれは今よりも有福な街になるかもしれない。
 ただ、そうなれば、それを巡って争いが起きることも考えられる…。
 そうふと頭の中で考えて、彼はため息をついた。
(ヤボな事を考えるのはやめよ…)
 心の中でボヤいて、彼は市場へと向かった。目的は、次の旅路への準備をするためだ。

 世界は破壊しつくされ、そして、今でもなお争いは続いている…。
 そんな世界において、ここは理想郷なのかもしれない。
 “陽だまりの街”を創り上げた最初の指導者は、その人生の全てをこの街の創設のために捧げ、そして、ある日突然亡くなった。
 そして、その全てを受け継いだのは、その一人娘であるまだ二十歳も満たない少女であった。
 少女は、苦心していた。
 自分は、父が残したこの街を守れるのか?と…。
 最初の指導者であった父親から全てを受け継ぎ、一年。
 父の腹心であった従者−リューク・ライゼスと共に辛うじてこの街は、表向き“平穏”を保っている。
 だが、眼前に広がる問題は、日に日に彼女を悩ませるようになっていた。
「昨日発生した戦闘は、西部のインフラにダメージを与えています。恐らく例の武装組織が暗躍しているものと考えられます」
 報告書を読み上げるリュークの声を聞きながら、フィーナは目の前に広げた別の書類に目を通していた。
「…そう、明日から各エリアの警備部隊のシフトを変えて。特に居住区と産業区は、重点的に」
 かけていた眼鏡を外し、フィーナはリュークに指示を出した。
「分かりました」
 軽く会釈し、リュークはフィーナが読んでいた書類に視線を落とす。
「これ?1年前、父の書斎から見つけた遺書よ」
 広げていたソレらを一つに束ね、フィーナは座っていた椅子の背もたれに深く寄り掛かり、眼鏡を外した。
「変な話だけれど、今先貴方が報告してくれた一連の事件と、彼らに関する情報が載っているの」
「“Phantom children”のことが?既に何年か前から、今の状況を予見していたということですか?」
 リュークの問いにフィーナは黙って頷いた。
「彼らの一方的な宣告から1年。彼らは次第に過激の一途を辿っています。もっている武力も最近は機動兵器や過去の遺失兵器などにも手を出し始めていると聞きます」
 リュークの言葉通り、彼らがこの街に現れたのは一年前。最初はただの宗教活動家グループだと思われていた。しかし、すぐに人攫い、洗脳、ついに殺人や麻薬、さらにテロ行為まで、…など、その過激な行動にさらに拍車をかける彼らの行動は、すぐにこの街の安全を脅かす存在をとして、彼らを認知させるには十分だった。
 そして、一年前。彼らはフィーナの父親を殺害し、戦線布告した。この街を“始まりの街にする”のために制すると。我らは、怪人の子どもたちである、と…。
 その日から今日に至るまで、彼らが起こした、もしくは係わっていると思われる事件は数知れず…。
 一方でこの街の代表であり、被害者でもあるフィーナもただ指を銜えて黙っていたわけではない。
 『平穏』と言う均衡を崩そうとする者には、然るべき制裁を下す。それが父から幼き日より学んだことだった。
 AC−アーマード・コアを中心にした私設部隊の設立。
 過去よりサルベージされ、今の世界においても圧倒的な存在感を示す戦闘兵器アーマード・コアは、平穏を保つための抑止力の一つとして必要だった。
機体は既に手配している。
 だが、肝心な乗り手が不足している。そして、戦術を練り上げ、指揮を執るオペレーターも…。
 もう一つ。フィーナが考慮すべき事がある。
 1年前、父からこの街を引き継いだ際、託された事。
“エリーゼ・バーンズという者を『奴ら』の手に渡してはならぬこと”
“彼女の力は、お前にとって、これから必ず必要になる。彼女は既に例の−”
 その二つが、彼女が父から託された最後の言葉。
「リューク。例の者の話、捜索具合はどう?」
 何度聞いたか、フィーナはいつも通りの言い回しでリュークに訪ねた。
「今現在も、手掛かりは皆無です。各方面、情報屋やミグラントに聴いて回っていますが、私が動ける範囲では、現状が限界です」
「そう…」
 現状を打開するには、従者であるリュークをこの街から他のエリアへ出歩かせることが一番の策であると彼女は知っていた。
 だが、それはできない。この街最大の盾であるリューク・ライゼスの不在は、敵に見す見す城を明け渡したのと同然だからだ。
「−しかし、フィーナ代表。一つ、私から提案があります」
 まるでフィーナの考えていた事を見透かしていたかのように、今日のリュークは言葉を続けた。
「どういうこと?」
「昨日、郊外で採掘作業を行っているミグラントから、『探索屋』という男の話を聞きまして…。何でも、一種の千里眼の持ち主で、探し物のプロだということです」
「リューク、貴方今時そんなオカルトを信じているの?」
 フィーナはそういうオカルトじみた事は一切信じない人間であった。実際に確認、体験した事しか信じない性格だからだ。
「いや、私も本来ならこの手の話は信じません。ただ、今八方ふさがりの状況では、一つの手として、その男に依頼してみるのも手かもしれません」
「なるほど…」
 一通り話を聞いて、フィーナは少し合点したような表情を見せ、
「じゃあ、リューク。その男への依頼、頼めるかしら?」
 そう言葉を返した。
「お任せください。既に居場所は特定してあります」
 リュークは、自信に満ちた表情で続けた。“彼はこの街に居ます”と−

 西の空に日が沈むころ。
 イグニスは、帰路についていた。
 右手には次の旅路のためへの生活道具が詰った皮袋が握られ、左手は上着のポケットの中へ突っ込んでいる。
 普段はなるべく左手を隠すように歩くのがイグニスの癖だった。
 それは恐らくふいに触れた瞬間に、脳裏へそのモノの情報が転写されてしまうという事故を防ぐ意味合いもあった。
 単なる千里眼ではない。一つのサイコメトリーのような力も彼の左手には仕込まれていたのだ。
(…とりあえずは、どうするかな?噂の“シティ”へと行ってみようかな?)
 次の旅路は遠くに行こうとイグニスは計画していた。
 もうこの辺りでは自分は有名になりつつある。それだけは避けたい。
 有名になるほどロクなことがないのが、この世界の通説だからだ。
「………」
 これまでの経験からか、イグニスは先から背後をつける怪しい影に気づいていた。
 市場を出る頃からずっとつけてくる気配がある。
 一定の距離を保っているものの、それはずっと自分を監視していた。
 イグニスは無意識に狭い路地へと飛び込んだ。
 慌てて後を追いかけるかけ音を聞きながら、彼は狭い路地を駆け抜ける−
 3人。追いかけてくるのは、何やら宗教くさいローブを羽織った男女のペアだ。男二人は、
 チラリと振り向くと、自分を捉えるためか、拳銃のような物を懐から取り出すのが見えた。
(最近噂の集団か?まったく、俺に何の用だ?)
 軽快な動きで置いてあるドラムやゴミの間を駆け抜け、目の前の塀へと飛び移り、よじ登る−
「クソッ…!向こうに回れ!」
 3人組の一人の男が堪らず叫んだ。
 イグニスの予想以上の運動神経に、舌打ちすると三人組は分散して、彼の後を追う。
「ったく、これだから…!」
 “長居は嫌いなんだ!”と言葉に出さずに叫んで、イグニスは路地を駆ける−
 路地が終わり、裏通りへと飛び出した。
 そこは、表通りには違い、人気がなく閑散としているスラム街だった。
 この街でももっとも古い部分にあたる場所だ。
「クソッ…!」
 ビルの向こうから男の一人が、さらに反対側にももう一人、飛び出してきた。
 イグニスは、迷わず通りの中ほどへと飛び出した。
 そこは何もなく、銃撃されるリスクがあったが、もはやそんなことに気を取られているほど、彼の体力に余裕はなかった。
「−!?」
 ふいに一つの大きな影が、自分の背後から頭上を飛び越え、それは、地響きと共にイグニスの目の前へと降り立った。
 すぐに先の三人組の一人の女性で、それが戦闘用のパワードスーツを着ているのだと彼は理解した。
「…おいおい、なんでそんなもの持っているんだよ」
 無言で大きな対物ライフルを突き付ける目の前の鋼の女兵士に、堪らず苦笑いを浮かべる。
「イグニス・ロード・セリングだな?」
 背後に男二人が迫る。完全に囲まれた。
「我々のことは知っているな?一緒に来てもらおうか?」
 男の一人が銃を突きつけ、イグニスにそう告げる。
「…嫌だと言ったら?」
『貴方に拒否権はない』
 パワードスーツが持つライフルのロックが外れた音がした。ヘタに動けば、刹那で肉挽きになる。
「そうだな、どうしようかな…?」
 頭をフル回転させ、機会を窺う。幸いにも右腕の袖にはこういうときのための閃光弾が忍ばせてある。大概はこれで逃げ切れる。これまでがそうだったように−
「右手にいつも何かを仕込んでいるのも知っているぞ」
 その言葉でイグニスは、逃げることを考えるのをやめた。完全に彼らに自分の行動パターンを読まれている。
「見透かされているか、困っt−」
 と、いいかけてイグニスは、何かに気づきとっさに伏せた−
『グga−!?』
 刹那、正面にいたパワードスーツが激しい打撃音を上げて、大きく弾け飛んだ−
「なっ!?狙撃−」
 男二人が気付いた時には、何もかも遅かった。
 彼らが振り返るまでの数秒。一人の腕が無くなり、そして、頭がなくなり…
「クソッ−」
 とっさにイグニスを忘れ、己の身の防衛のため、建物へと走ったその者の背後から無慈悲な銃弾が襲いかかり、車に惹かれたように弾け飛んで、男は絶命した。
「………」
 一瞬の出来事にイグニスは言葉を失った。
 ただ、背後からこれまで感じたことのない殺気じみた空気が近づいてくる。
 恐る恐る身を起こし、振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。
背は自分よりも高く、スラリとしている。そして、何かが宿った青い眼と白く後ろで束ねられた長髪が妙に美しく感じる。
「大丈夫か?」
 低く落ち着いた声で、その者はイグニスに手を差し伸べる。
「アンタは一体…?」
 その手を取り、イグニスは立ち上がる。
「通りすがりの執事だ」
 そう告げ、身の丈はある大きなライフルを肩に担ぐ。その銃口からはまだ煙が上がっていた。
「イグニス・ロード・セリング。お前に依頼したいことがある−」
 イグニスは、その者が何者であるか、その者が名乗らずとも確信した。
 リューク・ライゼス。この街最強の兵士であり、守護神。
 そして、思った。“厄日だ−”と。

1.終

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