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未完成骨董品
読み切り短編試作品

『空想科学組曲』(仮称)


 それはいつの時からだったのか?
 南極の空に突如開いたその亜空間から飛来した異形生命体の侵攻により、人類は脅威に晒されていた。
 人類史にある数々の伝承や神話へ登場する怪物や生物に似たソレらは、『ファンタ
ズマ』と呼ばれ、科学兵器による物理的ダメージを与えることができない。
 人間の肉体や精神を浸食し、実体化する未知の化け物を前に、人類は抵抗空しくその数を半分まで減らしていく。
 そんな中、『ファンタズマ』でありながら、反旗を翻し、人間の味方をする者たちが現れた。
 『ファントム』と名乗るその者たちは、人類に未知の技術を与え、抵抗する手段を得た人類はその戦況を膠着状態まで巻き返す。
 そして、最初の戦いよりおよそ80年の月日が経っていた。

 日本。
 とある都市圏。
 海沿いに造られた新興都市『新風成都』
 海に面した傾斜に沿って造られた鮮やかなビル群と昔ながらの歴史溢れる建造物が融合する新都市。
 時は春。
時刻は朝。
慌しく目覚める街の営みの中、一台の自転車が駆け抜ける。
走破性に優れたスピードが出るタイプ。カーボンでできたフレームにショックアブソーバー、大口径のタイヤ。
それにヘルメットとサングラス、そして…、スーツならぬ学生服。
日光を浴びながら、思う。“なつかしい”と。
 バイクとも劣らぬスピードのまま、一つカーブを曲がる。
 そのまま車通りのある表通りから、古い町並みがある商店街へと入る。
 歩く人の間を颯爽と駆け抜け、目的地へ続くカーブを一つ曲がる。
 その先に、馴染みの花屋の姿を見つけた。
 相変わらず、不器用そうな店主。自分と10ほど年上の女性。その華奢な手一杯に発砲スチロールが積まれていた。
「あっ…!」
 彼女の足元がつまづく。刹那、崩れたその発砲スチロール箱が無数走行ライン上へと散らばった。
 此方に気づき、慌てて「危ない、避けて」と叫ぶ店主。
 少年はスピードを落さない。
 箱が自転車と当ると思った次の瞬間、自転車はその直前にあった台形の縁石に乗り、大きく宙へと飛びあがった。
 そして、そのまま大きく宙を一回転。
 何事もなかったかのようにそのまま着地を決めると少年は、目的地である市立成都学院へと向かった。

 内閣府公安特務9課。
 近年日本国内で発生するファントム関連の事件に対応するため造られた機関。
 その権限は警視庁よりも強く、内閣直轄の管理機関であり、現世界において、対ファンタズマ用対抗手段である『幻装機兵』システムを確立した所でもある。
 その関係施設がこの街に設立されていることをほとんどの人はしらない。
 むしろ、この街自体が日本国にとっての最高機密であるその組織を守る仮初だ。
「一同、敬礼ッ!」
 威厳ある隊長の声と共に、特製の戦闘服に身を包んだ9人の隊員たちは、目の前に現れた司令官に礼をした。
 対ファンタズマ特殊部隊−通称“D.P.F.”
 どこかのSF映画よろしく大きな機銃を肩からかけたその者たちの中に、どこか初々しい女性隊員が居た。
 村雨 真。
 今日からこの特殊部隊に配属になった女性である。
(いよいよ、か…)
 緊張と不安が入り混じった表情を浮かべながら、真は司令官である如月 真人の言葉に耳を傾けていた。
「―諸君。兼ねてより我が機関で研究開発を進めていた対ファンタズマ用幻装機兵『ファントム・フォックス』が東京研究所より搬入される。このシステムは近年突発的に発生するファンタズマに対処するため、我が国が開発したものの一つである」
 如月司令の背面、大型スクリーンに映し出されるソレは、イメージしていたものではなく、きれいな白い刃に白弧を模した装飾がなされた刀と篭手であった。
「80年前の戦いの時、ファントムと呼ばれ、人類を壊滅の危機から救いあげた戦士達。その一人の姿を幻装機兵として再現したのがこの武器だ。だが、今現在適応できる人間は現れていない。それどころか、最近この『フォックス』を狙い、ファンタズマの尖兵が相次いで襲撃を繰り返している」
 “君達には、目的地であるこの支部への道中、その護衛を担ってもらいたい”
  司令の言葉を胸に、真は仲間と共に車へと乗り込んだ。
  目的地は新風成都の郊外にある空港入り口である。

 私立成都学院。
 市内にいくつかある学校群の中で、比較的良心的な学費として知られる学校である。
 しかし、そんな学校が一際賑やかになっていた。
 ドイツからの帰国子女で、とある企業の御子息で、格好の良い男子が転入してくるらしい。
 そんなまことしやかにどこからか漏れた話が、大きく話題を呼び、現れたその者に皆は興味の目をむけていた。
「…へぇ、転校生ねぇ」
 話題の転校生を見に、その者がいるクラスへと駆ける女子を見て、ニタリとその者は口元でほほ笑むと、寝転がっていた机の上から体を起こし、教室を出た。
「どれ…」
 決して粗製の良い者ではないことは周囲に知れ渡っていた。
 日比野 翔一。
 この成都学院においてもっとも成績の悪い生徒であり、いわゆる不良という部類に入る。
「一つ顔でも拝みにいこうかね…」
 小さくつぶやくと翔一はその者がいるクラスへと歩を進めた。
 その者は、三つ隣のクラスにいる。
 集まった人盛りの賑やかなけん騒が彼の姿を見ると、途端に静まり、彼を歩む道を遮る者は誰ひとりいない。
 真直ぐに、教室の入り口からその者がいる机まで、一直線に道が開けた。
 話題の転校生であるその者―天乃 駈龍(くりゅう)は、このクラスの委員長であり、風紀委員長でもある烏丸 千鶴のレクチャーを受けていた。
 一つ一つ千鶴の言うことを確認しながら、穏やかな顔で会話している。
 それを見て、翔一はやや乱暴に教室へと踏み入れた。
「…あっ、翔一」
 彼の姿に気づいた千鶴を退け、翔一は、机に座る駈龍の前に立ち、鋭い目付きで彼を見下ろした。
 それに対して、駈龍も先ほどの穏やかな表情から一転し、『何者だ?』と言わんばかりに、鋭い目付きで睨み返す。
「ちょ、ちょっと、翔一。どういう―」
 一触即発の空気に慌てて、仲裁しようと千鶴が言葉を発した刹那、翔一がその拳を造り、振り下ろした。
 次の瞬間、“パァンッ!”と乾いた音を起て、辺りが静まり返る。
 翔一は笑った。同じく駈龍も笑う。
 顔に向けて放った一撃は、駈龍の右手に受け止められていた。
「よう、久しぶりだな?ダチ公」
 そうなることを予期していたのか、翔一は嬉しげに笑うと受け止められた拳を解いた。
「お前こそ…。俺を誰だと思っている?俺は―」
 椅子から立ち上がり、駈龍は窓の空を見る。
「天を駆ける龍になる男だ」
 そして、自信と強さに満ちた目で空を見上げた。

 3台の銀色のハマーが、空港からの帰路、都市高速を駆け抜ける。
 その中央の車両、助手席に座る真は幾分馴れて来たものの、未だに馴れぬ空気に顔は固かった。
「よぅ、真。まだ緊張しているのか?」
 それに気づいたのか、車を走らせる彼女の先輩、瀧村 涼は、“リラックスだ、リラックス”と軽い口調で話しかけて来た。
 軽やかなハンドルさばきで、車の通りが多い都市高速の合間を他の隊員が駆る車に後れを取らないように進めていく。
「先輩は訓練の時から緊張感がなさすぎです。隊長もなんか言ってください!」
 むぅと顔を曇らせ、後ろの席に座る隊長こと、ウィルヘルムへ助けを求めた。
後ろのその席で、大柄で揃えられた短髪を持つその男は、ギターケースの大きさの特性ケースを膝に乗せ、軽く鼻で笑った。
「真。父親の指揮するこの部隊に入ったからって、変に肩を張る必要はない」
 そして、落ち着いた口調で言い聞かせるように、“訓練の時と同じように、やるべきことを、キチンとやればいい”と続けた。
「そうは言われても…、今回は突発的にファンタズマが具象化し、発生しているではないですか。なんていうか…、先から嫌な感覚が収まらないのですよ」
 それは、真の小さい頃の癖だった。何か善からぬことが身の周りで起こる前兆として、第六感としてなのか、心が揺さぶられるような感覚に襲われるのだ。
「まったく、オレはそういう信憑じみたモンは信じないけどよぉ。隊長、確かに今回の任務。なんか匂いません?」
 チラリとルームミラーごしに、涼はウィルヘルムを見た。
「報告書をさらさらとですが、目ぇ通したんですけど。なんというか、状況が最初から筒抜けになっているような、そんな気がするんですよねぇ」
 その問いかけに、ウィルヘルムは“俺もそう思う”と答えた―その刹那。
 轟音と共に、突如前方を走る複数の車が大きく跳ね飛ばされた。
「うおッ!?」
 急ブレーキをかけ、車を停止させる。彼らの前後にいた同僚の車両も同じように停車する。
 再び起きる轟音。それは突発的、瞬間的な、大きなつむじ風だった。
「ファンタズマか!?クッ、戦闘態勢!」
 螺旋を描き捲きあがる風に、彼らの攻撃の特徴である虹を見たウィルは無線機を取り、一斉に仲間へ指示を出した。
 ハマーから飛び出し、銃を構え、陣形を取る隊員たち。
 都市部の道路上ということもあってか、辺りは騒然としている。
「真、俺の側から放れるな!奴らは、心の弱い奴から狙ってくるぞ!」
 対ファンタズマ様に回収されたライフル銃のセーフティを解除しながら、涼は真に告げた。
「ぇ?はい!」
 ヘルメットにつけられた認知用バイザーを下ろす。
ファンタズマは、この世界とは違う次元に生きている生命体とされている。そのため、この世界の“視界”では彼らの姿を認識することができない。
このバイザーは、相手方の次元に合わせた、いわば相手を認知するための“目”をしている。
小銃を構え、二人は辺りを見回す。
 そして、真は自身より左前方の、横転した車の上に、不気味な影を見つけた。
『kkleeeee………』
 耳に、確実に、この世の物ならぬ化物の声が響く。全部で3体。
 グニャリ、グニャリ、と虹色の化物が紅い眼光でこちらを見下ろしていた。
「真!撃てぇ!!」
 涼の言葉よりも早く、彼はライフルを撃っていた。間髪いれず、周りの仲間たちもその化物に一斉に専用の銃弾を喰らわせる。
 刹那、反応が遅れ、逃げ遅れた1体が、バリンバリンとガラスの割れるような音を立てて、崩れさる。
残る2体、大きく宙を飛んだ2体の内、一体は二人の前方に陣取っていた隊員3人の背後に着地した。
「真、カバーしろ!」
 涼の指示よりも早く、化物が一瞬で隊員3人を切り裂く。彼らに触れられた3人は、その切り口から瞬く間に砂化し、形状崩壊した。
「ヒッィ!?うわぁぁぁぁぁぁッッッ………!!!」
 恐怖と怒りに駆られ、真の銃を唸ったのは、その直後。真の声に振り返った透明な化物が、ハチの巣になる。
「―や、やった!?」
 ガラスのように割れ、砕けていく化物を見て、真は思わず声を上げる。
「隊長!!」
 銃声と共に涼が叫ぶ。状況はより深刻だった。
 真が振り返ると、眼前には首を掴まれ、持ちあげられたウィルヘルム隊長の姿があった。
「真ッ!」
 最後のあがきなのか、ウィルヘルムは持っていた特性アタッシュケースを二人の足元に乱暴に投げつけた。
「い…ケッ!俺が、やられる前に―」
 首から透明な化物がウィルヘルムの体を浸食していく。それはまるでアメーバが別の細胞を浸食しているように見えた。
 その光景に茫然する真の手を、涼は掴んだ。
「真、逃げるぞ!」
 その声に彼女は我に帰ると、反射的に足元のケースを手に取った。
「でも、先輩、隊長が!!」
「奴らの具象化の土台にされた人間はもう元にもどらねぇ!!」
 彼の言葉と共に、化物が実体化する。ウィルヘルムの体を元に、形成されたそのシルエットは、まるでミノタウロスのようだった。
「UGAaaaaaaaaaa!!!」
 獣の様な雄叫びを上げ、その化物は大きな拳を振り下ろす。
 巨大な拳がアスファルトを容易に砕き、都市高速の道路が崩落を始めた。
「やべぇ、逃げるぞ!」
 涼に手を引かれ、真は走る。背後に迫る化物と道路の崩落。為すすべくなく、生き残った二人は前方に止まっていた一台の乗用車に乗り込むと乱暴に車を発進させた。
「とにかく本部まで逃げる!おい、真!本部へ入電しろ!非常事態だってな!!」
 ハンドルを握る涼は、そう指示を出す。だが、真は返事しない。
 見ると彼女は震えていた。初めての事だからか、それとも人がこうもたやすく死んで、化物になってしまうのを見たのがショックだったのか、震えていた。
「真!しっかりしろ!」
 片手で真の肩を揺らし、チラリとサイドミラーを見る。
 化物が、その人間ばなれした脚力で走り、追ってきている。目的はあくまで、このケースの中身のようだ。
「クソッ!」
 彼女の肩にかけてあった通信機を乱暴に奪い取ると、車の進路を変え、都市高速から降りた。
『本部、聞こえるか!?緊急事態だ!』
 そして、通信機のスイッチを入れると同時に彼は叫んだ。

 たまたまなのか、学年度の始めである今日は、昼過ぎには下校時間となっていた。
 駈龍にとってはわずかな間であるが、久々の日本の学校や久々に帰ってきたこの街の様子を見て回るには十分だった。
「―まさか、あの悪ガキ坊主が、天乃財閥の跡取りで、こんな普通の学校に入るなんてなぁ」
 放課後、馴染みのある道を3人で歩む。
 駈龍は乗ってきたロードバイクを牽きながら、幼馴染の翔一は笑った。
 小学校の、わずか3年ほど。駈龍と翔一は共に過ごした。その頃は当然というべきか、この地域の悪ガキというレッテルを張られるほど、悪行の限りを尽くした。
 とは、言っても本人達にとっては義賊のような行動をしているにすぎなかったが…
「翔一ももっと早く私に言ってほしかったなぁ。天乃君が翔一の親友だなんて、全然今でも信じられないだけど」
 駈龍を挟むように、千鶴は肩透かしを食らったような顔でそう告げる。
「別に言う必要なかったら、言わなかっただけだよ」
“それにお前お節介だからな”と言葉を濁しながら、翔一は答えた。
 それを聞いて、千鶴も“何それ”と頬を膨らませ、クドクドと説教を始める。
  掌をぷらぷらさせ、“聞きあきた”というジェスチャーをしながら、翔一は足早に歩いていく。
翔一と千鶴は幼馴染だという。幼いころから転校が多かった駈龍には少しばかり羨ましく思えた。
「おい、二人とも―」
 “待ってくれ”と言おうとした時、彼の第六感が何かを諭した。
『来るぞ』
 自分の中の内なる声からの警告。それと寸分狂わず、タイヤのスキール音をさせ、一台の車が交差点から現れた。
 けたたましくホーンを鳴らしながら、目の前の車、対向車の向かってくる車の間を蛇行で切り抜け、駆けていく。―が、
『GAaaaaAaaaaa―………!!』
 けたたましい叫び声と突如空から大柄の化物がその車の目の前に降り立ち、地面を殴り付けた。
 その凄まじい衝撃で大きく隆起したアスファルトに巻き込まれ、その車と周囲の車が横転し、周囲の建物が揺れ、亀裂が入る。
「な、なんだぁ!?事件か!?」
 翔一と千鶴が突然の出来事に戦慄する。何もない日常が突如として映画のワンシーンのような場面に変わった。
「何よ、アレ…」
 千鶴の言葉通り、事故現場から見たこと見ない化物のシルエットが現れ、辺りは騒然となる。
 ファンタズマ。この日本において、彼らの存在が、一般市民に知らされることはほとんどなかった。
正確には、国による報道規制があり、内部で動く特務9課の存在が大きい。
また、ファンタズマによる襲撃がテロ事件のように、突発的かつランダムに発生していることもそれを助長していたのだ。
「…おい、駈龍の奴、何所行った?」
 辺りが突然の出来事に騒然とする中、翔一は彼の姿を見失っていた。

「真、しっかりしろ!」
「は、はい!」
 強力な打撃により宙へと吹き飛び、大破した車から二人は這い出るように脱出した。
 そこはまるで戦場だった。整えられたきれいな市街地が、一瞬でガレキと炎と血の匂いのする場所へと変わる。
「ぎゃぁぁぁぁ……!」
 断末魔の叫び声が聞こえる。二人がそちらを見ると化物が、二人の男女を頭部から鋭利に伸びた角で突き上げ、喰らっていた。
 生命力を奪われた二人の人間が瞬く間に砂塵と衣服だけとなる。
「野郎ッ…!!」
 涼が歯を食いしばり、立ち上がろうとする。
「グッ!?」
 だが、足に激痛が走り立ち上がれない。見れば右足のブーツが血まみれになっていた。
「先輩!早く!」
 アタッシュケースを持った真が空いた左手で彼を立ち上がらせると肩を貸した。
“すまねぇ”と悔しさを滲ませながら、彼は真の肩を仮り、右足を引きずるようにして立ち上がるとライフルの銃口と共に化物を見る。
「uaaaa……」
 化物と目が合う。涼は条件反射的にライフルの引き金を引いた。しかし、ライフルは動かない。
「こんなときに!」
 化物がその歩を進め、こちらへ向かってくる。
 使い物にならないライフルを向け、後ずさりする二人。しかし、その距離はますます縮まっていく。
 絶体絶命というまさにその時だった―
「おい、ファンタズマ。こんな辺境までやってくるとはいい度胸だな」
 その威圧のある声と共に一陣の風が吹いた。
 ファンタズマ、真と涼がその声がする方を見ると、一人の少年がブレザーの前を開け、ラフな井出達で化物を睨みつけていた。
 それは、翔一らの前から姿をくらませた天野 駈龍その人であった。
「長く続いたヨーロッパ戦線から引き揚げて、しばしの休暇を楽しむ予定だったけど…」
 彼は右腕を大きく広げ、何かを呼び出すような仕草をした。
「それは今この瞬間、取り消しだ」
 刹那、それに呼応するように空間がプラズマを発しながら歪み、やがて、収束して彼の手中へ一本のハルバードが現れる。
 白銀の、その長い柄に竜の装飾が施され、機械錬成されたポールウェポン。
「あれは…!まさか、アイツ―」
 涼にはそれが何なのか、瞬時に理解できた。
「Ugguu…、キ…サマ―。ウラ―ギ…者の―」
 ファンタズマ・ミノタウロスも片言の言葉を漏らしながら、少年から発せられる気配の正体を知った。
「知っているか?ファンタズマでありながら、人間を愛する奴らがいたこと。人を愛し、人と融合した彼らは、ファントムと呼ばれていることを」
 落ち着いた口調、しかし、周囲を威圧するその気迫。彼の顔や両手に、幾何学的な模様が刺青のように走り、その瞳が一瞬で獣のような紅き瞳へと変わる。もはや、彼がただの少年ではないことは明確だった。
「俺の名は、天乃 駈龍。またの名を、ファントム・ドラグーン。幻想の一つ。天駆ける龍となる男だ!」
 刹那、ハルバードが大きく光を放つ。
『変・身(クロス・ドライブ)!!』
 バルバードを持つ右手から全身へ、彼の姿が変化していく。その手は鋼鉄の手甲を身にまとい、足は龍のごとき爪を持ち、その胸部から背を形成する防具は黒く、その黒髪は長く伸び、蒼く彩られ、それを龍の頭部を模したヘッドセットが束ねる。
 黒と白に彩られた機械装甲を持つ龍人へ―
 少年は内に眠るファントムと交叉し、姿を変えた。
「Gaaa…!!」
「…行くぞ。三流」
 ドンッと強く地面を蹴り、両者は跳び出す。
 先に攻撃を仕掛けたのは、ファンタズマ。ヘッドの大きな角を突き出し、特攻してきた。
 その動きを最初から分かっていたのか、ドラグーンは直前で素早く左へ反らし、ハルバードの長い柄を使い、特攻してきた敵の足を引っ掛け、その巨体をひっくりかえした。
「ハッ!」
 追撃と言わんばかりに空いた左手に拳を造り、仰向けに倒れた敵の溝内へ打撃を加える。
 だが、直前でミノタウノスは体を回転させその拳からすり抜け、立ち上がると、間合いをとった。
 そして、その強力な突進力で反撃の拳を大きく振り下ろす。
「………ッ」
 休むなく連続で振り出される拳。実体化の際、元にした人間の癖なのか、軍隊式の格闘術だ。
 拳を避けるだけでは交わしきれないと悟ったドラグーンは、大きく後ろへ飛んだ。
「接近戦じゃ、長物は邪魔だ」
そう告げ、ハルバードを地面に突き刺す。そして、静かに息を吸うと、
「ウォームアップはOKか?来い…」
 空手のように身構えた。
「UGAAAAA!!!」
 再びのミノタウロスの特攻。最初よりも早い。ドラグーンもやや遅れて大きく一歩踏み込んだ。そして―
「ハァッ!!」
 彼のキレのある声と共に空気が震えるような音が轟いた。
「GAaaaaaa……!?」
 しばしの沈黙の後、叫び声と共にミノタウロスが虹色の液体を額から噴きながらよろめく。
「たった一撃で、形勢を逆転させやがった…」
 涼は目の前の戦士が持つ力を見て、驚いていた。対ファンタズマ部隊に従属する各国の者達の間で語り継がれる生きる伝説。ファントム。
 一騎当千の力を持つというその戦士が目の前にいる。そのことが彼には信じられなかった。
 驚愕する涼の隣で、真は焦っていた。それは彼にそのファンタズマが、仲間であることを伝えなければ、と思っていたからだ。
 ドラグーンは、敵の頭を殴り付けた右手をスナップさせ、感覚を確かめると、止めを刺すべく、ゆっくりと眼前の相手へ歩み始めた。
「やめてください!」
 それを見た真は、堰が切れたように叫んだ。
「その人は―、私たちの隊長なんです!」
 真の言葉はドラグーンに届いているのだろうか?
 彼は歩むのをやめない。そして、先ほど地面に突き刺したハルバードを右手で引き抜くと、
「…一つ言っておく。アレはファンタズマだ」
 真の方を見ることなく、それを大きく頭上で回転させ、武術のように構えた。
「それを倒す為に、俺はいる」
その先の白銀に彩られたオリハルコンの刃が、ダメージで怯む敵を指す。
「Engage!」
 彼の掛け声と共に、彼の体より体内で練り上げられた力によって、彼の背に薄らと龍のような翼が浮かび、そして、その手に構えるハルバードへと注入される。
 対ファンタズマ用殲滅兵器として、ハルバードは目覚める。一本の大きな槍へと変わったのだ。
『Lightning-strike』
ハルバードが主へそう告げる。それと同時に彼は一本の雷鳴のごとく飛び出した。
「ハアァッ!!」
 激しく迸る閃光と熱風。殲滅の雷鳴が轟いた瞬間であった。

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13/08/21 22:01更新 / F.S.S.

■作者メッセージ
はい、どうも。f.s.s.です。今日は小文字です(ェ
お盆休みいかか過ごされました?私はお仕事でほとんど1日くらいしかなかったですが…、代わりに実家の古いPCより、作りかけのモノがでてきましたので、気分転換がてら書き直してみました。(実はAC5小説の方がちょっとスランプ気味&ACVDが出るのでその要素も入れ込みしようかと画策中なのよ。ごめんなさい)
いや、当時大学生入ったばっかりで遊びまくっていた時期なのか、はたまた小説書き始めた時期だったからか、むちゃくちゃな設定ばっかり…(;w;
今もですが、当時からヒーローもん(ちょっとダーク要素ある奴)とか、好きだったんで、こんなのも一度書いてみたいという要求があったんですよね〜
なんでか勢いだけでよくまぁ、ラフだけど書いたもんで…
ちなみに…ACVDが出て、私がプレーし、情報が出そろうまで時間があるので、皆さんの反応じたいでは、未完の後半部分も補填して作ろうかと考えています。まぁ、こんな突貫工事モンの作品ですが夏の終わり、暇つぶしがてら一度目を通していただけると幸いです。
それでは、また

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まろやか投稿小説 Ver1.50