連載小説
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13.『終焉/破壊の牙』
※初めに
本作品は、アーマード・コアXを元にした二次創作作品です。
原作にはない設定、用語、単語が登場する他、筆者のフロム脳で独自解釈した世界観の見解が含まれています。


ARMORED CORE X
Spirit of Salvation

13.『終焉/破壊の牙』


 戦闘開始からどれだけの時間が経っただろうか?
 島は、もはやただの機械要塞と化していた。
 その景観は、機械の大地と化し、次々と無尽蔵に異形の兵器たちが生み出されていく。
 島の面積の8割を浸食し、それでいて、未だその進行は止まらない。
 傷ついた機械をその部位から浸食するソレらから逃げるため、機械の化物とグローリー・スターと戦いながら、この島の表港まで退避した。
 暴走する浸食機械が島全てを呑みこみ、溢れだすのも時間の問題だった。
 イグニスはふとエリーゼの事が気になった。
 アルトセーレに連れ出され、ティオやノルンらの話では、今現在彼女は奴らの軍勢に捕らわれているという。
 その軍勢の長―“スモークマン”
 この男は、人を人として見ない男だ。人としての何かが欠如しているのかもしれない。
 だが、今はそれを深く考察し、議論する場ではない。
 眼前で繰り広げられる生と死の駆け引き。相手は玄人だ―

「スモークマンッ!!」
 飛んでくるライフル弾をソルジット・タイプTLは、グライド・ブーストとハイ・ブーストを連携で回避しながら特攻する。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ………!!」
 そして、勇ましい雄叫びと共に、怒涛の勢いでグローリー・スターへと迫る―
 振り上げた右腕のガトリングガンが唸る。無数の弾が火線を描き、地を叩き、火花を散らしながら多脚のACへ襲いかかった。
「フレアと同じタイプか…」
 ブースターを灯し、グローリー・スターは間合いを取るべく、その場から後ろへ飛ぶ。
 それよりも早くタイプTLのブレードがグローリー・スターを追いかけ、捕えた―が、それはグローリー・スター本体ではなく、その左手に握るライフルであった。
「甘いな、小僧」
 ニタリとスモークマンが笑う。
「!?」
 刹那、ジュンの駆るソルジット・タイプTLの両足を飛んできた機械のツタが捕えた。
「貴様の攻撃は、勢いだけの一直線だ。動きを見極めてしまえば…、どうということはない!!」
 そして、まるでスモークマンの意思を反映するかのように、その巨体を遠くへ放り投げた。
「ジュンさん!…!?」
 飛んでいくソルジットを見送って、イグニスは殺気を感じ取った。
 刹那、飛んできた弾丸が足元を複数叩く―
 狙撃。その計算尽くされた攻撃は、スモークマンの狙い通りファントムを空中へと飛翔させた。
「戦場に迷い込んだか、素人が―」
 ファントムをロックオンし、トリガーを引く。
 次の瞬間、肩のハッチから開き、KEミサイル UVF−15 JABALPURが複数飛び出し、ファントムへと集った―
「うわぁぁぁっ…!?」
 恐怖に一瞬怯む。
「ちくしょうぉぉぉ……!!」
 だが、自分を奮い立たせるかのように、イグニスは叫び、操縦桿を本能的に倒した。
 まるで風に揺られる操り人形のようではあるが、飛んでくるミサイルの束を引きつけ、それらの間をくぐり向ける。
「死んで!たまるかぁぁぁ……!!」
 そして、グライド・ブーストで一気に近距離まで距離を詰めると、武装をハンガーにつけていたバトルライフルに持ち替え、がむしゃらに連射した。
「ほぅ、面白いな…」
 だが、それはグローリー・スターをかすることなく、それらは全て優雅に交わされると、
「だが、それまでだ」
 ハイ・ブーストで至近距離までファントムとの距離を責め、その二つの前足を突き立てた―
 刹那、激しい金属のぶつかりあう音共に、ファントムはその装甲の破片をまき散らしながら、弾け飛ぶ。
 飛ばされた先は、先に機械のツタに飛ばされたソルジットの所であった。
「イグニス!大丈夫か?!」
「なんとか…」
 2体はわずかに残された自然の大地の上に立ち、見上げる。
「あと何分持ちこたえられるかな?二人とも…」
 支配下に置いた生体機械群と共に、2機を見下ろすグローリー・スター。
スモークマンは、余裕の笑みを浮かべ、自分より劣る2機をどう倒すか考えていた。
「ん?あれは…」
 ふと、そのモニターに見覚えのあるシルエットが映り込む。
「おい!?あれって―」
 ジュンとイグニスもモニターに映るその影に、思わず息を呑む。
 小さなそのシルエット―その正体は、先までアルトセーレといたはずのフィオナだった。
「お父さん!お母さん!」
 フィオナは薄汚れた格好になりながらも、ACの間に割って入り、化物へ呼びかけるように叫んだ。
「これ以上、この島をめちゃくちゃにするなら…、私がこれで!!」
 その震えながら上げられた両手には、見慣れぬ装飾品のような大柄の拳銃が二つ握られていた。
「何を無駄なこと―…何だと?」
 フィオナへ反応するように、生体機械群のその進行が、ピタリと時が止まったように停止する―

 “近くで、ワタシを呼ぶ声が聞こえる―”
 “あれから、どうなった?”
 アルトセーレの思考が復活する。“あれからどうなった?”
 “確か…”
 “麗しき女神”が眠る島の中枢部で、攻めて来たスモークマンと化物にされてしまったかつての『彼』に襲撃されて…
 亀裂に呑みこまれる直前、フィオナの体を押し出して―

『アルトセーレ』
 自分の名前を呼ぶ声に、アルトセーレは目を覚ました。
 自分の左手がガンホルダーのベルトを掴んでいることにすぐに気づいた。
 地面に走った亀裂に呑みこまれ、少なくとも数十メートルは落ちているはずだ。
 顔を上げ、落ちて来た方を見上げる。かなり遠くに墜ちたと思われる亀裂が小さく見える。その向こうには、狂う機械の化物達がわずかに見えた。
 自分は運よくその人工の竪穴らしきモノの途中、壊れた竪穴の支柱に偶然にもガンホルダーのベルトが引っ掛かり、地面まで2メートルのところで宙づりとなって、止まっていたのだ。
「アイツから強運をもらったかな…」
 ふとイグニスの事を思い出しながら、アルトセーレはその地面へと降り立った。
 薄暗がりの中、共に落ちたと思われるフィオナの姿を探す。どうやら地下にできた空洞のようだ。
「フィオナ様は…、一体どこだ?」
『アルトセーレ』
 見回すアルトセーレの耳にまたその声が響く。
「フィオナ様!?」
 その声が聞こえた方に彼女が歩き出そうとした―その途端。
 センサーが反応したのか、その空洞全体が明るくなる。
 いや、ライトは部屋全体を照らし出しているのではない。“その一点”を照らしていたのだ。
「これは…」
 アルトセーレの前には、まるで武者のような重厚な鉛色の外部装甲を纏った人型機体が跪いていた。
 大きさはACとほぼ同等。特機にしては小さいが、ACにしてはあまりにもゴテゴテしていた。
「旧世代の機動兵器の一種か?ならば…」
 搭乗口は開いている。ここを脱出する必要がある。
 アルトセーレは意を決し、それに乗り込んだ。
 ACと非常に似て、やや異なる操縦席。本来あるべきものがない、何かが足りないコクピットシステム。
「何だこれは…。機体は待機モードになっている?なんとか動くか?」
 それに戸惑いながらもコンソールをいくつか叩き、アルトセーレは機体を置きあがらせる。
「クッ…」
 各部が錆ついているのか、グレーの装甲を軋ませながらその機動兵器は立ちあがった。
「頼む!跳んでくれ!!」
 ブースターペダルを全開で踏む。
 咳込むように火を途切れ途切れになりながらも、その背に火を噴き、アルトセーレを乗せたそれはゆっくりと竪穴を上昇していく―
 やがて、それは部屋の床を突き破り、天井、施設内、そして、外へと飛び出した。
「これは…」
 目の前に広がる光景にアルトセーレは絶句する。
 かつての美しい自然はそこにはなかった。今目の前にあるのは、アメーバのように四方八方へ伸びていく生体機械の大木だった。
 まだその浸食が及んでいないかつての表港、その境界線に、跪く2体のACとそれを見下ろすスモークマンのACグローリー・スター、それに見覚えのある2丁拳銃をACへ向けるフィオナの姿があった。
「フィオナ様!!」
 アルトセーレは慣れぬ機体に苛立ちをぶつけるように、ブースターを乱暴に点火した。

 スモークマンは目の前の幼き少女の行動を理解できずにいた。
 それはあまりにも滑稽過ぎて、あまりにも愚かで、あまりにも惨めな行動に見えた。
 もはや価値のない力なき者が、おもちゃのような拳銃を2丁こちらへ向けて睨んでいる。
 自分の背後には、巨大な大木と化した生体機動兵器エンデュミオンがある。
 叫び一つでその浸食を止めたこの少女は『R』の関係者か―
「ふん、バカバカしい」
 スモークマンの独白を皮切りに、機械の自然浸食が再開される。
「お嬢ちゃん、独りで何ができる?」
 外部スピーカーを通してスモークマンは笑いをこらえるように、眉間にしわをよせながらフィオナに訊いた。
「私は独りじゃない。…私には心強い味方がいる!だから…!貴方にこの島は渡さないわ!!」
「何?」
 強くそう言い放った少女の言葉が、スモークマンの気を逆撫でした。
 その眼は、自分を裏切ったあの『R』と同じ瞳をしている。
「…そうか、そういうことか。お前が、あの男の一人娘か」
 スモークマンが愛機を動かす。
「あの野郎!」
「フィオナちゃんをどうするつもりだ!?」
 それに反応するようにファントムとタイプTLを跳び出した。
 だが、行く手を遮るように生み出されたウミヘビのような戦闘機械が行く手を遮る。
 “そこでみていろ”と戦う2機を横目で流し見て、スモークマンは眼前の弱い存在を見下ろす。
「ヒッ―」
 フィオナは眼前に立つ巨大な敵に強い恐怖を覚えた。
 その側でエンデュミオンの末端である機械のツタが先ほど斬りつけられ、壊れたそのライフルを修復し、グローリー・スターはそれを掴み取る。
「お前のような存在は生かせてはおけん。私の計画を邪魔するようなイレギュラーは抹殺する―」
 対人に使うにはあまりにも高威力なそれをスモークマンは幼き少女に向けた。
(アルトセーレ…!)
 黒き銃口が鈍く光る。そして、その引き金に指掛かかり、一つの銃声が届いた
 だが、それはフィオナへ当たることはなかった。
 銃声の直前に現れた灰色のシルエットの体当たりによって、グローリー・スターは大きく跳ね飛ばされ、その跳躍した弾道はフィオナのはるか向こうの地面を叩いた。
「アルトセーレ!」
 自分の前を滑空しながら着地する灰色の装甲の巨人を見上げて、フィオナは涙を浮かべながら歓喜の声をあげる。
 彼女の近くへ降り立ったソレは、システムエラーを起こして自身を跪かせ、コクピットハッチを開く。
「フィオナ様!」
『アルトセーレ!!貴様、またしても育て親である私にたて突くか!?』
 大きく跳ね飛ばされたグローリー・スターも起き上がり、突如現れた相手を睨みつけた。
 衝撃で変形した機体の右上腕を機械の化物で補修させながら、スモークマンは怨めしく声を荒げた。
「ならばお前がどれほど無能な者か、教えてやろう!」
 彼の叫びと同時に修理を終えたグローリー・スターが動き、狙いをつけた。
 ロックオン・カーソルが捕えるは、灰色の機動兵器に向かって駆けていく小さな人影―
「フィオナ様!!」
 コクピットに響く警告。
 アルトセーレは焦り、大きく手を伸ばす。

“アルトセーレが来てくれた!”
 フィオナは嬉しさで涙を流していた。彼女は思いだしていた。
 昔、彼女と初めて出会った時と同じ、だと。
 幼き日、島を出たくなって、島の家から両親やセティアらに内緒で人気のない砂浜まで抜け出した。
 そこで、獰猛な野生動物に襲われて、危ないところを助けたのが、アルトセーレだった。
 それ以来、侍女として彼女が島の離れる一年前まで、ずっと共に過ごしてきた。
 専属の侍女以上の、友達とも言える、家族とも言える、そんな関係。
 まだ弱い自分があこがれるヒロインのような強い彼女。
 時間を得て、再び彼女は自分の元に戻ってきた。父も母も、そして、侍女達も亡くなった今、頼れるのは彼女だけだ。
 ふと体が浮く。
 背中が熱い…
 ”息が、できない…?”
 持っていた父親の形見が、突風で攫われる様に、その両手から放れ、宙を舞う―

 放たれる一発のミサイル。
 不規則な機動を描き、飛んでくるソレを視界に捕えながら、アルトセーレは息を呑んだ。
 ―爆発。
 不規則に機動を描いていたソレは、アルトセーレの視界の中で、少女の背面で地面へとぶつかり、大きな火炎と突風を生んだ。
 その火炎にフィオナの姿が呑みこまれ、爆風でアルトセーレは跳んできた地面の破片と共にコクピットへと押し戻され、そのハッチが再び閉まった。
「―ぁ…あ…あぁぁ……」
 震えながら右手を伸ばす。
 モニターが映す先、フィオナがいた場所は陥没し、ただのチリチリと炎を上げる荒れ地と化していた。
「フィオナ…様ぁ…―」
 開いた右手を強く血が出るくらい握りしめ、アルトセーレはガクッと力なく俯いた。
『まだだ!』
 ―と、突然機体が大きく浮き上がり、浸食した大地へ叩きつけられた。
『まだ戦闘中だぞ、アルトセーレ!!』
 疾風のごとくグローリー・スターがブースターを吹かし、跪く灰色の人型機体へ前足蹴りを喰らわせたのだ。
「貴様はこの私が直々に指導してやろう!―ムッ!?」
 倒れた灰色の機体を見て、スモークマンは目を疑う。
 その顔面に着けられていた灰色の仮面が衝撃で割れ、中から見覚えのあるシルエットが現れたのだ。
 メタリックの入った紅と汚れのない白で彩られたAC規格のパーツ。
 HD−223 RAIKOと呼ばれるモノアイの戦闘型ヘッドパーツだった。
『ウアァァァァァァァァァァァァァァッ―………!!!』
「ウッ…!?何だ、この威圧感は―」
 アルトセーレの咆哮と共にそのモノアイに強い光が灯る。仰向けで倒れていた“その機体”は、意思を持ったようにゆっくりと起き上がり、浸食した大地にしっかりと踏み立つ。
「バカな!?」
 あらゆるものを浸食し、生体機械に変えてしまうエンデュミオンの浸食作用が“その機体”に限っては一切行われなかった。

 コクピットの中。
 歯を食いしばり、嘆き、悲しみ、獣のごとく叫んだ。
 ―そして、悔やむ。
 悔やむ…
 悔やむ!悔やむ!悔やむ!悔やむ!悔やむ!悔やむ―
 ―悔やんでも、悔やみきれない!!
 ―守れなかったのだ。
 彼との約束を。
 彼の娘を。
 そして、この島も。
「―ワタシは…、なんて…なんて非力な人間だ…」
 ガクッと力なく項垂れ、悔し涙を流しながら、かすれる声でアルトセーレは自分を責めた。
“…そうだな”
“お前は昔からそうだったな…。不器用なのに、背伸びして、失敗する”
 耳元に聞こえたその声に、アルトセーレは顔を上げた。
“だけど、強くなろうと努力しているお前を、俺は知っている”
 そして、左肩の付近に、彼の気配を感じる。いや、この機体全てから彼を始めとする島の仲間たちの気配を感じ取れる。
“まだ全てが終わったわけじゃない。お前は誰だ…?”
 ふと足元に、フィオナが爆発に巻き込まれる直前、握っていた二つの大型拳銃が転がっているに気づいた。
「ワタシは…」
 そして、それをそれぞれ右手と左手で拾いあげ…
“内に眠る本来の自分を解放してやれ。この機体『ヴァンツァーファング』なら、お前の力を余すことなく体現してくれる”
 それを無意識にシートの両側にある挿入口へ差し込む。
「…私は、貴方の名を継ぐ者―リューク・ライゼス」
“頼んだぞ…、英雄…。お前が俺達の希望だ”
 その途端、左右二つの大型拳銃が操縦桿へと変形し、
「はい…」
連動して変形したコクピットシートが彼女の両手・両足を拘束した。

「この!亡霊がぁッ…!!」
 スモークマンにとって、その瞳はトラウマだった。
 彼の人生において最も屈辱を味わらされた男―『R』こと、リューク・ライゼス。
 その昔、仁徳に目覚めたその青年兵士は、それまで栄光の道を歩んできたスモークマンから全てを奪った。
「まだ死んでもなお!その意思で邪魔立てするか!?」
 グローリー・スターが変形する。3連バースト機能付きスナイパーキャノン USC−26 ITHACAを構え、それを躊躇することなく放った。
 激しい金属音と共に放たれた3発の弾丸が、灰色の機体の装甲を砕く―
「!?」
 だが、砕いたのは甲冑のような“装甲”のみ。その機体はよろめきながらも、なおしっかりと地面を踏みしめ、立っていた。
 そして、その甲冑な全身に亀裂を走らせ、装甲が砕ける。
 刹那、中から紅白で象られたACヴァンツァー・ファング(以下ファング)が現れた。
 UCR−10/L AGNI、KT−4S3−2 NARVA2、ULG−10/A DENALIで構成されたその機体が主へ告げる―
『セーフモード解除、パイロット認証完了。システムオールグリーン』
「…スモークマン。私はもう“アルトセーレ”じゃない」
『メインシステム。戦闘モード、機動します』
「アンタは…、今日ここで!リューク・ライゼスが墜とす!!」
 目覚めたファングが左右の腕をそれぞれ上下に振り上げ、足を開き、武術のように構えた。
 それはかつて自分が“2丁拳銃(トゥーハンド)”と呼ばれる由縁となった型(カタ)の構えだった。
 その両アームには、究極までにカスタマイズされた専用のハンドガン。
 右に、より破壊力のある銃弾を撃てるようにカスタムされた高火力型ハンドガン―OXEYE HG25改”レイヴンハント”。
 左に、より速い弾速と貫通力を持つ弾を撃てるようにカスタムされた3連バースト連射型ハンドガン―SOPHORA BHG 16−2改”クロウズハント”。
 それら2丁を構え、地を蹴り、ブーストダッシュ。
 ファングが背に蒼き火を点して、矢のごとく飛び出した。
「グッ…!」
 以前乗っていたソルジット・タイプTRよりも鋭い加速にリュークは一種戸惑う。しかし、そこに恐怖はない。安心して踏み込んでいける。
 矢のごとく、一直線に多脚のACへ立ち向かう。
「なめるな!小娘ェ!!」
 再び行われるスナイパーキャノンの速射。さらにショルダーのKEミサイルを3発放ち、瞬く間に弾幕を形成する。
 飛んでくる音速の弾の軌道が、手に取るように見える。
 3発の銃弾を右へと飛び、左肩をかすめるようにして交わすと、続いて飛んできたミサイルの一発目を左へドリフトターンしながら避け、2発目をOXEYE HG25改”レイヴンハント”で撃ち落とす。
 爆発するその2発目を抜いて、上から急速落下するように現れた3発目のミサイルをハイ・ブーストでくぐり向けるように回避し、さらに間合いを詰めていく―
「チッ!こしゃくな!」
 狙撃モードを解除し、後ろへ退避しながらグローリー・スターは左手のライフルをファングへ向けて、乱射した。
「行けるッ!踏み込める!」
 自分へ言い聞かせるように叫びながら、リュークはダイナミックに、そして、アグレッシブに機体を縦横無尽に動かす。
 飛んでくる弾を掠めるように回避しながら、時に機体の左手に握られているSOPHORA BHG 16−2改”クロウズハント”を放ち、銃弾を銃弾で相殺し、間合いをさらに詰めていく―
 それは、まるで銃弾と炸薬を共に、“舞い”を踊っているかのようだ。
 スモークマンはそれに、焦りを募らせた。
 狙撃手として、自身を頂点と信じていた彼にとって、目の前の光景は信じがたい光景だったからだ。
 “ドンッ”と爆発に近い音をたてた瞬く間に、敵機が眼前に迫る―
 刹那の電光石火。グライド・ブーストからのブースト・チャージ。
 華麗に跳びあがったファングの右足蹴りが炸裂する。
「―ッ!?バカな?!」
 コアを蹴られたグローリー・スターは、大きく上半身を仰け反らせる。肢体を繋ぐシャーシであるコアが大きく軋んだ。
 間髪いれず痛んだ装甲を砕くように、OXEYE HG25改”レイヴンハント”の銃口が火を噴き、グローリー・スターの頭部に風穴が空いた。
 そして、追撃と言わんばかりのゼロ距離での左回し蹴りによるブースト・チャージが入り、グローリー・スターはまるでボールのように大きく蹴り飛ばされた。
「バカな!?お前は…、私の知る2丁拳銃(トゥーハンド)ではないのか…!?」
 火花散り、亀裂の入ったコクピットのモニター。スモークマンは、息を荒げ、未だに目の前で起きていることを信じられない。
 なんとか起き上がらせた機体の数百メートル正面、忌々しい相手の銃を構える姿がモニターへ映る。
「おのれッ!!」
 ファングは左腕を一直線に伸ばし、SOPHORA BHG 16−2改”クロウズハント”を構えていた。
「リューク―――!!!」
 “終わりだ”
 リュークは小さく呟いた。その刹那、放たれた3発の弾丸が一直線にコアへ向かって飛んでいく。
 強度の落ちた装甲を射抜くには、それだけで十分だった。
 三つの火線を胸に受け、グローリー・スターの上半身が、電気を受けたように跳ねあがった。
 そして、ボンッと小さく炎を上げ、握っていたスナイパーキャノンとライフルを落とし、そのカメラアイから光が消える。
 まるで糸が切れた操り人形のように、その多脚の狙撃機は沈黙した。
 倒した相手を無言のまま冷たく見送り、リュークは機体と共に向きを変えた。
「リューク!」
 ジュンの力強い呼び声と共に、ジュンのソルジット・タイプTLとイグニスのファントムが飛んできた。
 グローリー・スターが倒れた事により、彼の統制下にあった防衛機械が停止していた。
「リューク…?お前、リュークだよな?」
「…あぁ。すまない、色々と二人には迷惑をかけた」
 ジュンの問いかけに、落ち着いたいつもの口調でリュークは答える。
「リューク…」
 イグニスは気まずそうに声をかけた。
「その…何だ…、アンタの昔の仲間は―」
「―知っている」
 短く、強く、静かに、リュークは答えた。
 その手は未だに無念で震えていた。
 しばしの沈黙が流れる。
 意を決し、イグニスが口を開こうとした時、ドクンッと彼の中で心臓が大きく高鳴り、何かが反応した。
「!?」
 ただならぬ気配を感じた3人が島の中心部を見上げる。
 空へ向け、伸びる巨大な機械の大木―エンデュミオン。その成長が…、歪に、まるで早送りのように、次々と行われていく。
 スモークマンという統制者がいなくなったことで、その機械の根本である増殖・生産作用に歯止めが利かなくなっていた。
「二人とも。先に島を出て、“開拓者の港”へ行ってくれ。私はこの事態を収拾する!」
 島の中心から空へと伸びる大木を見つめながらそう告げて、リュークはヴァンツァーファングを大きく跳びあがらせた。
 そして、背にブースターを灯し、一直線にその大木の麓へと向かっていく。
「リューク!俺も行く!」
 それに続くようにイグニスもファントムを飛ばす。
「お、おい!?リューク!イグニス!…まったく、先に行っているからな!」
 瞬く間に独りきりとなったジュンは、憤慨しながら二人を見送り、先に島を飛び出した。

 低空をグライド・ブーストで駆け抜ける。
 リュークの感覚との親和性が高まった新たな相棒は、主である彼が目指す所へとひたすら突き進む。
「リューク!!」
 名を呼ぶ声と共に横にファントムが並んだ。
「俺にも何か手伝わせてくれないか?こうなったのも、例のΔ“トリニティ”システムの一片が招いた結果だし…。俺もこの結末を見届けなければいけない気がするんだ!」
「イグニス…」
 必死の訴えを聞いて、リュークは少しだけ口元を緩ませ、小さく“すまない”とつぶやくと、
「ならば、エンデュミオンの内部へと突入する―。援護してくれ!」
 イグニスへ指示を飛ばした。それにイグニスは“まかせろ”と声を大きく答えると、ファングよりも先へと飛び出した。
 2機のACが飛ぶ先―、大木の麓にかつての中央管理棟施設の形跡が見え始めた。
 そこが内部への唯一の突破口だった。
 暴走するエンデュミオンの末端―かつての防衛機構が作動する。
 砲台らしきものを複数形成し、それらが一斉に砲弾を放ってきた。
「邪魔するな!!」
 フルスピードをまま、ファントムは正面を遮る砲台にライフルを連射した。
 そして、複数の砲台を破壊し、軌道を大きく空へと変える―
「今だ!行け!リューク!!」
 その掛け声とともにファントムの背後からヴァンツァーファングが現れる。間髪いれず、右足を振り上げる。
 わずかに見える施設の外壁へ向けて、グライド・ブーストからブースト・チャージを繰り出し、その外壁を轟音と共に射抜いた―
「中枢は…」
 中へと突入しファングはスキャンモードで周囲を見渡し、そして、上を見上げた。
 所々中途半端に浸食された建屋は、まるでかつての西洋の塔のように、円筒状に空へと伸びていた。
「上か…!」
 センサーに大きな熱源が映る。
ブースターを点火し、近くの壁へと飛び移る。
 壁から壁へ。次々と壁を蹴り、ファングは忍者のごとく上へと駆け上がる―
 やがて、跳びあがったその先、空から複数の木の柱のようなもので宙に浮いている大きなテーブル状の地面が現れた。
 そこへと降り立ったファングが見つめる先、そこに島を浸食する全ての中枢があった。
 あらゆる生命体の姿や顔が歪に浮き出た円筒状のモノ。かつての恩人と、その妻の歪んだなれの果て。
 そこに彼らの意思はない。あるのは、生物としての基本原理のみ。
『WERYUUUUUUU―………!!!』
 雄叫びを上げ、そこから琥珀色のレーザーが複数飛び出し、空中で軌道を変え、ファングへと襲いかかってきた。
「今、全てを終わらせる…!!」
 それらをブーストと華麗なステップで交わし、攻撃の合間を縫って狙いを、手に握った二丁のハンドガンを放つ―
 だが、放たれた弾丸は中枢に当たるも金属が跳ねるような音と共に弾かれてしまった。
「火力不足か!?」
 予想以上の装甲に、リュークは驚愕する。
 機体が激しく揺れる。火花が一瞬散る―
 紅白の機体を何本かのレーザーが焦がす。
「クソッ!」
 舌打ちし、大きく機体を後ろへと飛ばす。
(なんとかできないものか…)
 容赦なく飛んできたレーザーの追撃をハイ・ブーストで縦横無尽に避け、近くの木の柱の影へと機体を駆けこませ、リュークは気付いた。
「あれは…」
 それを見て、思わず言葉を漏らす。
 つい先まで居た場所。背後にある柱に一発のレーザーが当たり、表面が砕け内部が剥き出していた。
 それは、武器の収納ケースになっていた。そう、柱の正体は、施設に供えられていた武器庫の一部だったのだ。
 そして、その中にかつての『彼』が搭乗機に搭載していたAC用の武装“超高出力型レーザーライフル LR−81 KARASAWA”が収められていた。
「あれならば…!」
 両手の握っていたハンドガンを肩のハンガーユニットに収納し、次の瞬間ファングは隠れていた物陰から飛び出す。
 再び容赦なくレーザーの雨がファングへと降り注ぐ。
 それらを上下左右にトリッキーな機動で避けながら、ファングは割れた収納カプセルの元へと駆けつけた。
「これで…!」
 右手がガッシリとその大柄のレーザーライフルのグリップを握り、壁から引き抜く―
 それはまるで剣士が壁から聖剣を引き抜くような、そんな光景だった。
「悪夢は…!!」
 FCSが右手のソレを認識すると同時にエネルギー供給を開始する。
 LR−81 KARASAWAの銃口が青白く光が灯り、激しくスパークする。
 ファングは跳んでくる攻撃に耐えながら、左手で銃身を支えながら、銃口を中枢へと向けた。
「終わりだッ…!!!」
 トリガーを引く。凄まじい発射音と共に亜音速で雷光の矢は中枢の、かつての恩人二人の所へと飛んでいく。
“ありがとう”
“これで、俺たちの戦いは終わったよ”
 彼らの姿が光に消える直前、リュークの―、アルトセーレの耳元で二人の男女の声が聞こえた…そんな気がした。

 島が揺れる。
 浸食しきった島が崩壊を始める。
 浸食の一途をたどっていた機械群が突如内部から錆始め、砕けていく。
 それと共に浸食された元の大地も、跡形もなく消えて去っていく―
 イグニスはボロボロの機体で島を脱出すべく、グライド・ブーストで駆ける―
「クソッ…。結局、ここもかよ」
 顔を歪ませ、小さく独白する。彼の内心は、複雑だった。Δ“トリニティ”システムの一部を解析し、独自解釈した者達が出した結果がこの惨状だ。
 Δ“トリニティ”システムは、技術をブレイクスルーさせ、飛躍的に発展させる。
 ありえないことを、可能にする。
 しかし、その結果はΔ“トリニティ”システムは惨劇しか生み出さない。
 果たして、それに選ばれた自分は、何ができるのか?
「エリーゼ…!」
 進行方向を敵が陣形を取っていた島の側の海域へと向ける。
 “恐らく、そこにエリーゼがいるはず”
 そう、彼は知らなかったのだ。その艦船一団は既に海の藻屑と化していることに―。
「そんな―」
 宙に浮いたまま、イグニスは目の前に広がる光景に愕然とした。
 そこには、バラバラになった船の残骸と遺体が無数に広がっていた。
「エリーゼ!どこだ!?」
 機体の全てのセンサーをフルに動かし、彼女の姿を捜す。だが、見つからない。
「―ッ」
 その時、“ドクンッ”と彼の中でまた何かが反応した。
 強烈な威圧感。おぞましい気配。息が速くなる。頭の中に埋め込まれたチップが、イグニスに告げる。
 “システム『Lakhesis』の反応を確認”と。
 気配を感じ、機体と共に空を見上げる。そこには…
(黒いタイプ0…!?)
 漆黒と金で彩られたかつての搭乗機と同じ機体。真っ赤なモノアイが強烈な威圧感を放っていた。
 そして、その手には海水で濡れ、意識を失ったエリーゼの姿があった。
「エリーゼ!!」
 彼の呼び声でその機体が反応するように、彼女をその手に握ったまま、ファントムに背を向けた。
「おい、待てよ!彼女をどこへ連れて行くつもりだ!?」
 ライフルを向ける。次の瞬間、コンピュータが新たな敵機の反応を警告する。
『悪いが、邪魔はしないでほしい』
 その声に振り返った刹那、蒼く燃える閃光がファントムを駆け抜けた。
 刹那、ファントムのライフルが真っ二つに斬り裂かれ、爆発する―
「クソッ、何だ!?」
 爆発したライフルを手放し、イグニスは周囲を見回す。
 だが、周囲に彼らの姿はなかった。
「イグニス!」
 そこへ背に強い光を灯し、ヴァンツァーファングが舞い降りた。
「リューク?!」
「急げ!島が崩壊する!」
 彼の言葉と共に、辺りへ凄まじい地鳴りと轟音が轟いた。
 島が、その大地が割れ、海へと沈んでいく。ロスト・アイランドの基盤まで浸食が及んでいたのだ。
「リューク!今ここにACが居なかったか!?黒いタイプ0ともう一機―」
「今は“開拓者の港”まで行くぞ!話はそれからだ」
 イグニスの言葉を遮るようにリュークはそう告げると、街へと機体を向け、飛び立った。
 彼の言う通りだ。
 崩壊した大地が大きな津波を起こす。ここに居たら、何があるか分からない。
 イグニスは、何か胸に引っ掛かるものを感じながら、機体を飛ばし、ファングの跡を追った。



13.『終焉/破壊の牙』 終

13/07/05 21:59更新 / F.S.S.
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■作者メッセージ
どうも、F.S.S.です。
ロストアイランド編、最終話です。
いかがでしょうか?え〜、今回この編に登場したゲストキャラクターや新たな機体は、私が学生時代に書いていた過去作より引っ張ってきたものです。
そこに新たなテイストを加えて、書いてみました。
元々リューク・ライゼス=アルトセーレ・ブルーライネンという構図は過去作ないでもあったのですが、当時はまったくの別キャラ、【師弟関係】という間からでした。
しかし、本作を作るにあたり、4人の主要登場キャラそれぞれの深みを出すために、設定を変更。先の記述通りの同一人物となったわけです。まぁ、彼(?)にしたら、名前なんて意味のないものなのかもしれませんが…(w;
さて、次回からは新たな新編に入ります。
連れ去られてしまったエリーゼ。謎のACたち。謎の技術。Δ”トリニティ”システム。
キーワードは、月光です(ェ
それでは、また…。

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まろやか投稿小説 Ver1.50