日常と非日常
1996年7月、僕は彼女に出会った。
空は闇に包まれていて、辺りはしんと静かだった。
さっきまで見えていた月は今は雲に隠れて見えない。
時刻は0時をすぎたとこだろう。
街灯の光は点々としていて、自動販売機がぽつんと延々と光っている。
時折、何人かの人とすれ違うが、こんな時間まで何してたんだろうとか、話の内容は僕にはあまり興味が持てなかった。
僕の名前は榊原直夜。
さかきばらと言う名字が珍しいのだろうか、大抵の人は必ず苗字を聞いてくる。
ちなみに23歳、一応会社員だが凛さんの所は会社と言うより事務所だ。
凛さんと言うのは碧崎凛(あおざきりん)のことで、一応社長だ。
人形を造り売ると言う人形師をやっていて、僕がその作品に惚れてひょんな出会いで今に至る。
今日も散々凛さんの手となり足となり働いた。
我ながら頑張ってる方だと思う。
「今日はいつもと違う道をいこう。」
と誰に話すわけでもないが、ぼやいた。
今日は河川敷を通って帰ることにした。
僕は疲れていて、気分転換がしたかった。
日常から非日常に導かれていたとも知らずに。
初夏の夜、音といえば鈴虫の鳴き声と川の音。
そんな音を聴いていると不思議と癒される。
まったく、我ながら自分の単調さに呆れる、むしろ褒めるべきか。
などと心の中で苦笑した。
そのとき、なにかが聞こえた。
重そうな感じの何かが地に落ちたような不自然な鈍い音だった。
僕は偶然その場所に居合わせてしまっていた。
或いは、必然だったのかもしれない。
「え、あ……。」
声も上手く出せなかった。
辺りは鮮血が舞い、その中心には人がうつ伏せなって沈んでいる。
首からまだ血が噴き出している。
その様はまるでスプリンクラーだ。
そこにはその光景とは不釣り合いな人が佇んでいた。
黒髪に黒いレザージャケット黒いレザーパンツで全身を黒に統一した中性的なその容姿は男性とも女性ともとれる。
月がその人を照らし、全体がはっきり見てとれた。
顔は前髪によってはっきり見れないが。
右手には月の光によって白銀に輝いている何かがあった。
僕はその何かを理解するよりもはやく逃げ出した筈だった。
体は動かない。
手足は痺れ、脳も考えることをしようとしない。
「部外者か、消えて貰う……。」
彼は無表情のまま言った。
その刹那、彼は一気に跳躍しそのまま右手にナイフで僕の喉元を一閃した。
いや、していた筈だった。
彼は寸での所で止めていた。
そして突然膝から崩れた。
咄嗟に抱き抱え脈をとってみる。
「とりあえず、生きてるみたいだ……。」
僕のお人好しもここまでくれば馬鹿だろう。
僕は彼を家へ連れていくことにした。
家に着き、彼をベッドに寝かせ介抱した。
時刻は午前1時前だった。
あの瞬間が永遠にも感じられ、あと一歩の所で命を、時間を絶たれていた。
だが不思議だった。
彼には血がただの一滴もついていなかった。
そんなことを考えていると、そのときお腹が鳴った。
「こんなときでも、僕の体は変わらないな。」
自分のまぬけさに苦笑しながら、買い置きのインスタントラーメンを作ることにした。
作業は至って単純。
粉末と熱湯を注ぐだけ。
便利な食品が多くなったなと考えてるとき寝室から扉が開く音がした。
彼が寝室から出てきて彼と目が合った。
彼は目を逸らしながら
「助けてくれてありがとな……。」
といい、そのまま僕を指差して、いや正確には僕が手に持っているものを指差して
「それ食べたい……。」
と頬を赤くして言った。
僕は驚いた。
彼は女性だったのだ。
よく見れば、胸の辺りに膨らみがある。
小柄で華奢、肌は白く間違いなく美人の部類だろう。
「どうぞ、食べて。」
インスタントラーメンを手渡して彼女に
「君の名前は?」
と聞いた。
彼女は食べるのを止めじっと見つめてきた。
僕は彼女の顔が綺麗で見惚れてしまっていた。
「貴方が名乗らない限り私は名乗らない。」
自分の名も名乗らずの聞いたことに関して謝りながら、僕は再度
「ごめん、悪気は無かったんだ。僕の名前は安藤直哉。よろしく。」
そして手を差し伸べた。
「何の手だ?」
「握手だよ。」
彼女は一瞬戸惑った顔を見せたがやがてぶっきらぼうに
「魁だ……。よろしく。」
と華奢な白い手を差し出した。
彼女の頬は赤く染まっていた。
これが僕たちの最初の出会いだった。
空は闇に包まれていて、辺りはしんと静かだった。
さっきまで見えていた月は今は雲に隠れて見えない。
時刻は0時をすぎたとこだろう。
街灯の光は点々としていて、自動販売機がぽつんと延々と光っている。
時折、何人かの人とすれ違うが、こんな時間まで何してたんだろうとか、話の内容は僕にはあまり興味が持てなかった。
僕の名前は榊原直夜。
さかきばらと言う名字が珍しいのだろうか、大抵の人は必ず苗字を聞いてくる。
ちなみに23歳、一応会社員だが凛さんの所は会社と言うより事務所だ。
凛さんと言うのは碧崎凛(あおざきりん)のことで、一応社長だ。
人形を造り売ると言う人形師をやっていて、僕がその作品に惚れてひょんな出会いで今に至る。
今日も散々凛さんの手となり足となり働いた。
我ながら頑張ってる方だと思う。
「今日はいつもと違う道をいこう。」
と誰に話すわけでもないが、ぼやいた。
今日は河川敷を通って帰ることにした。
僕は疲れていて、気分転換がしたかった。
日常から非日常に導かれていたとも知らずに。
初夏の夜、音といえば鈴虫の鳴き声と川の音。
そんな音を聴いていると不思議と癒される。
まったく、我ながら自分の単調さに呆れる、むしろ褒めるべきか。
などと心の中で苦笑した。
そのとき、なにかが聞こえた。
重そうな感じの何かが地に落ちたような不自然な鈍い音だった。
僕は偶然その場所に居合わせてしまっていた。
或いは、必然だったのかもしれない。
「え、あ……。」
声も上手く出せなかった。
辺りは鮮血が舞い、その中心には人がうつ伏せなって沈んでいる。
首からまだ血が噴き出している。
その様はまるでスプリンクラーだ。
そこにはその光景とは不釣り合いな人が佇んでいた。
黒髪に黒いレザージャケット黒いレザーパンツで全身を黒に統一した中性的なその容姿は男性とも女性ともとれる。
月がその人を照らし、全体がはっきり見てとれた。
顔は前髪によってはっきり見れないが。
右手には月の光によって白銀に輝いている何かがあった。
僕はその何かを理解するよりもはやく逃げ出した筈だった。
体は動かない。
手足は痺れ、脳も考えることをしようとしない。
「部外者か、消えて貰う……。」
彼は無表情のまま言った。
その刹那、彼は一気に跳躍しそのまま右手にナイフで僕の喉元を一閃した。
いや、していた筈だった。
彼は寸での所で止めていた。
そして突然膝から崩れた。
咄嗟に抱き抱え脈をとってみる。
「とりあえず、生きてるみたいだ……。」
僕のお人好しもここまでくれば馬鹿だろう。
僕は彼を家へ連れていくことにした。
家に着き、彼をベッドに寝かせ介抱した。
時刻は午前1時前だった。
あの瞬間が永遠にも感じられ、あと一歩の所で命を、時間を絶たれていた。
だが不思議だった。
彼には血がただの一滴もついていなかった。
そんなことを考えていると、そのときお腹が鳴った。
「こんなときでも、僕の体は変わらないな。」
自分のまぬけさに苦笑しながら、買い置きのインスタントラーメンを作ることにした。
作業は至って単純。
粉末と熱湯を注ぐだけ。
便利な食品が多くなったなと考えてるとき寝室から扉が開く音がした。
彼が寝室から出てきて彼と目が合った。
彼は目を逸らしながら
「助けてくれてありがとな……。」
といい、そのまま僕を指差して、いや正確には僕が手に持っているものを指差して
「それ食べたい……。」
と頬を赤くして言った。
僕は驚いた。
彼は女性だったのだ。
よく見れば、胸の辺りに膨らみがある。
小柄で華奢、肌は白く間違いなく美人の部類だろう。
「どうぞ、食べて。」
インスタントラーメンを手渡して彼女に
「君の名前は?」
と聞いた。
彼女は食べるのを止めじっと見つめてきた。
僕は彼女の顔が綺麗で見惚れてしまっていた。
「貴方が名乗らない限り私は名乗らない。」
自分の名も名乗らずの聞いたことに関して謝りながら、僕は再度
「ごめん、悪気は無かったんだ。僕の名前は安藤直哉。よろしく。」
そして手を差し伸べた。
「何の手だ?」
「握手だよ。」
彼女は一瞬戸惑った顔を見せたがやがてぶっきらぼうに
「魁だ……。よろしく。」
と華奢な白い手を差し出した。
彼女の頬は赤く染まっていた。
これが僕たちの最初の出会いだった。
12/09/17 10:00更新 / N-BYk