読切小説
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汚染地域にて・・・
汚染地域。
暗雲の立ちこめ、明らかに毒々しい色をした大地と水たまり。
人類が地球に対してしてきた仕打ちが今まさに此処にあると言えば良いのか。
その仕打ちは人類自らに帰ってきて、それは生活空間の縮小と言う形で現れた。
昔はどんな土地だったのだろうか・・・
建物がところどころに残っているところを見ると、居住区だったのだろうか。
まあ、言えることは此の荒れ果てた土地には幾多もの魂が眠っているという事くらいか。
そんな荒れ果てた土地を動き回る1機の黒い軽量逆関節のAC。
武装はTANSY2丁にハンガーにARACHIDE2丁。
制圧戦をおっぱじめる様な武装ではなく、あくまで支援用の装備といった感じだ。
「本当に此処らへんなのかな?」
狭いコクピットの中に居るのは、まるで機械と一体化しているようにガチガチのパイロットスーツを着込んだ人物。
幼い口調で言葉を呟きながら、機体の足を一端止めて周囲の状況をスキャンする。
地雷が幾らか検出される程度で特に何も反応がない。
今、何で汚染地域に居るかと言うと話はそれなりに長くなる。
数日前にAKマスターアームズはLibertadoresとかいう部隊と同盟を結んだ。
ムーン兄さんが上手く交渉してくれたらしいけど、結局はリーダーの指示通りなのか対等な同盟関係という感じになったらしい。
杏子さんが気に入らなかったのは言うまでも無く、数日間はかなり荒れていた。
荒れた時の杏子さんはかなり怖い。
模擬戦では誰彼かまわずにパイルで貫こうとしてくるし、それに・・・
これ以上は言わない方がいいか、あとでまた杏子さんに何かされるかもしれないし・・・
ちなみに他のメンバーは特に変わりなく過ごしているということを伝えておこう。
まあ、ともかく、その対等な同盟関係の為にLibertadoresから依頼されたのが、今回のミッションだ。
数時間前に行方不明になった部隊のメンバーを探して来いという任務だ。
Libertadoreの面々は拠点の防衛に忙しいらしく、オペレーターくらいしか人員が避けないらしい。
そこで補欠としてAKマスターアームズから状況確認が上手い僕がリーダーから抜擢を受けて此の任務に赴くことになったのだ。
汚染地域なので活動時間は限られているが、迷子を捜すのには十分な時間だ。
最後に信号が確認された地点は此処らしいが、今のところ何も機影らしきものは確認できない。
とりあえず、地雷に気をつけて高い場所に行ってみよう。
見晴らしも良いだろうから色々と分かることもあるかもしれない。
ギュッとレバーを握る手に力を入れて、逆関節の機体を動かした。
「前進するよ。」
「・・・き、気を付けてください。」
「了解。」
サンは軽く言葉を言ってLibertadoresのオペレーターに対して自分の行動を伝える。
その言葉に対して可愛い女性の声が返ってきた。
確か、サーニャさんと言ったっけ・・・
杏子さんもこんなに可愛ければ良いのになぁ、何て軽く頭で考えながらも返事を返した。
それにしても敵なんて居るのだろうか・・・
丘の様に盛り上がった場所を徐々に逆接の機体は上って行く。
「・・・っ、うっ・・!?」
丘を登りきろうとした時に何か向こうから十発程度の飛翔体が確認できた。
うねうねとした独特の軌道で此方に向かってくる。
いきなりの攻撃にサンは慌てたが、思いっきり右の方にレバーを傾けてハイブーストのスイッチを入れて回避行動を取る。
黒い軽逆の機体は、操縦主の無茶な行動にも十分対応できる機動性を備えているのか、瞬時に横に加速した。
数発はミサイルが機体に直撃したが、ダメージは殆どないようだ。
このまま地面を蹴ってジャンプ、そして索敵。
「ど、どうしました?」
サーニャは慌てた様な感じでサンに対して通信する。
「何かいるっ!」
サンは同じく慌てた様な感じでサーニャに言葉を言った。
空中から索敵を開始したが、丘のなだらかな下り斜面に何か棒の様な物が刺さっているのが確認できた。
どうやらその棒が元凶なのか、その棒の先の方からミサイルがまた発射される。
やられてたまるか、サンはスキャンモードを解除して容赦なく武器のトリガーを引いた。
TANSYから弾丸が容赦なく発射され、ミサイル発射の根源である棒にミサイルと入れ違いに向かって行った。
動かない目標に向かって当てるのは、戦闘に慣れていないサンでも簡単だった。
棒は数発、弾丸が当たれば爆散して粉々になり、向かってくるミサイルだけが残った。
あんまりこの感覚は慣れてないんだよなーと思いながらも、今度は左にレバーを倒してハイブーストのスイッチを再び入れる。
先ほどと同じ様に軽逆の機体は瞬発的に左に加速する。
再びミサイルが何発か当たるが、ダメージは軽微なので関係ない。
地面に機体の足が付けば、丘の上に登ろうと操縦桿を操る。
「な、何か来てます。」
「え、どこ?・・・っ!?」
ちょうど、その時にオペレーターであるサーニャから通信が入った。
サンは、慌てた様な感じで機体を動かして辺りを探ろうとするが、眩しい閃光に包まれた後にAP低下のCOMの警告音声が伝えられた。
後ろから何かが直撃したのだろうが、衝撃がなかったことと閃光を食らった事を加味すればTE系の武器だ。
ゼロ・サクリファイスはTE装甲が無いに等しく、レーザーキャノンとかパルスキャノンとかを受ければ蒸発することは間違いない。
「う、後ろです。後ろ!」
サーニャは、慌てた感じでサンに助言をしたが、急な敵襲に焦っているようだ。
「・・・っう。」
後ろを向くことは難しく再び機体をジャンプさせて、機体をねじらせるように旋回させる他ない。
手足をフルに使って自らの機体をそのように操る。
その時に青色の閃光が機体のすぐ傍を通り抜けていくのが分かった。
アレに当たっていたらと思うとゾッとする。
「き、機影3機、同一種です。敵の装甲、TEに弱いようです。」
サーニャはオペレーターとして出来る限りの事をしようと必死なのかサンに向かって敵の情報を伝えた。
「了解っ・・・。」
サンは歯を食いしばりながらオペレーターに返事を返した。
そして空中でTANSYとARACHIDEの換装を行う。
機体が一回転したところにまたも青い閃光が飛んでくるが、ハイブーストを行い避ける。
もう1発当たると流石に厳しくなってくる。
敵は空中に浮いている花弁のように綺麗な形をしていたが、侮れない。
距離は200と言ったところで、ARACHIDEの十分な射程距離ではない。
まだ、近づかないと駄目だ。
機体を3機の方に近付けようとブーストをかけた矢先に突然、すぐ正面の地面から何か湧きあがるように、2機の機影が新たに現れた。
その機影も花弁の様な美しい流線型の機影だが、フォルムはあの3機とは微妙に違っていた。
「え?うわああああああ!?」
唐突な襲撃にサンは惚けてしまった。
だが、2機の機影はサンの軽逆に向かって突っ込むように移動してきた。
まさか、自爆・・・とサンが悟った瞬間に軽逆の目の前で2機とも派手な爆発を起こした。
ゼロ・サクリファイスが吹き飛ばされたのは言うまでも無く、サンは絶叫を上げることしか出来なかった。
襲い来る予想外の衝撃には耐えられずに思わず、操縦桿から手を離してしまった。
サンの機体は丘の斜面に押し込められるように倒れて丘の表面に軽いクレーターの様な物を作る。
「だ、大丈夫ですか?応答を!応答を!」
オペレーターであるサーニャは本当に慌てた様な感じでサンに向かって言葉を言った。
「う、うう・・・」
意識が朦朧として、うめき声しか上げられない。
機体の警告音の五月蠅さのおかげで持っているのかもしれない。
稼働限界まで僅かと言うCOMの声が聞こえた。
簡単な任務だと思ったのに、此処で死んでしまうのだろうか。
兄さん・・・。
サンは完全に走馬灯の様な状態になっていて、死を覚悟しているように見える。
だが、諦めかけたその時にカンッという音が聞こえて薄れゆく意識の中、正面に見える花弁は落ちて爆散した。
「え?」
「見てられないね。全く・・・」
サーニャは何が起こっているのか分からないのか、惚けた様な声を言った。
そのサーニャの通信の後に、聞き覚えのある気だるそうな女性の声が聞こえた。
この声は杏子の声だ。
「ぇ・・・?」
サンは呆けた感じで返事の様な物を返して意識を回復させようと首を軽く振った。
敵を超えた向こうの方には、見覚えのあるスナイパーライフルを構えた紅白の二脚が見える。
杏子の機体は再びスナイパーライフルを発射して的確に敵を捕えて弾を当てる。
「早く目を覚ましな。死んだら後味、わりいじゃねーか。」
2機目を難なく落とした時に杏子は気絶しかけのサンに活を入れる様な台詞を言った。
サンの方は、ようやく意識が平常に戻ったようで、操縦桿に手をやって機体を再び動かし始める。
黒い軽逆はゆっくりときしむ様な音を立てながら斜面に足を立てる。
「退避してっ。早く!」
通信からはサンに対してのサーニャの悲痛な声が聞こえる。
その瞬間に敵機は青い閃光をゼロ・サクリファイスに向かって放った。
言われなくてもそうするつもりで、サンは一気にレバーを動かしてグライドブーストのスイッチを入れた。
サンの機体は急激に後方に下がり、花弁の放った閃光は地に当たり爆発した。
そのすぐ後にスナイパーライフルの発砲音が聞こえた。
最後の1機は派手に音を立てて落ちて爆散した。
「・・・っと。生きてるか?」
杏子は一仕事終えた様な感じでサンに向かって話しかける。
「あ、ありが・・とう・・・。」
サンは素直に救ってくれた杏子に対して少々、涙声になりながら言葉を言った。
わざわざ、汚染地域まで来てくれて気に入らない部隊の依頼を受けた自分のピンチを救ってくれたのだ。
何といえば良いか分からなかった。
だが、感謝の気持ちは間違いなく伝わっている。
「ば、馬鹿。アンタの兄貴に頼まれただけだ。」
杏子は礼を言われるのに慣れてないのか、少し照れた様な感じで言葉を返す。
その光景は傍から見ればかなり可愛らしいものだろう。
「お〜い、聞こえてる〜?」
小規模な戦闘が終わって、何だか良い雰囲気の様な此の状況下で通信が入った。
その声は何だか軽い男の物で汚染地域には似合わない物かもしれない。
「あ、大臣殿。」
サーニャは危機が去ってホッとしている最中に通信が入ってきたので、何時もの感じに持ち直した感じで言葉を言った。
「回収に来てくんない?結構、良いもんが手に入ったし・・・」
そのふざけた声の主は続けて言葉を言った。
「え?捜索する人って此の人・・・じゃないよね?」
「・・・。」
サンはまさかという様な感じで訝しげに質問をした。
杏子は無言で半分呆れた様な感じでジーッと返答を待っていた。
「え、ええ・・・そうです。」
サーニャは期待してない答えをサンに対して返した。
あれ、じゃあ、何のために自分は呼ばれたのだろうか?
それにこんな人の為に自分は死にかけたなんて・・・
操縦桿を握る手から思わず力が抜けて言ってしまった。
この後に分かったことだが、大臣と呼ばれた人物は自ら通信をシャットアウトして廃品を探っていたらしい。
あとで大臣はLibertadoresの面々から叱りを受けたのは言うまでも無く。
杏子も更にイライラしたのは言うまでも無い。
ただ、八当たりの対象は自分ではなくムーン兄さんの方に向いているようだ。

「サーニャ」
Libertadores所属、主に援護担当。
健気な性格で与えられた任務を精一杯頑張る。
オペレーターを務めることが多いがACの操縦技術も平均以上。
主な使用機体は、全距離対応できる武装を備えたタンク、フリーガーハマー。

「内務大臣」
Libertadores所属、主に後方支援担当。
トリックスターの様な性格。そしてドジを踏むことが多い。
ACの操作技術は余りないが、咄嗟の判断力は目を見張る者がある。
主な使用機体は特になく、仲間たちの機体によってアセンブルは変わる。
総務大臣と呼ばれているが、深い秘密があるのかもしれない。
12/03/25 06:23更新 / シャドウ

■作者メッセージ
色々と設定が難しかった・・・
今回はサンの視点で書いてみました。
杏子とサンって良いカップリングだと思うがどうよ?

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