それぞれのクラスへ
水白高の校舎へと足を踏み入れる4人。
学校は学校、当事者以外からはその言葉で片付けてしまわれそうであるが、今まで通っていた中学の校舎とは明らかに違う匂い。
多分時間が経つにつれたいして気にならなくなってしまうのだろうが、それでも「新しい空気」をその身に感じていた4人___
「俺何組?何組?」
「お兄ちゃん邪魔ーーーっ!!無駄にでかい図体が邪魔でボードが見えないよぅ」
「どきなさいよこのトウヘンボク、明彦に任せてたら見つけるのに5分はかかるわ!」
「・・・・・・」
___訂正、4人はそれどころではなかった。
クラス分けの名簿が張り出されたホワイトボードに、自分のクラスは何処なのか我先にと勇み出た3人。出遅れた弘樹は、入り込むタイミングを完全に見逃していた。
「おっしゃ、俺様はっけーん♪ B組かー。B組っていやぁアレだよな、うんうん」
「何一人で自己完結してるのよ。まずは私の探しなさい! ホラ、弘樹もそんなところに突っ立ってないで一緒に探してよ」
「・・・いや、さすがに前みたいな事は無いと思うからそんなに焦らなくても」
「ほえ? ひろぽんとあかりん、何かあったの?」
「・・・えーとね、合格発表の時にあかりの名前だけ手違いで書き漏れてたんだよ」
「今度も名前無かったら訴えてやるんだから!!」
「あちゃー、あかりん可哀想にねー」
「お前、人の事言ってる場合じゃねぇぞ。・・・なんか由佳の名前だけ見当たらねぇんだよな」
「ふえ?」
明彦の言葉で由佳は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「あ、私のみっーけ♪ 弘樹のも。明彦と同じでB組ね」
「・・・本当だ。3人同じクラスかぁ」
「え・・・ええ? 由佳は? 由佳はどこー!?」
「うーむ、背丈に比例して文字もマイクロサイズで書いてるんじゃねえかきっと」
「お兄ちゃん、ぶっとばすぞー♪」
「明彦みたいなアホでも受かるんだから、あんまり変わらないレベルの由佳が載ってないわけないわよね」
「あかりん酷いっ!由佳すっごい傷付いた!」
「なぁ弘樹よ、・・・誰か俺様に優しい言葉をかけてくれる女子はいないものかね」
「・・・少なくともこの2人にそんな期待はしない方がいいと思う」
一通り目を通したのち、あかりはもう一度A組から順に探し始めていた。
単に見落としてるのか、それとも・・・以前自分が遭った例外的なパターンに
陥ってないだろうか。そう思いながら彼女はふと欄の外に目を向けてみた。
「あった、あったわよ由佳。ほら、A組の欄の脇の方」
「あ、ホントだー・・・でもなんで由佳だけサインペンで殴り書きなの?」
「・・・何かしら、このデジャビュ」
「・・・間違った名前に横線引いて、その隣に殴り書き・・・・何か何処かで見た事あるねコレ・・・気のせい、じゃないよね」
「それよりもっ」
由佳がおもむろに叫んだ。
「なんで由佳だけ仲間はずれなのーーーーーーーっっ!!?」
「ふっふっふ、これが神の下した運命というヤツだ、我が妹よ!」
「うわーん、神さま・・・あんたは今から由佳の敵だァ!!」
「うわぁ・・・この子クラス分けで神様に喧嘩売ってるわ」
「もうこーなったら! お兄ちゃん殺す! お兄ちゃん殺して由佳はお兄ちゃんと入れ替わるッ!!」
「神様、俺クラス分けで妹に殺害宣言されましたっ!!」
「・・・はぁ、何とかなるように神様に祈ってあげるから落ち着いて、みんな」
「祈るってどうするのよ?」
「・・・神様、テラモエス、テラモエ___」
「ひろぽん、それ祈りの言葉じゃないからっ!っていうかそんな言葉連呼してたら汚れキャラになっちゃうからテラモエス禁止!」
「ふぅ、決まったもんはしょうがねぇよ」
やれやれと明彦は頭を掻き、由佳の襟元を猫のようにひょいと持ち上げた。
「ひょわわっ」
「このちんちくりんを配達してくるからお前ら先行けよ」
「離してー!離してよー!由佳はみんなと同じクラスがいいんだもん!ええーい、離せーお兄ちゃん!ぶぅーっとばぁーすぞーーーー」
「じゃ、行きましょ弘樹」
「・・・いいのかなぁ」
「どうこう言っても、もう覆らないんでしょ。だったらしょうがないじゃないの。それに由佳のことだから休み時間になったら顔出しに来るでしょ」
「・・・それもそうだね」
あかりと弘樹の二人はその場を後にし1年B組の教室へと向かった。
一方、A組の教室では____
ガララララ
勢いよく教室の扉が開かれ、A組の新入生の注目が一気に集まる。
そろそろ先生が挨拶しに来るんじゃないかと思っていた矢先なら尚のことだった。
しかしそこに立っていたのは極端に長身の男子と極端に小柄な女子である。
皆このミスマッチに呆然として静まり返っていた。
「ちーっす、タチバナ宅急便でーす。A組から注文のあった珍獣一匹、お届けにあがりやした〜」
「珍獣ぅ!?筋肉怪獣なお兄ちゃんにそんなこと言われる筋合いないよっ」
「えーお取り扱いの注意として、まず餌を与えないでください。胃袋が四次元と繋がっております。そんでもって餌を与えると犬コロのようにしつこくまとわりついてきやがります」
「みんな、ウソだからね!信じちゃダメだよっ!でも由佳の鞄にはまだ若干の余裕がありまーす。お菓子くれるなら24時間受けつけ___」
「この通り食欲旺盛通り越して生肉に食いつきそうな珍獣ですが、どうか可愛がってやってください。そして逃げ出さないように鎖に繋いどいてください。」
「人を狂犬みたいに言わないでよ!がるるるるる____きゃん」
明彦は由佳をポイっと教室に投げ入れそそくさと逃げ出した。
「さらば妹!俺はお前という屍を乗り越えて弘樹達と明るい学園生活を満喫してくるぜ!」
「勝手に殺すなー!!うぬぬぬぬ、お兄ちゃんの・・・・バカーーーーーーーーーーー!!」
由佳が絶叫し終わる頃には明彦の姿は消えていた。
「フンだ。いいもんいいもん、由佳はA組のアイドルになってやるんだから」
半分涙目になりながら、あきらめて席に着こうとする由佳。
しかし___
「このコちっちゃーい、小学生みたい。抱き上げてもいい?」
「ねえねえ、あなた何処の中学出身?日向丘?それとも水白第三?」
「さっきの大きい人ってお兄さんなの?っていうか兄妹なの?」
早くも他の新入生(主に女子)に囲まれ質問攻めにあっていた。
「ほえ?えっと、由佳は・・・えっと」
「抱き上げてもいいよね?それじゃ抱き上げちゃう♪」
「うううううぅ、由佳は珍獣じゃなーーーい!!」
_____________________________
「・・・隣で何か騒いでるね」
「何が起こってるのか大体察しは付くでしょう」
「・・・あはは、そうだね」
こちらB組は至って静かであった。
弘樹とあかりは由佳のようなセンセーショナルな紹介(※後の明彦談)をしたわけでもなく、普通に入って普通に席に着いただけである。
初期の席の配置は大抵仮として手前から出席番号順に並んでおり、番号が後半になる弘樹とあかりはたまたま近くの席についていた。ちなみに明彦の席も弘樹のすぐ前である。
「待たせたなお二人さん」
教室の後ろのドアから明彦が静かに入ってくる。
「・・・まだセンコー来てないよな?」
「まだよ。明彦の席は弘樹の前ね」
「サンキュー。・・・つっても、どうせ席替えすんだろうけどな」
ぶっきらぼうに椅子に座り、机の上で足を組む明彦。
「・・・明彦、さすがにそれじゃヤンキーみたいに思われるよ」
「俺のガタイじゃ普通のサイズは窮屈なの知ってるだろ? もう一段高い机じゃねえと___」
キーーン、コーーン、カーーン、コーーン
「本鈴のチャイムね。そろそろ先生来るから、足下ろした方がいいわよ」
「美人のセンセだったら考えとくぜ」
「・・・入学早々不良扱いは勘弁してよ」
「弘樹、お前がそれを言うか。昔は俺より散々だったろーが」
「・・・そ、それは・・・・」
明彦の返しに言葉を濁す弘樹。反論できない理由があるのか、目をそむけて黙り込んでしまう。
「明彦、その話は無しにしましょう。もう過ぎた事なんだから」
「あ、・・・・そうだな、悪い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
弘樹が無言のままチャイムだけが鳴り響く。
___コーーン、カーーン、コーーン
しかし、その静寂を破るかのように突如物音が響き渡った。
ガタタタンッ
「何だぁ?」
「・・・・!」
「今の何の音?」
ガタガタガタガタガタガタッ
クラス全員の目が物音の発生源と思われる掃除道具のロッカーに集中した。
「え、うそ、まさかお化け!?」
「まっさかなぁ。中にセンセーが入ってたりして」
「・・・もしそうなら、その先生は新入生が来る前からずっとロッカーに入ってなきゃならないと思うんだけど」
そして、疑心暗鬼となったB組の生徒達をさらに困惑に陥れる事態が起こった。
なんとロッカーから曲が流れ始めたのだ。
「何ィー!?」
「こ、この曲は・・・」
「・・・ドラ○もん、だよね」
全員は確信した。
『これは明らかにスタンバっている』と。
ドラ○もんの曲が流れている間にもロッカーが音を立てて揺れている。
そして前奏が終わり、遂に歌詞にさしかかろうしたその瞬間____
ガララララ
「クソジャリ諸君、おはよう♪」
女の先生が教育者にあるまじき発言をしながら、普通に教室のドアから入ってきた。
一同『〜〜〜〜〜〜〜っ』
・・・見事に期待をはずされた新入生達であった。
「ねぇ、先生があっちにいるなら・・・ロッカーには何が入ってるの?」
「・・・・・・・」
「直接本人に聞いた方が早くね?」
「みんなちゃんと席についてねー。つかないと、ドラム缶に詰めて東京湾に沈めちゃうゾ♪」
シャレにならないトンデモ発言で教室が静まり返る。
「こ、この人・・・・先生なの?」
「・・・だと思うよ。だって、背中に生活指導って書いてあるし」
「いや、白衣の襟おっ立てて背中に漢字を縦に書いてあるって・・・どう見てもヤンキーだろ・・・それよりも」
明彦はその女教師を足元から舐めるように見る。
大きめのバストに白衣をボタン2つだけ留めて羽織り、谷間が見えるくらい胸元を開いている。
そして下は見えるか見えないかギリギリのミニスカートに黒タイツという組み合わせ。さらに腰までなびく長く青い髪と美しい顔立ち。
「ヒュゥ♪こいつは最高に美人じゃね?俺のど真ん中直球ストライクだぜ」
「はいはいそーですか良かったですねわかったから机から足下ろしてね」
「んだよ、その心のこもらない言葉はなんかグサっとくるからやめれ」
そう言いながら明彦は渋々と足をおろした。
そんなやりとりをしている内に、女教師は教壇へと登り出席簿に目を通していた。
「さーてみんな、あたしが用意したサプライズに驚いてくれたかしら?」
・・・サプライズってさっきのドラ○もんですか、と一同は押し黙った。
「・・・このネタどっかで見た事あるんだけど。まさかパク___」
「弘樹!そこは黙っておいてあげるのが優しさってものよ!」
弘樹の口を押さえ小声でたしなめるあかりであった。
「あらら、反応薄いわね・・・センセーちょっとがっかり」
そしてあかりはクラスを代表して疑問をぶつけてみようと女教師に質問する。
「あ、あの・・・」
「ハーイ、何かしら穂之村あかりさん」
「え!?・・・名前、分るんですか?」
「当然でしょう?自分の受け持つクラスの子の名前ぐらい全員覚えてるわよ」
クラスのあちこちから「おおー」と驚嘆する声が挙がる。
「先生・・・なんですよね?」
「何よーその言い方。確かにまだアンタ達とそう変わらない年に見えるかもしれないけど、ちゃんと先生よ」
「あ、はい、すみません。えーとですね、先生・・・・・・あのロッカーには何が入ってるんですか?」
「ロッカー? ああ、放送部からチョッパった・・・ゴホン、借りてきたラジカセをロッカーの上に置いといたのよ」
振り返り目をやると、そこには確かに古臭くて昔見た事のある録音再生機器が置いてあった。
「あの、先生。・・・という事はですね、ロッカーの中には・・・」
「中の事なんて知らないわよ。それよりもそろそろ自己紹介してもいいかしら?」
一同(ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!)
約一名を除く全員が心の中で絶叫した。そしてロッカーを見つめたままプルプルと震え出す者もいる始末である。
そんな生徒達を尻目に、女教師は自分の名前を黒板にデカデカと書いていた。
「はい、ちゅうもーく。あたしの名前は葵 烈火。このB組の担任になるから一年間よろし___」
自己紹介にも関わらず、クラス全員が見事なまでに背を向けていた件。
「・・・・・・・・・・うふ」
今度は先生が別の理由でプルプルと震え出し、
「全 員 ッ !! こっち向けやオラァアアアアアアア!!!」
バンっと机を叩き怒鳴りあげた。
学校は学校、当事者以外からはその言葉で片付けてしまわれそうであるが、今まで通っていた中学の校舎とは明らかに違う匂い。
多分時間が経つにつれたいして気にならなくなってしまうのだろうが、それでも「新しい空気」をその身に感じていた4人___
「俺何組?何組?」
「お兄ちゃん邪魔ーーーっ!!無駄にでかい図体が邪魔でボードが見えないよぅ」
「どきなさいよこのトウヘンボク、明彦に任せてたら見つけるのに5分はかかるわ!」
「・・・・・・」
___訂正、4人はそれどころではなかった。
クラス分けの名簿が張り出されたホワイトボードに、自分のクラスは何処なのか我先にと勇み出た3人。出遅れた弘樹は、入り込むタイミングを完全に見逃していた。
「おっしゃ、俺様はっけーん♪ B組かー。B組っていやぁアレだよな、うんうん」
「何一人で自己完結してるのよ。まずは私の探しなさい! ホラ、弘樹もそんなところに突っ立ってないで一緒に探してよ」
「・・・いや、さすがに前みたいな事は無いと思うからそんなに焦らなくても」
「ほえ? ひろぽんとあかりん、何かあったの?」
「・・・えーとね、合格発表の時にあかりの名前だけ手違いで書き漏れてたんだよ」
「今度も名前無かったら訴えてやるんだから!!」
「あちゃー、あかりん可哀想にねー」
「お前、人の事言ってる場合じゃねぇぞ。・・・なんか由佳の名前だけ見当たらねぇんだよな」
「ふえ?」
明彦の言葉で由佳は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「あ、私のみっーけ♪ 弘樹のも。明彦と同じでB組ね」
「・・・本当だ。3人同じクラスかぁ」
「え・・・ええ? 由佳は? 由佳はどこー!?」
「うーむ、背丈に比例して文字もマイクロサイズで書いてるんじゃねえかきっと」
「お兄ちゃん、ぶっとばすぞー♪」
「明彦みたいなアホでも受かるんだから、あんまり変わらないレベルの由佳が載ってないわけないわよね」
「あかりん酷いっ!由佳すっごい傷付いた!」
「なぁ弘樹よ、・・・誰か俺様に優しい言葉をかけてくれる女子はいないものかね」
「・・・少なくともこの2人にそんな期待はしない方がいいと思う」
一通り目を通したのち、あかりはもう一度A組から順に探し始めていた。
単に見落としてるのか、それとも・・・以前自分が遭った例外的なパターンに
陥ってないだろうか。そう思いながら彼女はふと欄の外に目を向けてみた。
「あった、あったわよ由佳。ほら、A組の欄の脇の方」
「あ、ホントだー・・・でもなんで由佳だけサインペンで殴り書きなの?」
「・・・何かしら、このデジャビュ」
「・・・間違った名前に横線引いて、その隣に殴り書き・・・・何か何処かで見た事あるねコレ・・・気のせい、じゃないよね」
「それよりもっ」
由佳がおもむろに叫んだ。
「なんで由佳だけ仲間はずれなのーーーーーーーっっ!!?」
「ふっふっふ、これが神の下した運命というヤツだ、我が妹よ!」
「うわーん、神さま・・・あんたは今から由佳の敵だァ!!」
「うわぁ・・・この子クラス分けで神様に喧嘩売ってるわ」
「もうこーなったら! お兄ちゃん殺す! お兄ちゃん殺して由佳はお兄ちゃんと入れ替わるッ!!」
「神様、俺クラス分けで妹に殺害宣言されましたっ!!」
「・・・はぁ、何とかなるように神様に祈ってあげるから落ち着いて、みんな」
「祈るってどうするのよ?」
「・・・神様、テラモエス、テラモエ___」
「ひろぽん、それ祈りの言葉じゃないからっ!っていうかそんな言葉連呼してたら汚れキャラになっちゃうからテラモエス禁止!」
「ふぅ、決まったもんはしょうがねぇよ」
やれやれと明彦は頭を掻き、由佳の襟元を猫のようにひょいと持ち上げた。
「ひょわわっ」
「このちんちくりんを配達してくるからお前ら先行けよ」
「離してー!離してよー!由佳はみんなと同じクラスがいいんだもん!ええーい、離せーお兄ちゃん!ぶぅーっとばぁーすぞーーーー」
「じゃ、行きましょ弘樹」
「・・・いいのかなぁ」
「どうこう言っても、もう覆らないんでしょ。だったらしょうがないじゃないの。それに由佳のことだから休み時間になったら顔出しに来るでしょ」
「・・・それもそうだね」
あかりと弘樹の二人はその場を後にし1年B組の教室へと向かった。
一方、A組の教室では____
ガララララ
勢いよく教室の扉が開かれ、A組の新入生の注目が一気に集まる。
そろそろ先生が挨拶しに来るんじゃないかと思っていた矢先なら尚のことだった。
しかしそこに立っていたのは極端に長身の男子と極端に小柄な女子である。
皆このミスマッチに呆然として静まり返っていた。
「ちーっす、タチバナ宅急便でーす。A組から注文のあった珍獣一匹、お届けにあがりやした〜」
「珍獣ぅ!?筋肉怪獣なお兄ちゃんにそんなこと言われる筋合いないよっ」
「えーお取り扱いの注意として、まず餌を与えないでください。胃袋が四次元と繋がっております。そんでもって餌を与えると犬コロのようにしつこくまとわりついてきやがります」
「みんな、ウソだからね!信じちゃダメだよっ!でも由佳の鞄にはまだ若干の余裕がありまーす。お菓子くれるなら24時間受けつけ___」
「この通り食欲旺盛通り越して生肉に食いつきそうな珍獣ですが、どうか可愛がってやってください。そして逃げ出さないように鎖に繋いどいてください。」
「人を狂犬みたいに言わないでよ!がるるるるる____きゃん」
明彦は由佳をポイっと教室に投げ入れそそくさと逃げ出した。
「さらば妹!俺はお前という屍を乗り越えて弘樹達と明るい学園生活を満喫してくるぜ!」
「勝手に殺すなー!!うぬぬぬぬ、お兄ちゃんの・・・・バカーーーーーーーーーーー!!」
由佳が絶叫し終わる頃には明彦の姿は消えていた。
「フンだ。いいもんいいもん、由佳はA組のアイドルになってやるんだから」
半分涙目になりながら、あきらめて席に着こうとする由佳。
しかし___
「このコちっちゃーい、小学生みたい。抱き上げてもいい?」
「ねえねえ、あなた何処の中学出身?日向丘?それとも水白第三?」
「さっきの大きい人ってお兄さんなの?っていうか兄妹なの?」
早くも他の新入生(主に女子)に囲まれ質問攻めにあっていた。
「ほえ?えっと、由佳は・・・えっと」
「抱き上げてもいいよね?それじゃ抱き上げちゃう♪」
「うううううぅ、由佳は珍獣じゃなーーーい!!」
_____________________________
「・・・隣で何か騒いでるね」
「何が起こってるのか大体察しは付くでしょう」
「・・・あはは、そうだね」
こちらB組は至って静かであった。
弘樹とあかりは由佳のようなセンセーショナルな紹介(※後の明彦談)をしたわけでもなく、普通に入って普通に席に着いただけである。
初期の席の配置は大抵仮として手前から出席番号順に並んでおり、番号が後半になる弘樹とあかりはたまたま近くの席についていた。ちなみに明彦の席も弘樹のすぐ前である。
「待たせたなお二人さん」
教室の後ろのドアから明彦が静かに入ってくる。
「・・・まだセンコー来てないよな?」
「まだよ。明彦の席は弘樹の前ね」
「サンキュー。・・・つっても、どうせ席替えすんだろうけどな」
ぶっきらぼうに椅子に座り、机の上で足を組む明彦。
「・・・明彦、さすがにそれじゃヤンキーみたいに思われるよ」
「俺のガタイじゃ普通のサイズは窮屈なの知ってるだろ? もう一段高い机じゃねえと___」
キーーン、コーーン、カーーン、コーーン
「本鈴のチャイムね。そろそろ先生来るから、足下ろした方がいいわよ」
「美人のセンセだったら考えとくぜ」
「・・・入学早々不良扱いは勘弁してよ」
「弘樹、お前がそれを言うか。昔は俺より散々だったろーが」
「・・・そ、それは・・・・」
明彦の返しに言葉を濁す弘樹。反論できない理由があるのか、目をそむけて黙り込んでしまう。
「明彦、その話は無しにしましょう。もう過ぎた事なんだから」
「あ、・・・・そうだな、悪い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
弘樹が無言のままチャイムだけが鳴り響く。
___コーーン、カーーン、コーーン
しかし、その静寂を破るかのように突如物音が響き渡った。
ガタタタンッ
「何だぁ?」
「・・・・!」
「今の何の音?」
ガタガタガタガタガタガタッ
クラス全員の目が物音の発生源と思われる掃除道具のロッカーに集中した。
「え、うそ、まさかお化け!?」
「まっさかなぁ。中にセンセーが入ってたりして」
「・・・もしそうなら、その先生は新入生が来る前からずっとロッカーに入ってなきゃならないと思うんだけど」
そして、疑心暗鬼となったB組の生徒達をさらに困惑に陥れる事態が起こった。
なんとロッカーから曲が流れ始めたのだ。
「何ィー!?」
「こ、この曲は・・・」
「・・・ドラ○もん、だよね」
全員は確信した。
『これは明らかにスタンバっている』と。
ドラ○もんの曲が流れている間にもロッカーが音を立てて揺れている。
そして前奏が終わり、遂に歌詞にさしかかろうしたその瞬間____
ガララララ
「クソジャリ諸君、おはよう♪」
女の先生が教育者にあるまじき発言をしながら、普通に教室のドアから入ってきた。
一同『〜〜〜〜〜〜〜っ』
・・・見事に期待をはずされた新入生達であった。
「ねぇ、先生があっちにいるなら・・・ロッカーには何が入ってるの?」
「・・・・・・・」
「直接本人に聞いた方が早くね?」
「みんなちゃんと席についてねー。つかないと、ドラム缶に詰めて東京湾に沈めちゃうゾ♪」
シャレにならないトンデモ発言で教室が静まり返る。
「こ、この人・・・・先生なの?」
「・・・だと思うよ。だって、背中に生活指導って書いてあるし」
「いや、白衣の襟おっ立てて背中に漢字を縦に書いてあるって・・・どう見てもヤンキーだろ・・・それよりも」
明彦はその女教師を足元から舐めるように見る。
大きめのバストに白衣をボタン2つだけ留めて羽織り、谷間が見えるくらい胸元を開いている。
そして下は見えるか見えないかギリギリのミニスカートに黒タイツという組み合わせ。さらに腰までなびく長く青い髪と美しい顔立ち。
「ヒュゥ♪こいつは最高に美人じゃね?俺のど真ん中直球ストライクだぜ」
「はいはいそーですか良かったですねわかったから机から足下ろしてね」
「んだよ、その心のこもらない言葉はなんかグサっとくるからやめれ」
そう言いながら明彦は渋々と足をおろした。
そんなやりとりをしている内に、女教師は教壇へと登り出席簿に目を通していた。
「さーてみんな、あたしが用意したサプライズに驚いてくれたかしら?」
・・・サプライズってさっきのドラ○もんですか、と一同は押し黙った。
「・・・このネタどっかで見た事あるんだけど。まさかパク___」
「弘樹!そこは黙っておいてあげるのが優しさってものよ!」
弘樹の口を押さえ小声でたしなめるあかりであった。
「あらら、反応薄いわね・・・センセーちょっとがっかり」
そしてあかりはクラスを代表して疑問をぶつけてみようと女教師に質問する。
「あ、あの・・・」
「ハーイ、何かしら穂之村あかりさん」
「え!?・・・名前、分るんですか?」
「当然でしょう?自分の受け持つクラスの子の名前ぐらい全員覚えてるわよ」
クラスのあちこちから「おおー」と驚嘆する声が挙がる。
「先生・・・なんですよね?」
「何よーその言い方。確かにまだアンタ達とそう変わらない年に見えるかもしれないけど、ちゃんと先生よ」
「あ、はい、すみません。えーとですね、先生・・・・・・あのロッカーには何が入ってるんですか?」
「ロッカー? ああ、放送部からチョッパった・・・ゴホン、借りてきたラジカセをロッカーの上に置いといたのよ」
振り返り目をやると、そこには確かに古臭くて昔見た事のある録音再生機器が置いてあった。
「あの、先生。・・・という事はですね、ロッカーの中には・・・」
「中の事なんて知らないわよ。それよりもそろそろ自己紹介してもいいかしら?」
一同(ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!)
約一名を除く全員が心の中で絶叫した。そしてロッカーを見つめたままプルプルと震え出す者もいる始末である。
そんな生徒達を尻目に、女教師は自分の名前を黒板にデカデカと書いていた。
「はい、ちゅうもーく。あたしの名前は葵 烈火。このB組の担任になるから一年間よろし___」
自己紹介にも関わらず、クラス全員が見事なまでに背を向けていた件。
「・・・・・・・・・・うふ」
今度は先生が別の理由でプルプルと震え出し、
「全 員 ッ !! こっち向けやオラァアアアアアアア!!!」
バンっと机を叩き怒鳴りあげた。
11/06/13 19:38更新 / レヴィン・ナイル