ヤの付く方々の朝礼(葵家の場合)
数年振りに遊び場の縄張りへと足を踏み入れる3名+1名。
とは言ってもそこはヤクザの縄張りでもある。
「誰もいないよな・・・いないよな? な?」
「お兄ちゃん、目に見えるものが全てじゃないんだよ。・・・そう、心の目で見るんだよ!さすれば道は開かれん!」
様子を見ながら先行する明彦と由佳。
「弘樹、ハリセン持ってる?」
「そんなもの持ってるワケが無いんだけど・・・何に使うつもり?」
「そこのバカ兄妹にツッコミ入れたいんだけど」
「・・・・・」
ここはあかりにツッコむべきなのだろうかと、ひと思案して彼女の主張を無言でスルーする弘樹。
「ところであんた達、本当に水白河を受験したの?」
「もーあかりん失礼だねー、お兄ちゃんとひろぽんはともかく、由佳が落ちるワケないじゃん」
「その兄をも恐れぬ不届きな発言、今ここで粛清したろか」
「・・・由佳と明彦、確か俺にテストの点数で勝った事無かったよね?」
「まあ、弘樹は凡人並の脳味噌があったからなんとかなったけど」
その言葉は褒めてるのだろうか、それともけなしてるんだろうか。
「おいおい、まさか俺らを脳味噌まで筋肉だとでも思ってんのかよ?」
「そうだよあかりん、この知能の欠片も無いプロテインが肥大化しまくった類人猿と由佳を一緒にしちゃダメだよー」
「お前はその類人猿と双子であるという事実を受け入れなければならんという過酷な運命にあるんだぞ」
「いいいいやぁぁああああああああああ」
「わかった。裏口入学ね」
「何だその躊躇なく確信した目は!?オマエ失礼にもほどがあるぞ!」
「そりゃあ転校するまでみんな一緒だったしね。どう考えてもあの成績で___」
「もー、話が進まないから説明しちゃうよ。あたし達スポーツの方で結構いい所までいって、水白河に推薦入学で入ったんだよ」
「そういうこった。理解したか? それにちゃんと筆記試験も受けてきてるからな」
「・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「うわーい、すっごい疑いの眼差し」
確かにこの二人の運動能力を考慮すればあってもおかしくない話である。
これだけ突出した人材は、どこの運動部でも咽から手が出るほど欲しがるだろう。
「そんな事より、急がないと遅刻しちゃう」
「うわーい、俺らの苦労がそんな事扱いされやがりました」
「・・・明彦、積もる話は学校についてからしようよ。廊下でバケツ持って昔話したくないし」
「なはは、確かにそりゃごめんだ」
「はーい、それじゃみんな由佳についてきてねー。遅刻ギリギリ組一行をご案内いたしまーす」
_________________________________
「おーおー、なっつかしーぜ♪このタヌキまだ置いてんだ」
「ホントだー」
先行する橘兄妹は、何かを見つけヤクザ屋さんの厳格な正門____の、脇にある茂みへと駆け出していった。
「タヌキ?」
「ああ、たぶんタヌキの焼き物だよ。小さい頃にかくれんぼしてた時によく裏に隠れてたりしたからね。そっか、まだ置いてあったんだ」
幼少の思い出に浸る弘樹をよそに、あかりはヤクザの玄関に下げられた名札をまじまじと見つめていた。
『葵組』
「小さい頃のあんた達って・・・一体何やらかしてたのよ。命知らずよねえ・・・」
「あはは・・・今じゃ考えられないよね。・・・・考えたくないかも」
子供にはヤクザなんてものは何の事なのか理解できないだろう。自分より大きな人間は皆おじさんおばさんである。
しかし成長した今となっては、命知らずな所業がてんこ盛りだった過去を振り返り血の気が引いたりする。
「ええと、そのタヌキの裏側から茂みを抜けて、中庭を通り抜けれるんだよ」
「中庭って、人が居たらどうするのよ!?」
「だから見つからないように___」
「ねえ弘樹、私にもしもの事があったら・・・代わりに生贄になってくれるわよね?」
「いやいやいやいや」
生贄ってなんすかそれ。
「中庭にあるブロック塀は四つんばいになっていけばギリギリ隠れられる高さだから、見つからないようにこっそり進めば大丈夫だよ。・・・明彦は歩伏前進じゃないとダメかな」
隠れるにはかなり微妙な高さとも言えるブロック塀。
弘樹達が幼少時代にここを知ったのは、たまたま野から降りてきたキツネを追い掛けて偶然にもこの中庭を通り道にしていたのを目撃したからである。
「えー、膝汚れちゃうじゃないの」
「しょうがないよ、危ない橋を渡るんだから。だからさっきやめとけば良かったって言って___」
「ううう、時間もあんまり無いんだしこうなったらもう行くしかないじゃないの!」
彼女の言う通り、今から引き返して回り道をすると確実に遅刻するだろう。
もし見つかってしまってヤクザのおじさん方に色々と怖いことをされるのよりはマシかもしれないが、あかりは決定を覆す気はなさそうだ。
「あかりーん、ひろぽーん、もたもたしてると遅刻しちゃうよー」
たじろぐ二人とは対照的に、由佳は躊躇無く茂みの奥へと進んでいく。
明彦も慣れた感な余裕の表情だ。
「こういうスリルはたまんねぇよな、な?弘樹、お前もそう思うだろ」
「・・・ドキドキを通り越してヒヤヒヤしてるよ」
「なっははははは、男がキモのちっちぇ事言ってんじゃねぇよ」
どうやら性格は昔とほとんど変わっていないらしい。今も悪ガキ根性が旺盛なようだ。
___________________________________
一方、彼等がてんやわんやしてる敷地内、
その一角のとある和室にて。
「もう高校生・・・か」
虚空を見つめながら、溜め息をつく少女が一人。
畳の上で正座をしたまま彼女は呟く。
「また同じ事の繰り返しだろうに。行ったところで、どうせつまらない」
歳は昨年の12月に15になったばかり。
髪は腰まで届くロングヘアー。
やや痩せた体型に氷の様な冷たい目つき。
そして、名前は「ユキ」
その部屋は彼女がいるだけで冷たい空気を漂わせていた。
何もかも凍りついたかのような白く透き通った肌が、静寂さに更に拍車をかけていた。
「ユキー、早くしなさいよー」
ふとふすまの向こうから彼女を呼ぶ声が響く。
声の主を待たせるわけにもいくまいと、ユキと呼ばれた少女は立ち上がり、胸元のスカーフを絞めなおした。
「姉さん、今行く」
___________________________________
ヤクザ「葵家」の中庭はかなり広大である。
が、その中庭が黒いスーツを着た人間達で埋め尽くされていた。
「うひゃーついてないねー、ヤクザのおっちゃん達朝礼の真っ最中だよー」
物陰からこっそりと様子を覗いた由佳から悪い知らせが届く。
「こりゃ見つかったらタダじゃすまねぇなあ」
頭をポリポリとかく明彦。
「・・・どうする?、あかり」
「うううう、怖いけど行くしかないでしょ!」
やっぱり行かなきゃダメらしい。
「所で誰が先に行くの?」
「はいはーい!由佳がいっちばーん」
「ちょっと、由佳本気!?」
「モチのロンだよ。あかりん怖いんだったら置いてっちゃうよ〜」
「そうじゃなくてっ」
あかりが言いたいのは別の心配らしい。
「女の子が四つんばいになったらパンツ見えちゃうじゃないの!」
「・・・あー、そういえば由佳とあかりはスカートだったね」
「不可抗力だ、なんて言わせないわよ。男が先!女の子が後!」
「ああ、その点なら問題ねぇぞ」
「「??」」
明彦は親指を由佳に向ける。
「コイツ、ぱんつ穿いてねぇから」
ブフゥッ_____
・・・と、弘樹が吹いた
「お兄ちゃーん、そういう言い方は誤解を招くからやめようね〜」
赤面しまくる弘樹と、動揺しまくるあかりを見て、明彦はしてやったりという顔でニヤニヤしていた。
「確かにパンツは穿いてないけど、代わりにスパッツ穿いてるからね。・・・ひろぽんもしかして期待した?」
「・・・・・・・」
顔を真っ赤にしたまま弘樹は首をぶんぶんと振った。
「なぁーんだ、ちょっとがっかり」
「仕方ねーだろ、その幼児体型じゃいくら弘樹でも萌えるに萌えられないだr___」
ずどむっ。
コークスクリューを加えた由佳のボディーブローが明彦のみぞおちを直撃。
そのまま大きな体を「く」の字にして地面で悶絶しながら跳ねていた。南無。
「うわぁ、なんか明彦、陸に上がったボウフラみたい」
「・・・あかり、もうちょっと優しい言葉かけてあげようね?」
まあ、今のは明彦が悪いかもしれない。
「話が逸れたけど、由佳が先頭でいいとしても私は絶対最後だからね」
「そんじゃあ、由佳が先頭で次に弘樹、3番目が俺様で、最後があかりな。・・・ぬぐぐ、由佳テメェ後で泣かすから覚えとけ」
「べーだ。お兄ちゃんなんて馬にバッファローに跳ねられて死んじゃえばいいんだよーだ。それじゃひろぽん早く行こーよ♪」
由佳ははしゃぎながら弘樹の腕を引っ張っていく。
「・・・って、なんで2番目?」
「あぁ?決まってんだろ。もし何かあった時、お前ら二人が先に逃げてくれりゃあ俺があかり担いで走るだけで済むんだよ。由佳が先頭であかりが最後っていうなら必然的にこの順番だろ。それとも弘樹、お前あかり担いだままヤクザから逃げ切れんのか?」
明彦はちゃんと考えて言ったらしい。
「兄」という立場上、周りの人間の事も視野に入れているのかもしれない。
悪ガキ根性は残っていても、昔よりは大人になっているようだ。
「大丈夫よ。私にもしもの事があったら、まず弘樹が犠牲になるから」
「・・・明彦、頼むわ」
青ざめた顔で弘樹は懇願した。
___________________________________
「雪、忘れ物は無い?ハンカチ持った?ニン○ンドー○S持った?」
「姉さん、何故入学式にそんな物を持っていかなければいけない?」
屋敷内の廊下を歩きながら、雪とその姉はおしゃべりをしていた。
「ジョークに決まってるでしょう。でも理事長の話なんて聞いても暇なだけだと思うわね。あんたの場合、特に」
「でも姉さんそれに嫌でも付き合わなければいけないんだろう」
「ま、仕事だからね」
その時、突如横の部屋から組の人間が飛び出してきた。
「姉御!!ちょっと今の聞き捨てなりませんぜ!!」
他の者たちは黒いスーツだったが、その男は白いスーツを着込みサングラスの奥で眼光を光らせていた。組の中でも少数の幹部クラスの人間である。
「何よ山田、あたしに説教でもするつもり?」
「姉御!!なんでピーエ○ピーとモ○ハンを持たせないんですかい!!最近の高校生では常識___」
パァンッ!
幹部山田の頭に、どこから持ち出したのかスリッパ(便所用)がクリーンヒットした。
「あんた若い子にどういう教育してんのよ!ゲームしたけりゃ家帰ってからやんなさい!」
「せやけど姉御、ウチの娘が『お父さんゲーム下手すぎ』て言うて相手にしてくれへんのや。今の時代ゲームも強うなければいかんのです!」
「いいトシした大人がゲームごときでグダグダ言ってんじゃないよ!」
「姉さん」
見かねた雪が制止する。
「山田に悪気は無いんだ。ただ本当にダメが付くほど下手糞なだけなんだ。だからそれ以上叱らないでやってくれ」
「うおおーんっ!!!あんまりだぁあーーーーー」
幹部、山田汰治朗(46)、泣きながら退場。
「あ、山田!何処へ____」
「・・・あんたえげつないわねー、さすがあたしの妹」
「姉さんがあんまり酷く言うから・・・」
「あんたそれ本気で言ってる?」
妹の天然さにやや呆れていた姉であった。
二人はそのまま廊下を抜け、靴を履き替えたあと中庭へと向かっていった。
既にそこでは組員全員が集まり、これから朝礼を始めようとしていたのだった。
「雪お嬢、組員一同お見送り致しやす」
そしてその朝礼の最中、中庭を通り抜けようとする部外者4名。
先頭、由佳。
2番、弘樹。
3番、明彦。
最後尾、あかり。
以上が、高さ40センチの塀に隠れて行軍中であった。
「ヤクザのおっちゃん全員いるみたいだね。中庭以外から発見されるってゆー危険は無さそーだよ」
周囲をキョロキョロしながら由佳は小動物のようのそそくさと進んでいく。
「・・・由佳、あんまり頭動かさない方が」
いくら小柄とはいえ、少しでも頭をあげようものなら見つかってしまう危険性がある。
「おーい弘樹、お前だって余所見しながらじゃねぇか。早く進めって、後ろつかえてんだから」
明彦が催促するも、弘樹は正面を向こうとはしない。というよりも向けないでいる。
「・・・・・・・」
由佳のスカートはかなり短い。
おそらく動きやすいとの理由からだろうか、ほとんど飾りのような長さしかない。スパッツだから見られても問題無いとはいうものの、「パンツを穿いてない」と言われるとさすがに直視できない。当の本人は全く気にかけていないが、そのすぐ後ろを進む弘樹はそうもいかなかった。
「・・・・・・・・・・・」
とりあえず気を紛らわせようと、顔を横に向けながら前進する事にした。
・・・ブロックの造形の隙間から、黒服の男達が何人も立っているのが見える。
小さい頃は「こわいおじさんいっぱいだぁ」とか言っていたが、この歳になってからだと洒落にならない。
そんな事を考えていると、ヤクザ達の話し声が耳に入ってきた。
「雪お嬢、制服姿もお似合いですぜ」
「ありがとう、長谷川」
「お嬢、鞄お持ちしやした」
「ああ、ありがとう篠原」
「お嬢!!テラモエス!!」
「近藤、黙れ。色んな意味で恥ずかしい」
野太い声に混じって女の子の声が聞こえる。
喋り方は男っぽいものの、チラリと女の子の制服姿が見えて確信した。
「・・・あれ、あの子・・・・・・・・まさか水白河の制服?」
彼女が着ていたのは間違いなく、あかりや由佳と同じタイプの制服だった。
「・・・それに」
彼女の声を、弘樹はどこかで聞いたことがあった。
以前、何処かで、この喋り方で、冷たく透き通った声。
だがそれはすぐには思い出せなかった。
(・・・誰だっけ)
つい最近では無いのは確かである。
しかし、何故だろうか。その声は脳裏に深く焼きついている。
しかし顔が思い出せない。
「・・・・・・・・・」
そう思いふけって塀の下を進んでいると、突然弘樹の顔が何かに当たった。
「ひょわっ」
ほぼ同時に前を進んでいた由佳が小さな悲鳴をあげる。
余所見をしていたたせいだろう。
何がぶつかったのかを確認するため、体制を戻そうと顔が当たった先に手をやると・・・
何か弾力のあるものに触れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
視点を戻してから数秒間。弘樹は混乱して自分の置かれた状況を理解できなかった。
その間、由佳はプルプルと震え出し___怒りが頂点に達すると同時に弘樹を全力で蹴り上げた。
「ひろぽんのすけべーーーーー!!」
ドガァッという音と共に弘樹の体が宙を舞った。
「ぶgrこgあせfじこ」
人生で初めて、きりもみ回転しながら飛んだ弘樹であった。
「わ、バカ!見つかるだろが!」
落ちてきた弘樹を抱きとめ、何とか気付かれまいと身を隠す明彦。
「今のはひろぽんのせいだからね!」
「いいから静かにしてろ」
「ちょっと、何かあったの?明彦が邪魔で前が全然見えなくて___」
後ろのほうであかりが心配そうな声をかけてくる。
「何でもねぇよ。弘樹が健全な男子だった、て事がわかっただけだよ」
「何それ?」
「あかり、弘樹は地雷を踏んじまってだな」
「だから何よそれ!?」
「とりあえずコイツは使い物にならないから引きずっていくからな」
「え?、ええ?」
気絶した弘樹の顔にはしっかりと靴の跡が残っていた。
「どうした姉さん?」
「ねぇ、今何か聞こえなかった?」
葵組の姉御こと雪の姉は、遠くで何か変な音がした事に気がついていた。
「何かこう、”あべし”とか”ひでぶ”とかそんな叫び声が聞こえた気がしたんだけどね」
「私には聞こえなかったが・・・」
「そっか、じゃあたしの気のせいかもね」
「またキツネでも出たんじゃないですかい、姉御」
「そうかもね。・・・キツネはあんなグロい鳴き声しなかった気がしたけど」
「・・・・・・・・・・・」
ヤクザがこちらに注意を向けていた間、4人は息を殺してやり過ごした。
内、1名はへんじがないただのしかばねと化していたが。
「由佳、これはひどいだろ」
「悪いのはひろぽんだもん。もしこれが、由佳じゃなくてあかりんだったらその場でジェノサイドだよ」
「確かに」
「ちょっとちょっと、さっきから何の話なのよ。何で弘樹がこんなマヌケな顔で気絶してるのよ!?」
「弘樹はちょっと冒険したい年頃だったんだよ」
「ワケわかんないわよそれ」
___そんなこんなで4人は難関である近道に成功したのであった。
しかしそれは近道ができたというだけであって、気付かれていないとは同義ではなかった。
「姉御、いいんですかい、あのガキ共見逃して・・・。もしどこかの組の回しモンだったら___」
「どこの組って、そりゃあ水白校の1年生のどこかの組に入るでしょうね。いいから放っておきなよ。それに雪に余計な気苦労かけさせたくないしね」
「へい、わかりやした」
弘樹たちが抜けていった裏道を眺め、雪の姉はニヤニヤしながら呟いた。
「ほんっと、後が楽しみね」
本当の事を言うと、彼女は中庭に来た時点で弘樹達の存在に気付いていた。
姉御と呼ばれているのは伊達ではないらしい。
幹部の男達も空気を呼んで、わざとキツネの話をしてはぐらかした。
「姉御、車の準備ができておりますぜ」
「うん、今行くわ。じゃあ山田、後は頼むわよ」
「分りやした、留守はお任せくだせぇ姉御」
「そうじゃなくて、”姉御”じゃないでしょう?」
長い髪をたくし上げ、ふっと小さく鼻で笑った。
何を言われたのかと一瞬困惑した山田だったがすぐに意味を理解し、彼女に見送りの言葉を伝えた。
「行ってらっしゃいませ、葵”先生”」
「よろしい」
彼女は笑顔で返し、OLの様な服の上から更に白衣の上着を着込んだ。
その背中には縦4文字でこう書かれている。
生
活
指
導
彼女の名は「葵烈火」。若干19歳にして水白河の新任の教員である。
妹とはまるで正反対の名前と雰囲気を持ち、これから始まるであろう二回目の高校生活に胸を躍らせていた。
「可愛い後輩共、待ってなさい。このあたしが最っ高に楽しい学園生活にしてあげるわよ」
とは言ってもそこはヤクザの縄張りでもある。
「誰もいないよな・・・いないよな? な?」
「お兄ちゃん、目に見えるものが全てじゃないんだよ。・・・そう、心の目で見るんだよ!さすれば道は開かれん!」
様子を見ながら先行する明彦と由佳。
「弘樹、ハリセン持ってる?」
「そんなもの持ってるワケが無いんだけど・・・何に使うつもり?」
「そこのバカ兄妹にツッコミ入れたいんだけど」
「・・・・・」
ここはあかりにツッコむべきなのだろうかと、ひと思案して彼女の主張を無言でスルーする弘樹。
「ところであんた達、本当に水白河を受験したの?」
「もーあかりん失礼だねー、お兄ちゃんとひろぽんはともかく、由佳が落ちるワケないじゃん」
「その兄をも恐れぬ不届きな発言、今ここで粛清したろか」
「・・・由佳と明彦、確か俺にテストの点数で勝った事無かったよね?」
「まあ、弘樹は凡人並の脳味噌があったからなんとかなったけど」
その言葉は褒めてるのだろうか、それともけなしてるんだろうか。
「おいおい、まさか俺らを脳味噌まで筋肉だとでも思ってんのかよ?」
「そうだよあかりん、この知能の欠片も無いプロテインが肥大化しまくった類人猿と由佳を一緒にしちゃダメだよー」
「お前はその類人猿と双子であるという事実を受け入れなければならんという過酷な運命にあるんだぞ」
「いいいいやぁぁああああああああああ」
「わかった。裏口入学ね」
「何だその躊躇なく確信した目は!?オマエ失礼にもほどがあるぞ!」
「そりゃあ転校するまでみんな一緒だったしね。どう考えてもあの成績で___」
「もー、話が進まないから説明しちゃうよ。あたし達スポーツの方で結構いい所までいって、水白河に推薦入学で入ったんだよ」
「そういうこった。理解したか? それにちゃんと筆記試験も受けてきてるからな」
「・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「うわーい、すっごい疑いの眼差し」
確かにこの二人の運動能力を考慮すればあってもおかしくない話である。
これだけ突出した人材は、どこの運動部でも咽から手が出るほど欲しがるだろう。
「そんな事より、急がないと遅刻しちゃう」
「うわーい、俺らの苦労がそんな事扱いされやがりました」
「・・・明彦、積もる話は学校についてからしようよ。廊下でバケツ持って昔話したくないし」
「なはは、確かにそりゃごめんだ」
「はーい、それじゃみんな由佳についてきてねー。遅刻ギリギリ組一行をご案内いたしまーす」
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「おーおー、なっつかしーぜ♪このタヌキまだ置いてんだ」
「ホントだー」
先行する橘兄妹は、何かを見つけヤクザ屋さんの厳格な正門____の、脇にある茂みへと駆け出していった。
「タヌキ?」
「ああ、たぶんタヌキの焼き物だよ。小さい頃にかくれんぼしてた時によく裏に隠れてたりしたからね。そっか、まだ置いてあったんだ」
幼少の思い出に浸る弘樹をよそに、あかりはヤクザの玄関に下げられた名札をまじまじと見つめていた。
『葵組』
「小さい頃のあんた達って・・・一体何やらかしてたのよ。命知らずよねえ・・・」
「あはは・・・今じゃ考えられないよね。・・・・考えたくないかも」
子供にはヤクザなんてものは何の事なのか理解できないだろう。自分より大きな人間は皆おじさんおばさんである。
しかし成長した今となっては、命知らずな所業がてんこ盛りだった過去を振り返り血の気が引いたりする。
「ええと、そのタヌキの裏側から茂みを抜けて、中庭を通り抜けれるんだよ」
「中庭って、人が居たらどうするのよ!?」
「だから見つからないように___」
「ねえ弘樹、私にもしもの事があったら・・・代わりに生贄になってくれるわよね?」
「いやいやいやいや」
生贄ってなんすかそれ。
「中庭にあるブロック塀は四つんばいになっていけばギリギリ隠れられる高さだから、見つからないようにこっそり進めば大丈夫だよ。・・・明彦は歩伏前進じゃないとダメかな」
隠れるにはかなり微妙な高さとも言えるブロック塀。
弘樹達が幼少時代にここを知ったのは、たまたま野から降りてきたキツネを追い掛けて偶然にもこの中庭を通り道にしていたのを目撃したからである。
「えー、膝汚れちゃうじゃないの」
「しょうがないよ、危ない橋を渡るんだから。だからさっきやめとけば良かったって言って___」
「ううう、時間もあんまり無いんだしこうなったらもう行くしかないじゃないの!」
彼女の言う通り、今から引き返して回り道をすると確実に遅刻するだろう。
もし見つかってしまってヤクザのおじさん方に色々と怖いことをされるのよりはマシかもしれないが、あかりは決定を覆す気はなさそうだ。
「あかりーん、ひろぽーん、もたもたしてると遅刻しちゃうよー」
たじろぐ二人とは対照的に、由佳は躊躇無く茂みの奥へと進んでいく。
明彦も慣れた感な余裕の表情だ。
「こういうスリルはたまんねぇよな、な?弘樹、お前もそう思うだろ」
「・・・ドキドキを通り越してヒヤヒヤしてるよ」
「なっははははは、男がキモのちっちぇ事言ってんじゃねぇよ」
どうやら性格は昔とほとんど変わっていないらしい。今も悪ガキ根性が旺盛なようだ。
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一方、彼等がてんやわんやしてる敷地内、
その一角のとある和室にて。
「もう高校生・・・か」
虚空を見つめながら、溜め息をつく少女が一人。
畳の上で正座をしたまま彼女は呟く。
「また同じ事の繰り返しだろうに。行ったところで、どうせつまらない」
歳は昨年の12月に15になったばかり。
髪は腰まで届くロングヘアー。
やや痩せた体型に氷の様な冷たい目つき。
そして、名前は「ユキ」
その部屋は彼女がいるだけで冷たい空気を漂わせていた。
何もかも凍りついたかのような白く透き通った肌が、静寂さに更に拍車をかけていた。
「ユキー、早くしなさいよー」
ふとふすまの向こうから彼女を呼ぶ声が響く。
声の主を待たせるわけにもいくまいと、ユキと呼ばれた少女は立ち上がり、胸元のスカーフを絞めなおした。
「姉さん、今行く」
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ヤクザ「葵家」の中庭はかなり広大である。
が、その中庭が黒いスーツを着た人間達で埋め尽くされていた。
「うひゃーついてないねー、ヤクザのおっちゃん達朝礼の真っ最中だよー」
物陰からこっそりと様子を覗いた由佳から悪い知らせが届く。
「こりゃ見つかったらタダじゃすまねぇなあ」
頭をポリポリとかく明彦。
「・・・どうする?、あかり」
「うううう、怖いけど行くしかないでしょ!」
やっぱり行かなきゃダメらしい。
「所で誰が先に行くの?」
「はいはーい!由佳がいっちばーん」
「ちょっと、由佳本気!?」
「モチのロンだよ。あかりん怖いんだったら置いてっちゃうよ〜」
「そうじゃなくてっ」
あかりが言いたいのは別の心配らしい。
「女の子が四つんばいになったらパンツ見えちゃうじゃないの!」
「・・・あー、そういえば由佳とあかりはスカートだったね」
「不可抗力だ、なんて言わせないわよ。男が先!女の子が後!」
「ああ、その点なら問題ねぇぞ」
「「??」」
明彦は親指を由佳に向ける。
「コイツ、ぱんつ穿いてねぇから」
ブフゥッ_____
・・・と、弘樹が吹いた
「お兄ちゃーん、そういう言い方は誤解を招くからやめようね〜」
赤面しまくる弘樹と、動揺しまくるあかりを見て、明彦はしてやったりという顔でニヤニヤしていた。
「確かにパンツは穿いてないけど、代わりにスパッツ穿いてるからね。・・・ひろぽんもしかして期待した?」
「・・・・・・・」
顔を真っ赤にしたまま弘樹は首をぶんぶんと振った。
「なぁーんだ、ちょっとがっかり」
「仕方ねーだろ、その幼児体型じゃいくら弘樹でも萌えるに萌えられないだr___」
ずどむっ。
コークスクリューを加えた由佳のボディーブローが明彦のみぞおちを直撃。
そのまま大きな体を「く」の字にして地面で悶絶しながら跳ねていた。南無。
「うわぁ、なんか明彦、陸に上がったボウフラみたい」
「・・・あかり、もうちょっと優しい言葉かけてあげようね?」
まあ、今のは明彦が悪いかもしれない。
「話が逸れたけど、由佳が先頭でいいとしても私は絶対最後だからね」
「そんじゃあ、由佳が先頭で次に弘樹、3番目が俺様で、最後があかりな。・・・ぬぐぐ、由佳テメェ後で泣かすから覚えとけ」
「べーだ。お兄ちゃんなんて馬にバッファローに跳ねられて死んじゃえばいいんだよーだ。それじゃひろぽん早く行こーよ♪」
由佳ははしゃぎながら弘樹の腕を引っ張っていく。
「・・・って、なんで2番目?」
「あぁ?決まってんだろ。もし何かあった時、お前ら二人が先に逃げてくれりゃあ俺があかり担いで走るだけで済むんだよ。由佳が先頭であかりが最後っていうなら必然的にこの順番だろ。それとも弘樹、お前あかり担いだままヤクザから逃げ切れんのか?」
明彦はちゃんと考えて言ったらしい。
「兄」という立場上、周りの人間の事も視野に入れているのかもしれない。
悪ガキ根性は残っていても、昔よりは大人になっているようだ。
「大丈夫よ。私にもしもの事があったら、まず弘樹が犠牲になるから」
「・・・明彦、頼むわ」
青ざめた顔で弘樹は懇願した。
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「雪、忘れ物は無い?ハンカチ持った?ニン○ンドー○S持った?」
「姉さん、何故入学式にそんな物を持っていかなければいけない?」
屋敷内の廊下を歩きながら、雪とその姉はおしゃべりをしていた。
「ジョークに決まってるでしょう。でも理事長の話なんて聞いても暇なだけだと思うわね。あんたの場合、特に」
「でも姉さんそれに嫌でも付き合わなければいけないんだろう」
「ま、仕事だからね」
その時、突如横の部屋から組の人間が飛び出してきた。
「姉御!!ちょっと今の聞き捨てなりませんぜ!!」
他の者たちは黒いスーツだったが、その男は白いスーツを着込みサングラスの奥で眼光を光らせていた。組の中でも少数の幹部クラスの人間である。
「何よ山田、あたしに説教でもするつもり?」
「姉御!!なんでピーエ○ピーとモ○ハンを持たせないんですかい!!最近の高校生では常識___」
パァンッ!
幹部山田の頭に、どこから持ち出したのかスリッパ(便所用)がクリーンヒットした。
「あんた若い子にどういう教育してんのよ!ゲームしたけりゃ家帰ってからやんなさい!」
「せやけど姉御、ウチの娘が『お父さんゲーム下手すぎ』て言うて相手にしてくれへんのや。今の時代ゲームも強うなければいかんのです!」
「いいトシした大人がゲームごときでグダグダ言ってんじゃないよ!」
「姉さん」
見かねた雪が制止する。
「山田に悪気は無いんだ。ただ本当にダメが付くほど下手糞なだけなんだ。だからそれ以上叱らないでやってくれ」
「うおおーんっ!!!あんまりだぁあーーーーー」
幹部、山田汰治朗(46)、泣きながら退場。
「あ、山田!何処へ____」
「・・・あんたえげつないわねー、さすがあたしの妹」
「姉さんがあんまり酷く言うから・・・」
「あんたそれ本気で言ってる?」
妹の天然さにやや呆れていた姉であった。
二人はそのまま廊下を抜け、靴を履き替えたあと中庭へと向かっていった。
既にそこでは組員全員が集まり、これから朝礼を始めようとしていたのだった。
「雪お嬢、組員一同お見送り致しやす」
そしてその朝礼の最中、中庭を通り抜けようとする部外者4名。
先頭、由佳。
2番、弘樹。
3番、明彦。
最後尾、あかり。
以上が、高さ40センチの塀に隠れて行軍中であった。
「ヤクザのおっちゃん全員いるみたいだね。中庭以外から発見されるってゆー危険は無さそーだよ」
周囲をキョロキョロしながら由佳は小動物のようのそそくさと進んでいく。
「・・・由佳、あんまり頭動かさない方が」
いくら小柄とはいえ、少しでも頭をあげようものなら見つかってしまう危険性がある。
「おーい弘樹、お前だって余所見しながらじゃねぇか。早く進めって、後ろつかえてんだから」
明彦が催促するも、弘樹は正面を向こうとはしない。というよりも向けないでいる。
「・・・・・・・」
由佳のスカートはかなり短い。
おそらく動きやすいとの理由からだろうか、ほとんど飾りのような長さしかない。スパッツだから見られても問題無いとはいうものの、「パンツを穿いてない」と言われるとさすがに直視できない。当の本人は全く気にかけていないが、そのすぐ後ろを進む弘樹はそうもいかなかった。
「・・・・・・・・・・・」
とりあえず気を紛らわせようと、顔を横に向けながら前進する事にした。
・・・ブロックの造形の隙間から、黒服の男達が何人も立っているのが見える。
小さい頃は「こわいおじさんいっぱいだぁ」とか言っていたが、この歳になってからだと洒落にならない。
そんな事を考えていると、ヤクザ達の話し声が耳に入ってきた。
「雪お嬢、制服姿もお似合いですぜ」
「ありがとう、長谷川」
「お嬢、鞄お持ちしやした」
「ああ、ありがとう篠原」
「お嬢!!テラモエス!!」
「近藤、黙れ。色んな意味で恥ずかしい」
野太い声に混じって女の子の声が聞こえる。
喋り方は男っぽいものの、チラリと女の子の制服姿が見えて確信した。
「・・・あれ、あの子・・・・・・・・まさか水白河の制服?」
彼女が着ていたのは間違いなく、あかりや由佳と同じタイプの制服だった。
「・・・それに」
彼女の声を、弘樹はどこかで聞いたことがあった。
以前、何処かで、この喋り方で、冷たく透き通った声。
だがそれはすぐには思い出せなかった。
(・・・誰だっけ)
つい最近では無いのは確かである。
しかし、何故だろうか。その声は脳裏に深く焼きついている。
しかし顔が思い出せない。
「・・・・・・・・・」
そう思いふけって塀の下を進んでいると、突然弘樹の顔が何かに当たった。
「ひょわっ」
ほぼ同時に前を進んでいた由佳が小さな悲鳴をあげる。
余所見をしていたたせいだろう。
何がぶつかったのかを確認するため、体制を戻そうと顔が当たった先に手をやると・・・
何か弾力のあるものに触れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
視点を戻してから数秒間。弘樹は混乱して自分の置かれた状況を理解できなかった。
その間、由佳はプルプルと震え出し___怒りが頂点に達すると同時に弘樹を全力で蹴り上げた。
「ひろぽんのすけべーーーーー!!」
ドガァッという音と共に弘樹の体が宙を舞った。
「ぶgrこgあせfじこ」
人生で初めて、きりもみ回転しながら飛んだ弘樹であった。
「わ、バカ!見つかるだろが!」
落ちてきた弘樹を抱きとめ、何とか気付かれまいと身を隠す明彦。
「今のはひろぽんのせいだからね!」
「いいから静かにしてろ」
「ちょっと、何かあったの?明彦が邪魔で前が全然見えなくて___」
後ろのほうであかりが心配そうな声をかけてくる。
「何でもねぇよ。弘樹が健全な男子だった、て事がわかっただけだよ」
「何それ?」
「あかり、弘樹は地雷を踏んじまってだな」
「だから何よそれ!?」
「とりあえずコイツは使い物にならないから引きずっていくからな」
「え?、ええ?」
気絶した弘樹の顔にはしっかりと靴の跡が残っていた。
「どうした姉さん?」
「ねぇ、今何か聞こえなかった?」
葵組の姉御こと雪の姉は、遠くで何か変な音がした事に気がついていた。
「何かこう、”あべし”とか”ひでぶ”とかそんな叫び声が聞こえた気がしたんだけどね」
「私には聞こえなかったが・・・」
「そっか、じゃあたしの気のせいかもね」
「またキツネでも出たんじゃないですかい、姉御」
「そうかもね。・・・キツネはあんなグロい鳴き声しなかった気がしたけど」
「・・・・・・・・・・・」
ヤクザがこちらに注意を向けていた間、4人は息を殺してやり過ごした。
内、1名はへんじがないただのしかばねと化していたが。
「由佳、これはひどいだろ」
「悪いのはひろぽんだもん。もしこれが、由佳じゃなくてあかりんだったらその場でジェノサイドだよ」
「確かに」
「ちょっとちょっと、さっきから何の話なのよ。何で弘樹がこんなマヌケな顔で気絶してるのよ!?」
「弘樹はちょっと冒険したい年頃だったんだよ」
「ワケわかんないわよそれ」
___そんなこんなで4人は難関である近道に成功したのであった。
しかしそれは近道ができたというだけであって、気付かれていないとは同義ではなかった。
「姉御、いいんですかい、あのガキ共見逃して・・・。もしどこかの組の回しモンだったら___」
「どこの組って、そりゃあ水白校の1年生のどこかの組に入るでしょうね。いいから放っておきなよ。それに雪に余計な気苦労かけさせたくないしね」
「へい、わかりやした」
弘樹たちが抜けていった裏道を眺め、雪の姉はニヤニヤしながら呟いた。
「ほんっと、後が楽しみね」
本当の事を言うと、彼女は中庭に来た時点で弘樹達の存在に気付いていた。
姉御と呼ばれているのは伊達ではないらしい。
幹部の男達も空気を呼んで、わざとキツネの話をしてはぐらかした。
「姉御、車の準備ができておりますぜ」
「うん、今行くわ。じゃあ山田、後は頼むわよ」
「分りやした、留守はお任せくだせぇ姉御」
「そうじゃなくて、”姉御”じゃないでしょう?」
長い髪をたくし上げ、ふっと小さく鼻で笑った。
何を言われたのかと一瞬困惑した山田だったがすぐに意味を理解し、彼女に見送りの言葉を伝えた。
「行ってらっしゃいませ、葵”先生”」
「よろしい」
彼女は笑顔で返し、OLの様な服の上から更に白衣の上着を着込んだ。
その背中には縦4文字でこう書かれている。
生
活
指
導
彼女の名は「葵烈火」。若干19歳にして水白河の新任の教員である。
妹とはまるで正反対の名前と雰囲気を持ち、これから始まるであろう二回目の高校生活に胸を躍らせていた。
「可愛い後輩共、待ってなさい。このあたしが最っ高に楽しい学園生活にしてあげるわよ」
11/02/03 22:15更新 / レヴィン・ナイル