戦記 OK
箝口令発動より一週間と三日が過ぎた昼下がりの時だった。
「企業社会ルートを通る物資の値上がりの仕方が異常に加速してるらしいぞ」
ナストロファージの整備中、それを聞いたエグが顔を上げる。
「企業世界で何かあったのか?」
「現場にいるエグさんの方が物知りじゃないの?」
「そりゃ事情はあるしな。
とは言え、知らない事も多い。
謎が多いからな、こっち視点だと」
「ああ、そゆ事ね」
そんな事を言っていると、不意に後ろが気になった。
遠くから微かに聞こえるブースト音を頼りに、音源を探すと、二機のACが模擬戦区域で戦っているのが見えた。
しかし様子が可笑しい。
先程からぶつかり合ってばかりだ。
ブレードの近接戦か、とも思ったが何だかブレード攻撃が多過ぎる気がしてならない―――のではなく、良く見ると『格闘しかしていない』のが分かった。
「おい…あれは何だ?」
「ああ、何か戦ってますね――って、何しれっとコクピットのハッチ解放してるんですか!?」
「ちょっと、様子を見ようかと」
「ああ、そうですか…。
でも駄目です、お願いだから誤解を生む行動を慎んで下さい」
「だって、さっきからブレードで斬ってばかりなんだぞ?
それにレーザーブレードらしかぬ挙動だから…」
「は、はえ?
何言ってるんです、挙動って?」
答えずに頭部カメラの映像機能だけを始動させるエグ。
一旦シートユニットが中に入り込んでハッチが閉まるも、数分すると再びハッチが解放され、それに合わせてシートユニットが外に出る。
「映像をリンクさせる、管制塔に連絡を」
「はい」
ガキン、ガキン!!
二機のACがブレードをぶつけ合う。
腕が腕部バズーカのスカルフォックスは、俗に云う『実刀ブレード』なる物を腕と一体化させた、所謂『デュアルブレード』タイプに換装してある。
只、普通『デュアルブレード』と言えば、レーザーブレードが一体化している物だ。
通常腕部なら、腕に直接付けるハードポイントと手で握る所と最低二か所は確保出来る。
勿論、片腕に二つも装備するレイヴンは、左右のバランスが悪化する事から、火力重視や機体構成上の火力補助、或いは大和市民の若い世代で流行っているロボットゲームから引用されるガチタン等のタイプのAC(そのゲームにACが登場する訳ではない)だけである。
火力補助、火力特化の二つしかない所なら、手持ち式レーザーブレードと腕に直接装着する何らかの火器が普通であり、これを殺してしまう武器腕は構造の簡単さ故に、脆く高火力な物が顔を揃えている。
勿論、デュアルブレードも、それ故に出力伝達に無駄がなく、通常の装着式、手持ち式と比べて効率良くエネルギー波を叩き付けられるが為に、一般的なそれより遥かに高威力なレーザーブレードとして、名を売っているのだ。
それを態々斬る時に攻撃側にも衝撃が伝わり、尚且つ刃毀れしたら装甲兵器相手に碌な攻撃力が発揮出来ない実刀型は、余程腕の良い職人が揃っている所でないと、装備する意味は勿論、そんな物をデュアルブレード化して効率が良くなる筈もない。
相手は軽量二脚の通常軽量腕部、高機動戦を想定して空気抵抗を減らして減った装甲を補う為の多角反射式迎撃砲(コアのミサイル迎撃用機銃のレーザー版で、此方は銃身を持たず、照射装置自体を稼動させる事で角度調整を行うタイプのレーザー機銃の様な物)を胸部に内蔵した軽量なコア、高速で移動する物体や地形を精密に認識する、人で言えば動体視力を高めたタイプの、高速戦闘想定型頭部、そして―――――――――――
―――刃にカバーの付いた日本刀。
ドォウッ!!
脚部に内蔵された特殊機構によって極限迄高められた脚力によって機体が突き進む。
因みにスカルフォックスのデュアルブレードもカバー付きである。
ズガンと爆音染みた足音を轟かせながら、姿勢を低くして飛び込む二脚のAC。
AC本来のモーションデータしかインストールしていないスカルフォックスが攻撃を裁く為、ノーロックモードにして瞬時に薙ぎ払いを開始する。
「ぬうっ!!」
コクピット内でシャドーミラが苦しげに声を出す。
隙を見てはコンソールやコンパターでモーションデータを更新、追加しているのだが、肝心の呼び出し入力を設定出来る程、手が素早く動いてくれない。
何より、気迫が凄まじい。
(何とか攻撃時のダッシュを操作系に組み込めはしたがッッ!!)
機体モジュールユニット表示を確認する。
右肘関節にダメージが増加、危険状態だ。
(限界迄試すとは言われたが、このコロニーは一体何なんだ!!
拙いぞ、これ以上受けきれない!
如何すれば良いんだ!?)
振り下ろしを裁く。
(見えたっ、今だ!)
メインブースターをグラインド出力で噴射、左ブレードを物凄い勢いで突き付ける。
「ぬうううううううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
アスファルトを砕く摩擦、熱で真っ白な煙が立ち込め、周囲を熱風で晒し、視界を遮る。
ガァオン!!
酷い音と共にシャドーミラは衝撃を感じ、右サイドブースターのグラインド噴射で離脱を図る。
『スカルフォックス、右ブレードにダメージ。
使用不可、破壊判定を下します』
そんな声が通信機から聞こえた。
「やられた!?
お、おおお!?」
右サイドモニターを見やる。
煙が不自然に膨れ上がり、陰の背後に発光を発見する。
直後に躍り出た軽量二脚ACが日本刀を構え、オーバードブーストで刀を叩き付けた。
――――――――――――――――ガァアンッッ!!!
「ぬううう、うっ!!」
【コア損傷 右腕部運動制御装置異常発生】
【コア損傷 頭部情報取得接続システム異常発生】
【右腕異常発生】
【左腕特殊兵装異常発生】
次々と異常を告げるアラートが表示される。
【機体ダメージ限界値突破 強制停止 帰還ルートを検索します】
【メインシステム 通常モードに移行します】
夕方、漸く模擬戦の情報を得る事が出来た。
夕食の香りで満たされた食堂と言えば、実刀ブレードの打ち合いの話題で皆魅了されていた。
「剣豪の時代が来た!」
「レーザーブレードじゃ勢い付けても威力変わらないからなぁ。
余り速すぎると火力が発揮出来ない事もあるし」
レーザーブレードとは言わば焼き斬る兵器である。
焼き斬る、の第一段階である【装甲を焼く】が完了する前にブレードを離しては無意味なのだ。
一定以上当て続ける必要がある、それがレーザーブレードである。
一方の実刀ブレードは、大剣やサーベル、戦斧にハルバードと、中世時代に発展した物が最注目され始めた物だ。
特徴として、切れ味が充分であれば、場合によってはレーザーブレードの第一弾階を完了する前、或いは全段階を完了する前に切断する事が可能である。
無論、切断に要する時間はレーザーブレードの方が優勢だが、此方には運動エネルギーが関わって来る。
つまり、高速で突っ込みながら斬り去る事が出来れば、切れ味と強度が許す限り重装甲型に対しても充分以上の攻撃力を発揮出来る訳だ。
高速強襲を戦法とするレイヴンには高速接敵からの離脱の一撃離脱に、より意味を持たせる事が出来、近距離戦での重装甲なACを相手にしても、被弾率自体を引き下げる事が実現するので、非常に有意義な武器である。
欠点は刃毀れしたら、現状確保出来ている職人が大和に数名だけである点だろう。
「剣豪の時代に、かんぱ――」
「――食堂にアルコールを持ち込むなッッ!!」
「「うへぇ!?」」
「何度言ったら分かるんだ。
事あれば酒を持ち込み、その度に説教しては口噤まず!
お前等如何言うつもりだ!!」
「ちょっと位良いじゃないですか」
「よかねぇっ!」
「何で」
「体調管理だ、何回言わせるんだ貴様らぁああッッッッッ!!!!!!」
(頼むから怒鳴るなよ、頭が痛いんだから)
水を飲みながら溜息を吐くエグ。
「あれ、隊長ご飯は?
食べたんですか?」
「あ、ああ…まあな…。
ああ、座るか?」
「あ、じゃあ…」
そう言って三人の隊員が座る。
座った途端、俯せになったエグに隊員達は顔を見合わせた。
「どしたんすか?」
「ちょっとエレンと…」
「ああ、オペさんすかぁ。
あの人が何か?」
「…何か……。
お気に入りのショックライフルを間違って売ったらしくて……」
ショックライフル。
カテゴリ名なだけで、名前はあるのだが、ショックライフルは、あれ一種類しかない。
だから事実上の名前でもある。
「嘘ぉっ!?
それは嫌ですねェ」
「同じ物は出回っているんだけども…。
あれ、初期の高火力型でな。
ミグラントショップでも滅多に並ばないレア装備の一つなんだよ。
弾は今と変わらないから弾薬代が嵩張る訳でもないし…。
でも専用カスタマイズしたりチューンしたりして初速を強めたんだけども…。
ああ、最悪だ…。
鬱になりそう…」
「ショックライフル一丁で凄い落ち込み方ですね」
「まあ、何気に初めての貰い物だったからな。
エレンも俺程じゃないけど落ち込んでるし」
コップの中の氷を水と一緒に口に含んでガリガリと噛み砕くエグ。
「エレンさんも?」
「あいつに貰ったんだよ、あのショックライフル」
「マジで!?
嫌々、隊長の奴何気に企業の高級品ですよ!?
何万ドルも消し飛んじゃいますよ、レジスタンス側で購入だなんて。
そもそもミグラントショップに並ぶ時点で可笑しいじゃないですか?」
「あれ買ったのアイザックシティなんだわ」
それを聞いた隊員Aはきつねうどんの汁を、Bはコーヒーを、Cは麦茶を吹いてしまった。
「きったな!」
「すみません、余りにも変な事言うんで」
「物凄い爆弾発言ですね」
「寧ろ核爆弾発言ですけど」
咳をしながら隊員Cが訊ねる。
「例のフライトナーズに追われた時ですか?」
「そんな訳ないだろう。
あの時エレン、こっちに居たろ」
「成程」
「では何時?」
レジスタンス・コロニー出身ながら、余りに不自然な流れに彼らは困惑を隠せなかった。
隊員Cの質問にエグは軽く頷いてから答えた。
その話は、企業社会で名を売る、とある大企業に纏わる、エグの壮絶な物語でもあった。
「企業社会ルートを通る物資の値上がりの仕方が異常に加速してるらしいぞ」
ナストロファージの整備中、それを聞いたエグが顔を上げる。
「企業世界で何かあったのか?」
「現場にいるエグさんの方が物知りじゃないの?」
「そりゃ事情はあるしな。
とは言え、知らない事も多い。
謎が多いからな、こっち視点だと」
「ああ、そゆ事ね」
そんな事を言っていると、不意に後ろが気になった。
遠くから微かに聞こえるブースト音を頼りに、音源を探すと、二機のACが模擬戦区域で戦っているのが見えた。
しかし様子が可笑しい。
先程からぶつかり合ってばかりだ。
ブレードの近接戦か、とも思ったが何だかブレード攻撃が多過ぎる気がしてならない―――のではなく、良く見ると『格闘しかしていない』のが分かった。
「おい…あれは何だ?」
「ああ、何か戦ってますね――って、何しれっとコクピットのハッチ解放してるんですか!?」
「ちょっと、様子を見ようかと」
「ああ、そうですか…。
でも駄目です、お願いだから誤解を生む行動を慎んで下さい」
「だって、さっきからブレードで斬ってばかりなんだぞ?
それにレーザーブレードらしかぬ挙動だから…」
「は、はえ?
何言ってるんです、挙動って?」
答えずに頭部カメラの映像機能だけを始動させるエグ。
一旦シートユニットが中に入り込んでハッチが閉まるも、数分すると再びハッチが解放され、それに合わせてシートユニットが外に出る。
「映像をリンクさせる、管制塔に連絡を」
「はい」
ガキン、ガキン!!
二機のACがブレードをぶつけ合う。
腕が腕部バズーカのスカルフォックスは、俗に云う『実刀ブレード』なる物を腕と一体化させた、所謂『デュアルブレード』タイプに換装してある。
只、普通『デュアルブレード』と言えば、レーザーブレードが一体化している物だ。
通常腕部なら、腕に直接付けるハードポイントと手で握る所と最低二か所は確保出来る。
勿論、片腕に二つも装備するレイヴンは、左右のバランスが悪化する事から、火力重視や機体構成上の火力補助、或いは大和市民の若い世代で流行っているロボットゲームから引用されるガチタン等のタイプのAC(そのゲームにACが登場する訳ではない)だけである。
火力補助、火力特化の二つしかない所なら、手持ち式レーザーブレードと腕に直接装着する何らかの火器が普通であり、これを殺してしまう武器腕は構造の簡単さ故に、脆く高火力な物が顔を揃えている。
勿論、デュアルブレードも、それ故に出力伝達に無駄がなく、通常の装着式、手持ち式と比べて効率良くエネルギー波を叩き付けられるが為に、一般的なそれより遥かに高威力なレーザーブレードとして、名を売っているのだ。
それを態々斬る時に攻撃側にも衝撃が伝わり、尚且つ刃毀れしたら装甲兵器相手に碌な攻撃力が発揮出来ない実刀型は、余程腕の良い職人が揃っている所でないと、装備する意味は勿論、そんな物をデュアルブレード化して効率が良くなる筈もない。
相手は軽量二脚の通常軽量腕部、高機動戦を想定して空気抵抗を減らして減った装甲を補う為の多角反射式迎撃砲(コアのミサイル迎撃用機銃のレーザー版で、此方は銃身を持たず、照射装置自体を稼動させる事で角度調整を行うタイプのレーザー機銃の様な物)を胸部に内蔵した軽量なコア、高速で移動する物体や地形を精密に認識する、人で言えば動体視力を高めたタイプの、高速戦闘想定型頭部、そして―――――――――――
―――刃にカバーの付いた日本刀。
ドォウッ!!
脚部に内蔵された特殊機構によって極限迄高められた脚力によって機体が突き進む。
因みにスカルフォックスのデュアルブレードもカバー付きである。
ズガンと爆音染みた足音を轟かせながら、姿勢を低くして飛び込む二脚のAC。
AC本来のモーションデータしかインストールしていないスカルフォックスが攻撃を裁く為、ノーロックモードにして瞬時に薙ぎ払いを開始する。
「ぬうっ!!」
コクピット内でシャドーミラが苦しげに声を出す。
隙を見てはコンソールやコンパターでモーションデータを更新、追加しているのだが、肝心の呼び出し入力を設定出来る程、手が素早く動いてくれない。
何より、気迫が凄まじい。
(何とか攻撃時のダッシュを操作系に組み込めはしたがッッ!!)
機体モジュールユニット表示を確認する。
右肘関節にダメージが増加、危険状態だ。
(限界迄試すとは言われたが、このコロニーは一体何なんだ!!
拙いぞ、これ以上受けきれない!
如何すれば良いんだ!?)
振り下ろしを裁く。
(見えたっ、今だ!)
メインブースターをグラインド出力で噴射、左ブレードを物凄い勢いで突き付ける。
「ぬうううううううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
アスファルトを砕く摩擦、熱で真っ白な煙が立ち込め、周囲を熱風で晒し、視界を遮る。
ガァオン!!
酷い音と共にシャドーミラは衝撃を感じ、右サイドブースターのグラインド噴射で離脱を図る。
『スカルフォックス、右ブレードにダメージ。
使用不可、破壊判定を下します』
そんな声が通信機から聞こえた。
「やられた!?
お、おおお!?」
右サイドモニターを見やる。
煙が不自然に膨れ上がり、陰の背後に発光を発見する。
直後に躍り出た軽量二脚ACが日本刀を構え、オーバードブーストで刀を叩き付けた。
――――――――――――――――ガァアンッッ!!!
「ぬううう、うっ!!」
【コア損傷 右腕部運動制御装置異常発生】
【コア損傷 頭部情報取得接続システム異常発生】
【右腕異常発生】
【左腕特殊兵装異常発生】
次々と異常を告げるアラートが表示される。
【機体ダメージ限界値突破 強制停止 帰還ルートを検索します】
【メインシステム 通常モードに移行します】
夕方、漸く模擬戦の情報を得る事が出来た。
夕食の香りで満たされた食堂と言えば、実刀ブレードの打ち合いの話題で皆魅了されていた。
「剣豪の時代が来た!」
「レーザーブレードじゃ勢い付けても威力変わらないからなぁ。
余り速すぎると火力が発揮出来ない事もあるし」
レーザーブレードとは言わば焼き斬る兵器である。
焼き斬る、の第一段階である【装甲を焼く】が完了する前にブレードを離しては無意味なのだ。
一定以上当て続ける必要がある、それがレーザーブレードである。
一方の実刀ブレードは、大剣やサーベル、戦斧にハルバードと、中世時代に発展した物が最注目され始めた物だ。
特徴として、切れ味が充分であれば、場合によってはレーザーブレードの第一弾階を完了する前、或いは全段階を完了する前に切断する事が可能である。
無論、切断に要する時間はレーザーブレードの方が優勢だが、此方には運動エネルギーが関わって来る。
つまり、高速で突っ込みながら斬り去る事が出来れば、切れ味と強度が許す限り重装甲型に対しても充分以上の攻撃力を発揮出来る訳だ。
高速強襲を戦法とするレイヴンには高速接敵からの離脱の一撃離脱に、より意味を持たせる事が出来、近距離戦での重装甲なACを相手にしても、被弾率自体を引き下げる事が実現するので、非常に有意義な武器である。
欠点は刃毀れしたら、現状確保出来ている職人が大和に数名だけである点だろう。
「剣豪の時代に、かんぱ――」
「――食堂にアルコールを持ち込むなッッ!!」
「「うへぇ!?」」
「何度言ったら分かるんだ。
事あれば酒を持ち込み、その度に説教しては口噤まず!
お前等如何言うつもりだ!!」
「ちょっと位良いじゃないですか」
「よかねぇっ!」
「何で」
「体調管理だ、何回言わせるんだ貴様らぁああッッッッッ!!!!!!」
(頼むから怒鳴るなよ、頭が痛いんだから)
水を飲みながら溜息を吐くエグ。
「あれ、隊長ご飯は?
食べたんですか?」
「あ、ああ…まあな…。
ああ、座るか?」
「あ、じゃあ…」
そう言って三人の隊員が座る。
座った途端、俯せになったエグに隊員達は顔を見合わせた。
「どしたんすか?」
「ちょっとエレンと…」
「ああ、オペさんすかぁ。
あの人が何か?」
「…何か……。
お気に入りのショックライフルを間違って売ったらしくて……」
ショックライフル。
カテゴリ名なだけで、名前はあるのだが、ショックライフルは、あれ一種類しかない。
だから事実上の名前でもある。
「嘘ぉっ!?
それは嫌ですねェ」
「同じ物は出回っているんだけども…。
あれ、初期の高火力型でな。
ミグラントショップでも滅多に並ばないレア装備の一つなんだよ。
弾は今と変わらないから弾薬代が嵩張る訳でもないし…。
でも専用カスタマイズしたりチューンしたりして初速を強めたんだけども…。
ああ、最悪だ…。
鬱になりそう…」
「ショックライフル一丁で凄い落ち込み方ですね」
「まあ、何気に初めての貰い物だったからな。
エレンも俺程じゃないけど落ち込んでるし」
コップの中の氷を水と一緒に口に含んでガリガリと噛み砕くエグ。
「エレンさんも?」
「あいつに貰ったんだよ、あのショックライフル」
「マジで!?
嫌々、隊長の奴何気に企業の高級品ですよ!?
何万ドルも消し飛んじゃいますよ、レジスタンス側で購入だなんて。
そもそもミグラントショップに並ぶ時点で可笑しいじゃないですか?」
「あれ買ったのアイザックシティなんだわ」
それを聞いた隊員Aはきつねうどんの汁を、Bはコーヒーを、Cは麦茶を吹いてしまった。
「きったな!」
「すみません、余りにも変な事言うんで」
「物凄い爆弾発言ですね」
「寧ろ核爆弾発言ですけど」
咳をしながら隊員Cが訊ねる。
「例のフライトナーズに追われた時ですか?」
「そんな訳ないだろう。
あの時エレン、こっちに居たろ」
「成程」
「では何時?」
レジスタンス・コロニー出身ながら、余りに不自然な流れに彼らは困惑を隠せなかった。
隊員Cの質問にエグは軽く頷いてから答えた。
その話は、企業社会で名を売る、とある大企業に纏わる、エグの壮絶な物語でもあった。
13/05/23 20:28更新 / 天