連載小説
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謎のAC OK
 地下トンネルの少し開けた所。
無論、『少し』とは飽く迄ACの搭乗時での感覚であって人からすれば、かなりの広さであるに違いのない場所だが、しかし其処はレジスタンス・コロニー所有プラントの最終防衛ラインとして建造されたエリアである。
現在、企業に制圧されたプラントだが、その広場で激闘を繰り広げる一機のACがいた。
『何なんだ、この動きは!!』
 MTの真横を一閃する様に通過する白い影。
瞬時に右腕が破壊される。
 ACだ。
これ以上やらせん、とばかりにMT達が攻撃を加えるが、凄まじい動きで移動するACに斜線移動が間に合わず、気付けばトップアタックで撃破される始末さえ発生し始めた。
「何事だ!?」
司令官が駆け付ける。
眼前に広がるのはMTの残骸ばかり。
「司令官、車両を移動させます。
迎撃体制を取るので、戦闘用ブリッジへ移動して下さい」
「…ぬう、司令とは名ばかりだな…!!
…!!!」
苛立ちを隠さぬまま、移動する司令官。
それを見逃す筈がない。
 独特の吸引音、その直後、正面から弾丸が降り注ぎ、大型車両を破壊する。
余りにも護衛の無視が過ぎる行動に、重MT部隊でさえ一瞬思考の一切が消し飛んでしまった。
 直後、被弾。
MTパイロットが悟る。
(この熱、リボルバーなのか!?)
一瞬にして内部温度が限界を超え、過負荷によりジェネレーターが故障し、機能停止してしまうMT。
倒れ込んだ機体から電流が流出し、様々な個所が爆発し、あっと言う間に黒煙の濃さが酷くなる。
 『くっそ!!』
もう一機が二連装キャノンを使うも、ACの速度に付いて行けずに、背後からの被弾により、砲弾が引火、刹那の内に大爆発の中、残骸としてコアユニットが転がった。
 運良く這い出れた司令官の真正面に白い軽量二脚のACが着地する。
当然、ギリギリの高度でブースターを吹かしていたので、熱風が激しかったものの、それ以上に着地時の衝撃に驚いた。
 その次に驚いたのはACの旋回だった。
まるでフィギュアスケート選手の演技の様な回転にさえ見える動き。
その間に作動させていたオーバードブーストが唸りを上げてACを遠くへ投げる様に進ませる。
続く爆音で漸く護衛の重MTが爆発したと気づいた時には、ACは既にプラント内部へ続くゲートを破壊していた。


 ゲートが開いた瞬間、その眼前に陣取っていたACのパイルバンカーにより先頭の味方MTが破壊される等、誰かが思ったのだろう。
そう思い他ない事実が、無慈悲に叩き付けられた。

 ガシャンガシャン、と歩きながらMT達が必死にACを撃墜しようとバルカン砲を乱射する。
旧地下世界全域に水を供給する巨大地下施設だが、此処が建造されたのは旧時代であり、その資金供給の大部分は旧米国、及び日本国であった。
企業時代初期、国家派が大暴れした本拠地であり、未だに国家思想が根強く残っている此処は、企業部隊が侵入する事でさえも、困難であった。
 無論、それは少々昔の事で、地下世界に適応したアームズフォートが開発された暁とした、旧国家思想粛清作戦は企業側の完全な大勝利で幕を閉じた。
しかし、それでも国家思想派は増え続けており、現状企業部隊が長らく居ては地獄であった。
 それでも最近名前を轟かせている若手レジスタンス・レイヴンが行方不明になったのを好機として、大進軍した勢いで、凄まじい勢いで敵を潰せていたのだが、此処の段となって、謎のAC集団に次々と企業部隊が殲滅されているのが相次いだ。
この戦場も、それに例外として爪弾きされる類ではない。
 相手は四脚のACだ。
軽量なのか、陰に残像さえ見えかねない速度で移動しており、バルカン砲の乱射は、ほぼ全てが無駄弾として可笑しい方向へ飛ぶばかりである。
 気持ち悪いとばかりに思う機動。
気付けば振動、目の前に着地した。
それを認識する頃には杭を打ち込まれた後であり、何も出来ずに機体が爆散してしまった。
 ACが上から再び襲い掛かろうとする。
これ以上被害を出す訳には、と意気込んだ隊長が乗る人型MTがブースターの推力で高々と舞い上がる。
専用の大型ライフルを構えて、狙撃する。
 「…消え…えっ?」
当たっていない。
ヒットマーカーの表示は勿論ない。
見ている限りも当たっていない。
が、移動はしていない。
回避運動は微塵もなく、神業の様な動きさえ無く、単純に突き進むのみ。
 『隊長、直線的です!!』
通信と共にACヘ弾丸やロケット弾が飛翔する。
攻撃を妨害されたACが回避する。
好機とライフルを数発発砲する。
が、微塵も当たらない。
「何故だ、標準は完璧だった筈だ!!」
部下の攻撃は避けるのに、自分の攻撃は、そもそも当たらない。
如何云う道理なのか、彼は非常に混乱していた。
「な、何故だ!?」
尚も放つ弾丸に当たって居る様にしか見えないのに、明らかに壁が被弾するばかり。
「何故私が撃つと当たらないんだ!?」
 叫んだ瞬間に、味方MTの撃ったロケット弾が直撃する。
如何見ても、ちゃんと爆発しているし、装甲も吹き飛んでいる。
「この、この、この!!
何故私だけ、私だけ、私だけぇええええええええええええ!!!!!!」
発砲し続けるが、やはり当たる筈なのに当たらない。
 『隊長、攻撃が当たらないのなら下がって指揮を執って下さい!!』
「ぬう、何故お前たちの攻撃が当たって私だけ当たらんのだ〜〜〜〜!!!」
『知りませんよ、調子が悪いだけでしょう!!』
「ぬあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 同時期、コロニー大和。
「お祭り騒ぎだな…――ううぇえっ!?
み、神輿ぃいっ!?」
「み、神輿に半被姿のレイヴン達が…。
担いでるのも、レイヴン…って…何これぇえ!?」
僅かな暇が出来たので、外を出歩いてみれば、夏祭りにさえ匹敵しようか(現在3月)と云わんばかりに迫る規模。
大きな建物には、これでもかと言わんばかりに『大レイヴン祭り』と筆文字でデカデカと書かれている。
「け、結構大和でかいけどさぁ…。
あのぉ…、これ…此処、コロニーなんですけど…」
誰に言う訳でもなく、申し訳なさそうにエグが呟く。
 「いよう、エグさん!!」
「あ、魚屋の。
おじさん、これ、何なんですか?」
「何って大レイヴン祭りだよ」
「あの、その『大レイヴン祭り』って何なんですか?」
エグの質問に対する答えが余りに不明瞭だったので、エレンが訊くと、魚屋の旦那はこう言った。
「レイヴンを祝う祭りだ!」
そう言うと「エグさん来たぞ」と誰彼にも構わず呼び掛ける。
最初は八百屋のおばさんが、次は文房具屋のお姉さんが、その次は一般市民住居に住まう家族が一斉にエグへ振り向く。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
一斉に雄叫びが上がる。
「おい、っちょ、ま――うおおおおあああ!?」
戦闘中、滅多に悲鳴を上げないエグが、大声で悲鳴を上げる。
「助け、ひいっ!?
おま、怖いぞ!
うあああ!?
何なんだ、大和のレイヴンなら俺以外にだっているだろう!
って、お前は第5MT部隊の隊長レイヴンだ――ぬお、最後迄言わせろ!!」


 何が何だか、良く分からない祭りに強制参加させられてしまったエグ達だったが、何とか隙を見つけて脱出する事に成功した。
「ぬう、こう敵が多いと何処に行けば良いんだか………」
 気付くと神社の前に来ていた。
(量子電流端子アクティブフィルター…。
通称『結界』…。
確か、極々小さな粒子に電流を纏わせて、コロニーの周りに配置されてある装置の間を超高速移動して、触れると、それぞれ特有の乱れがあって、それで敵か味方かを判別するんだったな…)
何となく、神社への階段を上り始めるエグ。
(此処は結界の制御施設…。
そして…、天照像…。
 ふふ、こうも大きいコロニーだと、これだけの余裕があるんだな…)
少し前迄大慌てだったのに、と苦笑してしまうエグ。
だが、考えても見れば、大攻撃を受けたと言っても、強靭な壁で守られていない大規模コロニーがある筈がない。
そもそも国家派のコロニーの代表格にすらなり得る旧日本領として――否、日本領として大和市民に認識されている以上、それが日本であれば生半可な防衛力である筈がない。
勿論、米国より遥かにひ弱だが、それは単に比べる相手が違い過ぎる。
それに日本と同じく、国家解体されてしまった影響で、その国民の大半は消えてしまった。
実は国家時代に比べれば、日本の国力が相対的に迫っているのだ。
 が、どちらにせよ企業の前では、どんぐりの背比べでしかなく、それが故にコロニー同盟が結ばれている。
無論、同盟の全てが国家派と言う訳ではないが、国家派の利益は、防衛力の向上であり、非国家派レジスタンス・コロニーは国家派レジスタンス・コロニーの莫大な生産力の恩恵を受けられる為、利害一致しているのだ。
これに関しては国家時代で例えれば、大和を始めとする大規模国家思想レジスタンス・コロニーは先進国、非国家思想の小規模なコロニーは発展途上国なのだろう。
実際には一概に言える訳ではないが、レジスタンス・コロニーの力は軍事力は当然ながら、その第一とすべき最重要能力は生産力なのだ。
それこそ市民よりプラントを防衛した方が結果的に市民の為になるコロニーも多い。
 防衛機構の要、結界であるが、『触れると探知』と云う性質上、レーダーに対するステルス性等知ったこっちゃないとばかりに感知するので、精度は極めて高い。
航空機相手では、そもそも触れる事がないが、陸上部隊――ノーマル等、或いは飛行能力のあるACも知らずの内に探知されるであろう結界は、1メートルも離れれば、あっと言う間に視認不可になり、カメラを通せば同程度の距離であろうと確認不能である。
無論、エネルギー探知が可能であれば、迂回も出来るだろうが、感知エネルギー量は極めて微量で、常温が安定領域なので、熱探知は困難を極める。
 大襲撃後、即座に対応すべきだと同盟間会議にて結論が出た為、各コロニー開発局は、各々の開発能力を全て注ぎ込み、独自の開発品を見せ合い、労力と気合で短期間の内に、結界や、似た様な物を、それぞれ同盟コロニー周辺へ設置した。
この神社も、裏手に制御装置を設ける事になり、一時は市民の反対もあったらしいが、アンタレスが「又、大襲撃されても、碌に撃退する準備を整えられない」と市民を説得して、漸く設置工事が始まったのだ。
工事が終わったのは先週の事である。
 「うん、此処は静かだし、誰も居ないだろう」
そう言って辺りを見回す。
『神社の前』と言っても、実際はコンクリートの崖の上の歩道である。
(エレンと逸れたけど、まあ何時も位に帰れば大丈夫だろう)
飛び降りて僅かな傾斜に足を付けて減速する。
折り返し部分の手摺に両足を叩き付けて両手で握って、アスファルトに降り立つ。
 「なっがい階段だなぁ…」
誰も居はしないが、監視カメラは厳重に監視して居る為、入れば記録に残るだろう。
(考えてみれば、誰も居なくて良い訳ないよな。
監視されまくってる訳だから、当然落ち着く筈もないし…。
かーえろ!)

数日後、新たな仕事が入った。
『作戦説明で既に説明したけど、再確認するね』
「了解」
『今回は、地下トンネルで動きのあった企業部隊に対する偵察よ。
取り敢えず出会い頭に攻撃するのは駄目、同盟機だったら洒落にならないからね、分かってるでしょう?』
エレンの口調は飽く迄エグが事を理解している事を前提としている様だ。
『それと、もう一つ』
「変なACが活動してるんだったな。
こいつに関しては場合によっては撃破せよ、だったか」
『同じレイヴンでも傭兵家業の方なら問答無用で攻撃して来ても可笑しくないからね』
「傭兵は駒って奴か」
『ええ、その可能性の一考ね』
 機体が前に傾くのを感じる。
『そろそろ入口よ、準備して』
「ああ…了解だ。
 システム、戦闘モード、スタンバイ」
『スタンバイ認証 戦闘モードをロードします』
マシンディスプレイ、ウェポンディスプレイ、サイドディスプレイ、サイドモニター、メインモニター、全ての表示更新を確認。
ボードの入力確認。
大丈夫だ。
各部仮想機動モーションユニット、問題無い。
マシンガンとショックライフルの武装認識も普通に起動している。
 レーダー起動開始。
レーダーモニターが点灯する。
『じゃあ…ハッチ解放よ』
ハッチが開き、車輪が大地を踏み締める。
レールが前に突き出し、後ろに移動して来た装置と連結する。
「ナストロファージ、発進準備完了」
謎の行動をするAC集団の意図を確かめるべく、エグは情報にあった地下トンネルの、ある区域へ向かうのであった。
13/03/15 19:42更新 /
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■作者メッセージ
メインブースターで前方向にグラインドブースト出来ると、オーバードブーストの存在意義がなくなる様な…。
しかしダブルブーストは既に実行した気がします。
…これに追加ブースターが加わったら、一体時速何キロになるんでしょうか?
取り敢えず、実験機は骨としか言えないアセンブルで実行した方が面白い結果が出るでしょうね。
只、確実にレイヴン殺しになるでしょうし、それこそグラインドブーストの瞬発力は持続噴射可能なクイックブーストですし…。
其処にオーバードブーストが来たら、速度ゲージは一瞬で満タンでしょう。
…まあ、エネルギーゲージが一瞬で消し飛ぶでしょうから最高速度には達せないでしょうが…。
最近のACはレギュレーションの変更が可能なので、一応大丈夫でしょう。
飽く迄、本作がゲーム化すれば、ですが。

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